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導入事例紹介

鋼材業界に革命!
「ファイバーレーザ+棚システム」の普及が加速

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中厚板の鋼板から切り出した製品(切板)を
回収・搬送する/花村産業(株)(長野県)

構造変化が進む鋼材業界で
「棚システム」の普及が加速

鋼材加工業界の中で、特に中厚板の鋼板(厚さ3mm以上)を切断して提供する「厚板シャーリング」の分野では、大板材(8フィート×20フィート)に対応した「高出力ファイバーレーザマシンと棚システム」の導入が進んでいます。

鋼材加工業界では従来、20~50mの加工テーブルに複数の材料をセットし、発振器を搭載した加工機本体がレール上を移動しながら切断する「自走式」(ガントリー型)のレーザマシンが主流でした。しかし、建築鉄骨需要の低迷、脱炭素化への対応、人手不足の深刻化などにより業界の構造変化が進む中、従来とは異なるコンセプトで開発された「棚システム」のレーザマシンに対する評価が高まっています。

鋼材業界の最大の需要先は、建築鉄骨ファブリケーター(鉄骨ファブ)です。しかし、2023年度の国内の鉄骨需要量は2年連続で減少し、リーマンショック直後の2009年度以来14年ぶりに400万トンを割り込みました。中でも、床面積2000m2未満の中小物件向けは過去15年間で最低を更新しました。さらに、建設業界の慢性的な人手不足と、2024年4月から始まった新労働時間規制の影響により、建築工事や鉄骨需要が停滞するケースも発生しています。

国内の鉄骨需要量の推移 国内の鉄骨需要量の推移 国内の鉄骨需要量の推移

※出典:日本鉄鋼連盟の算出方法により
国土交通省「建築着工統計」から算出

中長期的に見ても、国土強靱化や都市再開発、大規模倉庫・工場・データセンターなどの大型物件が見込まれるものの、中小物件に関しては人口減少に伴う市場縮小が避けられそうにありません。

そうした中で、鋼材業界各社は新たな成長戦略として、
①「加工品」のウエイトを高めて付加価値を生み出すこと
②人手不足が深刻な鉄骨ファブのニーズに応えて2次加工や溶接製缶まで加工領域を広げること
③建築用部材にとどまらず、土木・橋梁・建産機といった新規分野を開拓すること
などを模索しています。

こうした経営課題に対応するための投資対象として、切板生産の生産能力向上、自動化・省力化・スキルレス化、省エネ化、安全性向上などに貢献する「大板材対応・高出力ファイバーレーザ+棚システム」を採用するケースが増えています。

ここからは、大板材対応・高出力ファイバーレーザマシンの活用事例を紹介します。

「倉庫から工場へ」をスローガンに能力増強

花村産業(株)(長野県松本市、花村泰年会長、山本整社長)は1909年(明治42年)に創業して以来、「金属の総合商社」として115年の歴史を積み重ねてきました。

創業当初から金属製品の流通販売事業と回収・リサイクル事業を手がけ、同社の最大の特徴である「循環型」のビジネスモデルを進化・発展させてきました。創業から1世紀超が経った現在も、金属材料や加工品の供給・提案を行う「製品販売事業」と、役目を終えた金属を回収し、再資源化へ向けて適正なルートで流通させる「リサイクル事業」が同社の両輪となっています。

平賀豊常務取締役(左)と草間兵午執行役員所長(右)

平賀豊常務取締役(左)と草間兵午執行役員所長(右)

同社は「倉庫から工場へ」というスローガンを掲げ、2018年頃から積極的な設備投資を行ってきました。

「金属の総合商社」として地域産業へ向け金属材料を流通させる使命を担っている以上、「倉庫」としての機能は欠かせません。しかし、金属の取引相場に翻弄されにくい強靱な企業体質を実現するために、「製品販売事業」に占める「加工品」の割合を高め、「工場」としてより多くの付加価値を生み出していこうとしています。

中核拠点の「市場事業所」では、第8次中期経営計画(2018~2020年度)でオートボーラーを導入し、第9次中期経営計画(2021~2023年度)でショットブラスト、開先加工機、ファイバーレーザマシン「LC-VALSTER-6225AJ」(10kW)のパレットチェンジャー仕様(8段)を導入しました。それと並行して工場内の大幅なレイアウト変更も行い、溶接・製缶も一部の案件で手がけるようになり、足かけ6年で切板加工の一貫生産体制を整えました。

花村産業(株)の本社・市場事業所

花村産業(株)の本社・市場事業所

「LC-VALSTER-AJ」は、導入後15年以上が経過した1台目の自走式CO2レーザマシン(4kW)との入れ替えで、加工スピードは従来機比6~7倍に改善しました。

業務二課の吉沢東彦課長は「LC-VALSTER-AJの総合評価は満点超えの120点」と絶賛しています。

「『LC-VALSTER-AJ』の加工スピードは段違い。更新前の自走式(CO2レーザ・4kW)と比べると体感で6~7倍、2台目の自走式(CO2レーザ・4kW)と比べても2倍くらいで、圧倒的です」(吉沢課長)。

2023年12月に稼働を開始した大板材対応ファイバーレーザマシン「LC-VALSTER-6225AJ」(10kW)のパレットチェンジャー仕様(8段)

2023年12月に稼働を開始した大板材対応ファイバーレーザマシン「LC-VALSTER-6225AJ」(10kW)のパレットチェンジャー仕様(8段)

現在は板厚3.2~25mmの大板(8′×20′)をレーザで加工し、それ以上の板厚はガス溶断機で切断しています。レーザ加工機は「LC-VALSTER-AJ」と自走式レーザ加工機の2台がありますが、「板厚で使い分けるのではなく、できるだけ『LC-VALSTER-AJ』で加工しています。加工速度は約2倍、加工機単独の消費電力量は1/2以下、回収・段取りの頻度も少なくて済むなど、『LC-VALSTER-AJ』で加工するメリットが大きいため、自走式の不稼働時間が発生しても仕方がないという考えです」(吉沢課長)と話しています。

「LC-VALSTER-AJ」(右奥)と自走式CO2レーザ加工機(左手前)

「LC-VALSTER-AJ」(右奥)と自走式CO2レーザ加工機(左手前)

以前は毎週土曜日に3人ほど交代で出勤し、製品回収と材料段取りを行っていましたが、「LC-VALSTER-AJ」の導入後は平日5日間の稼働で十分に間に合ううえ、生産量も増えています。

最近は「LC-VALSTER-AJ」の稼働率を高めるため、機械系部材やブレースシートのように、単価が低くても数量が多い仕事を受け入れ始めました。数が多いリピート品を見込みで計画生産し、製品在庫として抱えることで、棚システムのメリットを生かしながら「LC-VALSTER-AJ」の稼働率を高め、作業者の負荷平準化を図っています。

平賀豊常務取締役は、「『LC-VALSTER-AJ』を導入したのは長野県で初だったこともあって、かなりのインパクトがありました。お客さまや同業者の間でも評判になり、見学したいというお話をよくいただきます。我々としても胸を張って披露できる設備で、当社のPRにもつながっています」と語っています。

“拠点集約”と“事業領域拡大”を推進

(株)シー・エス・ケイ(群馬県邑楽郡千代田町、坂本純一社長)は1981年の創立以来、建築用部材、建設機械・土木産業機械用部材の加工を中心に手がけ、北関東地域でも指折りの「鋼板加工のスペシャリスト」として発展してきました。

製品ウエイトは、スプライスプレートやリブプレートなどの建築用部材が65%、建設機械・産業機械などに用いる機械系部材が約10%、インフラ・土木系部材が10%、残りが「店売り」その他となっています。主力の建築用部材は工場・倉庫・商業施設・ビルなどに用いられ、東京スカイツリーや新国立競技場、大阪・関西万博にも採用されました。

坂本純一社長

坂本純一社長

同社は現在、2025年に現在の本社工場から車で7~8分の場所に新工場を開設する計画を進めています。新工場の敷地面積は6万600m2におよび、群馬・埼玉の大小8拠点を1カ所に集約する一大プロジェクトです。

新工場にはファイバーレーザマシン「LC-VALSTER-6225AJ」のパレットチェンジャー(15段×2列)・TK仕様や自走式ファイバーレーザマシン(20kW)などを導入する予定で、切板の切断から穴あけ、ショットブラスト、曲げ、開先、タップ、切削、溶接製缶まで1カ所で一貫対応できる体制を構築します。

2025年に開設する新工場の完成予定図(CG)

2025年に開設する新工場の完成予定図(CG)

レーザ加工機6台体制を想定しており、レーザ切断だけで月2500~3000トン、プラズマ切断とガス溶断で月2000トン程度の加工量を目指します。これにより、従来は月3400~3500トンだった切板加工量を月4500~5000トンまで引き上げ、2次加工・溶接製缶まで含めたグループ全体の加工量としては月1万トンを目標とします。

2023年秋には新工場開設へ向けた「テスト工場」として、本社・木崎工場の敷地内に厚板加工拠点を新設しました。「テスト工場」にはファイバーレーザマシン「ENSIS-6225AJ」(12kW)のパレットチェンジャー仕様(12段)、オートボーラー、ショットブラストを新たに導入し、様々なデータ取りを行っています。

坂本純一社長は「このまま人口減少が進むと、主力の建築用部材の需要は減少の一途をたどります。そのような中長期の予想のもと、“拠点集約”と“事業領域拡大”を並行して進めています。人口が増えて仕事も増えるなら、拡大成長へ向けて“拠点展開”をする。人口が減って仕事も減るなら、効率化・スリム化のために“拠点集約”をする。仕事が減るなら“事業領域拡大”により新しい仕事を獲得する。方針としては、とてもシンプルです」と語っています。

「本社・木崎工場」敷地内の「テスト工場」に導入したファイバーレーザマシン「ENSIS-6225AJ」(12kW)のパレットチェンジャー仕様(12段)

「本社・木崎工場」敷地内の「テスト工場」に導入したファイバーレーザマシン「ENSIS-6225AJ」(12kW)のパレットチェンジャー仕様(12段)

新しい事業領域として期待しているのは「土木・橋梁・プラントといったインフラ系の分野です。また、人手不足でお困りのお客さまが切り離したいと考えているような付帯工事の部材や細かい案件などを一式で引き受けられる形にしていきたいと考えています」(坂本社長)。

同社が加工する切板の材料はSS材・SM材・SN材・TMC材などで、板厚のボリュームゾーンは9~19mm。現在は、棚システムのレーザマシン3台(ENSIS-6225AJ・ENSIS-3015AJ・LCG-3015)で板厚22mmまでを加工し、25mm以上をガス・プラズマで加工しています。新工場では、棚システムのファイバーレーザマシン3台(LC-VALSTER-AJ・ENSIS-6225AJ・ENSIS-3015AJ)で同じく板厚22mmまで、自走式ファイバーレーザマシン(20kW)で25~32mm、32mm超をガス・プラズマで加工する構想です。

「PCSAW-720」(手前)など3台のバンドソーで鋼板・形鋼を切断する(新田工場)

「PCSAW-720」(手前)など3台のバンドソーで鋼板・形鋼を切断する(新田工場)

「テスト工場」に導入した「ENSIS-6225AJ」の棚システムについては、「加工品質と加工スピードは素晴らしい。ピアスも綺麗で、小径穴も加工できるため、材料歩留りも改善しました。特に、IJP(インクジェットプリンター)による印字の工程が分離しているため、印字している間も加工が止まらないのは大きいです」。

「生産性やランニングコストを考えると、当社にはアマダのレーザマシンが一番合っていると感じます。6mを超える長尺製品や、段取り回数が少なく棚システムのメリットが出にくい厚板は、自走式レーザ・プラズマ切断機・ガス溶断機で加工することになります。加工機それぞれの特性に合った最適な加工を行えるように、『テスト工場』で実際に生産しながら検証を進めているところです」と語っています。

自動化ニーズで「棚システム」の
優位性が高まる

ここで紹介した2社は鋼材業界の構造変化に対応し、「加工品」の供給能力を高めることで戦略的に付加価値改善と受注拡大を目指しています。1次加工(切板)から2次加工(穴あけ・開先・ショットブラスト・曲げ)、溶接製缶までの一貫生産に対応することで、従来顧客からの受注ヒット率を高めながら、新規分野の開拓にも結びつけています。

「棚システム」を採用した高出力ファイバーレーザマシンは、自動化・省力化・スキルレス化に貢献し、長時間連続運転が可能です。また、省エネ性能と安全性能に優れ、材料段取り・製品回収やメンテナンスを1カ所で完結できる点などが高く評価されています。特に、製品回収・材料段取りの頻度が高くなる薄板の製品ほど、材料段取りを自動化するパレットチェンジャーの特性が発揮されます。

人手不足の深刻化に伴い、「棚システム」の普及はさらに加速していくと見られます。さらに今後、TK(テイクアウトローダー)の登場によって切板生産の最大のネックである製品回収の作業を自動化できるようになると、「棚システム」の優位性はさらに高まっていきそうです。

記事:マシニスト出版