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新規開拓と品質向上を実現するハンディレーザ溶接機

ハンディファイバーレーザ溶接機
による溶接作業/(有)田中製作所
急速に普及が進むハンディタイプの
ファイバーレーザ溶接機
ここ数年の間に、板金業界ではハンディタイプのファイバーレーザ溶接機が急速に普及しました。
ファイバーレーザ溶接は、高エネルギー密度で局所加熱を行うため、溶け込みが深く高強度な溶接が可能です。また、仕上がりが高品位で外観品質が求められる筐体やカバーの溶接に適しています。
TIG溶接と比べて母材に対する熱影響が小さく、薄板精密板金の最大の課題ともいえるひずみ(熱変形)や焼けの発生を大幅に抑制できます。溶接後の仕上げ作業(焼け取り・ひずみ取り・ビード仕上げ)の負担を軽減し、生産性向上や溶接作業者のスキルレス化にも貢献します。アルミなどの高反射材、熱伝導率が高い素材の溶接や、融点の異なる異種材溶接にも比較的容易に対応できます。
これまで、ファイバーレーザ溶接機はロボットタイプの方がハンディタイプよりも強い存在感を示してきました。その大きな理由としては2つあります。
①ハンディタイプは安全性の観点から出力が低く抑えられ、加工範囲(対応板厚)が限られる。
②ハンディタイプは溶接ビードが細いため溶接箇所のシビアな密着精度(すき間の少なさ)が求められる。
②の密着精度に関しては、前工程までの高精度加工と、ワークの固定・仮付けを行う作業者の技能が求められるため、導入の障壁となっていました。
しかし、2022年頃からハンディタイプのファイバーレーザ溶接機もキロワット級の高出力化に対応し、導入コストも下がってきました。また、レーザビームを左右に振幅させて、ワーク間のすき間への対応力を高める機能が搭載され、多品種少量生産の板金加工でも十分な実用レベルに達したことで、普及が加速しました。
アマダのハンディファイバーレーザ溶接機「FLW-1500MT」は、定格出力1500Wの高出力発振器を採用し、レーザビームを振幅させる「ウォブリング機構」を搭載しています。これにより幅の広いビードの形成と、安定したフィラー溶接が可能になったことで、すき間への対応力は大幅に向上しました。ファイバーレーザならではの「滑らかな溶接」から「低ひずみで溶け込みの深い溶接」まで、幅広い溶接に対応できるようになりました。
さらに、溶接作業者のスキルレス化に貢献する支援機能も充実しています。材質・板厚・溶接方法(隅肉、フィラーなど)といった溶接条件の設定は、モバイル端末上のアプリから手軽に行うことができます。また、ワークにカーボンノズルを接触させながら溶接を行うため、ノズルギャップのコントロールが容易で、溶接作業者のスキルに左右されにくい安定した溶接が可能です。
ここからは、アマダのハンディファイバーレーザ溶接機「FLW-1500MT」を活用し、成果を上げている3社の事例をご紹介します。
高度なQ,C,D対応が求められる調剤機器に活用
(株)川西金属(兵庫県川西市、井上博行社長)は板金加工から溶接・塗装・組立までの自社内一貫生産と、卓越したQ,C,D対応力を強みに、大手調剤機器メーカーの主力サプライヤーとして発展してきました。
社内で製作した板金部品に、基板・モーター・ハーネスなどの電装品の組付・配線・調整・動作確認・検査まで行い、製造から組立工程まで一貫して対応しています。

井上博行社長
加工材料は鉄系材料とステンレスがおよそ半々。鉄系材料はSECCやSPCCの0.5~3.2mm、ステンレスはSUS304・SUS430の0.3~3.0mmが中心で、フレームなどの製缶部品は板厚12mmまで対応します。薬剤が接触する「薬品経路」などはSUS304、カバーやボックスなどはSECC+塗装かSPCC+めっきが主に用いられます。
デザイン性が重視されるカバー類はR形状が多く、薬品経路や調製エリアは洗浄・清掃のしやすさを考慮して角部をなめらかなR形状に仕上げる必要があるなど、難易度の高い加工が求められます。

「FLW-1500MT」による溶接作業。生産性が3倍に改善した製品もある
高度なQ,C,D対応が求められる調剤機器の仕事を手がけるうえで、とりわけ貢献度が高かった加工設備のひとつとして、井上博行社長はハンディファイバーレーザ溶接機「FLW-1500MT」を挙げています。
2023年3月に導入した「FLW-1500MT」は、調剤機器のカバーなど外観品質が求められる製品の溶接で活躍しています。
井上社長は1年半の使用実績を踏まえ、「素晴らしい性能で、YAGレーザ溶接機とは比べものになりません。生産性は劇的に改善しました。これまでTIG溶接で30分かかっていたのが、FLW-MTだと10分で終わるようになった製品もあります。溶接ビードがなめらかで美しく、焼けやひずみもほとんど発生しないため、仕上げレスで納品できます」(井上社長)と評価しています。

「FLW-1500MT」で溶接した外観品質が求められるカバーの角部(矢印部)
一品一様のダクトの溶接品質を向上
(株)エスピー・クリエーション(宮城県名取市、矢口康夫社長)はダクト設備全般の製造・施工を手がけるダクト設備の専門企業で、公共施設から高層ビル、各種製造工場まで幅広い分野で製造・施工の実績があります。
同社の特長は製造のみでなく、ダクトの設置や配管工事、組立工事や調整・メンテナンスに至るまですべて自社で対応する一貫体制と、きめ細やかな安全対策、技術力の高いスタッフによる施工で、得意先から厚い信頼を得ています。
同社が製造するダクトは基本的にすべて一品一様。加工材料は亜鉛めっき鋼板が70%、ステンレスが30%。板厚は1.0mm前後が中心で0.5~3.0mmに対応します。

池田尚工場長
池田尚工場長は、2023年5月に導入した「FLW-1500MT」について次のように語っています。
「初めて触るマシンでしたが、導入前後のフォローをきちんとしていただけたので問題なく使用でき、想像していた以上の導入効果を感じています。半導体工場のクリーンルームなどで使われるダクトは密閉性や清浄性が絶対条件。接合面にピンホールなどの欠陥があってはいけないので、溶接品質の向上が課題でした」。

「FLW-1500MT」によるダクトの溶接作業
「ファイバーレーザ溶接はTIG溶接と比べて薄物に強く、高密度のレーザ光が速く深く母材に溶け込むため、熱影響が広がらず、ひずみや溶接焼けも抑えられます。エネルギー密度が高く、溶接速度が速いことも魅力でした。『ENSIS-3015AJ』や『FLW-1500MT』を導入したことで、これまで外注していた製品の一部を内製化でき、レーザの受託加工事業も始めました」。

「FLW-1500MT」で溶接したダクトのサンプル
半導体製造装置などの新規分野開拓に貢献
(有)田中製作所(岡山県倉敷市、門田悦子社長)は2022年11月に「FLW-1500MT」を導入し、専用の溶接ブースを新設。精度・品質が要求される半導体製造装置向けの精密板金加工部品や、デザイン・アートなど“一点物”の作品への対応力を高めました。
「10年ビジョン」の一環として、受注変動が少なく安定している医療機器や食品機械、成長産業として期待される半導体製造装置を「目指すべき分野」として設定。同社はそれまで分電盤・配電盤の筐体、農業機械の試作部品、工作機械カバー・部品を主に手がけてきましたが、半導体製造装置などの「目指すべき分野」で求められる±0.1~0.2mmの高精度・高品質な精密板金加工に対応するため、「FLW-1500MT」の導入に踏み切りました。

門田悦子社長
「『10年ビジョン』では次の投資対象としてバリ取り機を設定していましたが、ひずみの発生を抑えて高品質な溶接が可能な『FLW-1500MT』に変更しました。当社の職人の腕がどれだけ良くても、TIG溶接で半導体製造装置向けの精度・品質を安定的に実現するのは容易ではないと判断しました」と門田社長は語っています。

「FLW-1500MT」で半導体製造装置向け精密板金部品などへの対応力を高めた
それと並行して2023年2月には地域に根差した板金工房「瀬戸内板金SQUARE」を開設。「アイデアをカタチに」「欲しいをつくる工房」をコンセプトに、地域の共創施設、オープンイノベーション施設としての活用を目指しています。工房には製品サンプルやCADを設置し、商談スペースとして活用できるほか、「FLW-1500MT」による溶接作業の見学や体験も行うことができます。
今では半導体製造装置向けなどの精密板金加工部品とデザイン板金が合わせて20%超まで増え、同社の主力事業として成長しています。

2023年2月に開設した板金工房「瀬戸内板金SQUARE」
まとめ
ご紹介した3社は、熱変形の小ささや、溶接品質の高さといったファイバーレーザ溶接の強みを生かし、生産性の向上や新規開拓といった成果に結びつけています。ハンディタイプのため一品一様にも、リピート品にもフレキシブルに対応でき、調剤機器、ダクト、半導体製造装置、デザイン・アート関連と業種を問わず活躍する汎用性の高さがポイントです。
また、近年はハンディファイバーレーザ溶接機を協働ロボットと組み合わせる自動化ソリューションも登場し、注目されています。
アマダの「FLW-1500MT+CR」は、ハンディファイバーレーザ溶接機に協働ロボットを実装することで、用途に応じたフレキシブルな使い分けが可能です。リピート率が高くロットサイズが大きい単純形状の製品は協働ロボットで加工し、試作品や単品はハンディで加工するといった使い分けにより、負荷が高くなりがちな溶接工程の平準化に大きく貢献します。
ファイバーレーザ溶接は着実に浸透しており、認知度の高まりとともに図面で「ファイバーレーザ溶接」を指定するケースも増加しています。本格普及の段階を迎え、今後はファイバーレーザ溶接機が板金加工企業にとって必携の設備になりつつあります。

ハンディ溶接機専用 協働ロボット「CR-700W」
記事:マシニスト出版