ベンディングロボットの
進化と活用事例
― 深刻化する
「人手不足」を補う
即戦力
曲げ工程のロボット化が
進む背景
板金加工業界において、曲げ加工の自動化はますます重要な経営テーマとなっています。
長年にわたり職人の勘と経験に依存してきた曲げ工程ですが、技術者の高齢化や若手人材の採用難により、慢性的な人手不足が年を追うごとに深刻化しています。今や「人材確保・人材育成」と「自動化・スキルレス化」は、事業の存続を左右しかねない喫緊の課題といえます。
こうした状況を打破するための「処方箋」として、急速に普及が進んでいるのがベンディングロボットです。
かつてのベンディングロボットは、プログラム作成の手間やハンドリングなどの制約から、「大量生産(量産)向けの設備」というイメージが強く、多品種少量生産の傾向が強い板金加工の現場では限定的な利用に留まっていました。しかし、近年は機械本体とソフトウエアの進化が著しく、状況が一変しています。
多品種少量生産に対応するため、最新のベンディングロボットには、以下のような様々な機能が搭載されています。
[多品種少量に対応する便利機能]
- 加工製品に合わせてロボットのハンドを自動で交換する「自動グリッパー交換装置」(AGC)
- 金型の段取りを無人で行う「自動金型交換装置」(ATC)
- カメラで積載されたワークを自動識別して位置補正を行う機能
- 材料の2枚取りを防ぐ機能
- 各種センシング装置により新規品の立ち上げを支援する機能
- 曲げ角度を自動計測・自動補正する角度センサー
これらの充実した機能の搭載により、これまで人間が手作業で細かく調整していた部分の多くを代替できるよう進化しました。
ベンディングロボット導入のハードルを下げるのに大きく貢献しているのが「専用CAM」の進化です。最新のベンディングロボット用CAMは、金型レイアウトや曲げ順序、ロボットの動作軌跡などを自動生成し、オフラインでのプログラム作成が容易になりました。これにより新規品のロボット化がスムーズになり、多品種少量生産でもベンディングロボットを積極的に活用する企業が増えています。
ベンディングロボットが
もたらす3つの効果
ベンディングロボットは、製造現場に大きく分けて3つの効果をもたらします。
第1に「1人あたり生産性の向上と省人化」です。加工速度だけを見れば、汎用ベンダーを使って手作業で加工した方が速いこともありますが、ロボットの最大の強みは「疲れ知らずで連続稼働ができること」です。夜間や休日を含めた長時間の無人運転を実施することで、手作業と比較しトータルの生産能力が飛躍的に向上します。平日の日中も、ロボットが自動運転している間、オペレーターは別のマシンの操作や次工程の準備、プログラム作成などに専念できるため、人員を増やさずに工場全体の生産量を底上げすることが可能になります。
第2に「スキルレス化による即戦力化」です。これまで熟練作業者の技術・技能が必要だった曲げ加工も、加工プログラムを一度作成してしまえば、経験の浅い作業者でもオペレーションが可能になります。プログラムを呼び出してワークをセットするだけで加工が完了するため、スキルを持たない作業者でも即戦力として活躍できます。
第3に「品質の安定化」です。手作業の場合、作業者の疲労や熟練度によって加工精度にバラツキが生じたり、逆曲げや突き当てミスなどが発生したりします。また、近年は自由形状に切断できるレーザマシンの普及により、外周と曲げ線が平行でない「異形状」の製品が増えています。異形状の製品は、正常な突き当てが難しいため曲げ加工の難易度が高く、手作業では品質のバラツキが発生しやすくなります。しかし、繰り返し精度に優れたロボットであれば、安定した品質で加工することが可能になり、不良の発生や手戻りの解消、溶接や組み立てといった後工程の負担軽減にもつながります。
ここからは最新のベンディングロボットシステムを導入した板金加工企業2社の事例をご紹介します。
小物向けベンディング
ロボットを2台体制に
正幸産業(株)(千葉県佐倉市、中島謙慈社長)は2025年春、電動サーボ式小物ベンディング自動化システム「EGB-6013ARce」とサーボベンディングマシン「EGB-6020e」を導入しました。17年間使用してきたベンディングロボットシステム「ASTRO-100NT」の老朽化に伴う入れ替えで、「ASTRO-100NT」が設置されていたスペースに2台並べて配置しました。現在、曲げ工程のマシンは計13台、ベンディングロボットは「EGB-6013ARce」と「EG-6013AR」の2台体制となっています。

中島謙慈社長
同社は大手アミューズメント機器メーカーの主力サプライヤーとして、クレーンゲーム筐体などの板金部品を自社内一貫生産で手がけています。加工する材料はほとんどが鉄系で、アミューズメント機器関連で使用するSECCが80%程度を占めます。板厚は3.2mm以下が大半で、1.0~1.2mmが中心です。リピート率は80%以上と高く、ロットサイズは単品から数百個、パーツレベルでは数千個のオーダーもあります。

ロボット付きの「EGB-6013ARce」。
加工可能な製品の種類が増え、残業時間の削減に貢献
ボトルネックになりがちだった曲げ工程のロボット化にはいち早く取り組み、これまでは「中物」をターゲットとする「ASTRO-100NT」と、「小物」に特化した「EG-6013AR」を使い分けてきました。今回、「ASTRO-100NT」を更新するにあたっては「中物」に対応する別機種も候補に挙がりましたが、稼働率を考慮して同社のボリュームゾーンにフィットする「EGB-6013ARce」を選択しました。これにより同社の曲げ工程には、「小物」をターゲットとしたベンディングロボットが2台並ぶ格好となりました。

「EGB-6013ARce」(奥)とともにロボットなしの「EGB-6020e」(手前)も導入し、2台持ちで運用
稼働率の上昇により
残業時間が10~15%削減
現在、「EGB-6013ARce」で加工している製品は板厚2.3mm以下の15品目前後で、曲げ工程数は多いもので10工程前後。加工サイズのレンジが異なるため、「ASTRO-100NT」から「EGB-6013ARce」へ移行した製品は3~4品目にとどまり、新たに立ち上げた製品が70%超を占めます。
製品サイズの範囲が広がり、従来のロボットシステム「EG-6013AR」では加工できなかったヘミング曲げも可能になりました。金型ストッカーの収納量やグリッパーの種類が増え、金型配置エリアも10%以上広がったことで、中島社長は「多彩な曲げ加工に対応できるようになりました」と評価しています。
「EGB-6013ARce」のオペレーションを担当する中島大吾さんは「ワイドグリッパーに標準で対応している点は特に大きいと感じます。従来、端部7カ所を「EG-6013AR」で曲げ、製品中央のZ曲げ2工程を汎用ベンダーで曲げていた製品を、「EGB-6013ARce」に移管しました。ワイドグリッパーを活用することで、大きめの製品の“面”の部分を吸着しながら突き当てができるようになり、曲げ全工程を完結できるようになりました」とコメントしています。

「EGB-6013ARce」の立ち上げと
オペレーションを担当する中島大吾さん
中島社長は「EGB-6013ARce」の導入効果について「翌朝までノンストップで稼働する日も珍しくありません。従来の「EG-6013AR」はそこまで稼働することはありませんでしたが、加工する製品の選択肢が広がったことで、日中はこまめな積み降ろしが必要な大きめの製品、夜間は長時間無人運転に適した小さい製品と、状況に合わせた柔軟な使い分けができるようになりました。2枚取りを防ぐアクティブマグネットフローターの機能も優れもので、スケジュール運転が止まりにくくなりました。夜間稼働率も高まったことで、従業員の残業時間は体感で10~15%減りました」と語っています。

「EGB-6013ARce」で加工したアミューズメント
機器部品。ワイドグリッパーで曲げ全工程を
ロボット化できた
初のベンディング
ロボットが即戦力に
(有)諸隈製作所(神奈川県相模原市、諸隈武社長)は2025年12月、電動サーボ小物ベンディング自動化システム「EGB-6013ARce」を導入しました。50トン・1.2mの汎用ベンダーとの入れ替えで、同社初のベンディングロボットにもかかわらず、導入直後からスムーズに稼働を始め、すでに連日フル稼働となっています。
同社の売上構成は、商用車部品が約30%、建築資材・橋梁部品が20~30%で、ほかにも半導体製造装置部品、鉄道車両部品、産業用ロボット部品などを手がけています。加工する材料は、鉄系が約50%、ステンレスが約30%、アルミが約20%。鉄系材料のうち約半分は商用車向けの高張力鋼で、残り半分はSPCCやSPHCなどの一般鋼板です。板厚は0.1~22mmと幅広く、2.3~4.5mmが中心です。ロットサイズは単品から1000個超まであり、平均ロットは100~200個。リピート率は60~70%となっています。

諸隈武社長
約30年前から溶接工程のロボット化を推進し、従業員数15名の規模にもかかわらず、今ではTIG・CO2/MAG・MIG・レーザの4種類・計5台の溶接ロボットを運用しています。長年の経験からロボット活用の意識が全社に浸透しており、新たに導入した「EGB-6013ARce」も驚異的なスピードで立ち上げを果たしました。
導入後2カ月が経過した時点で、諸隈武社長は「『EGB-6013ARce』は、すでに作業者2~3人分の働きをしてくれています。曲げ工程のボトルネック解消が進み、後工程を含めた工場全体の残業時間を10%以上削減できました」と効果を実感しています。

2025年12月に導入したロボット付きの
「EGB-6013ARce」。ボトルネック解消と
異形状曲げの品質安定化に貢献
専用CAMの性能を評価
― 最大の狙いは品質安定化
ベンディングロボットの選定にあたり、諸隈社長は複数のメーカーの機種を比較検討しました。「EGB-6013ARce」を選定した決め手となったのは、専用CAMである「VPSS 4ie ARBEND」の完成度の高さだったということです。
「ロボットを運用するうえで一番大変なのは、ティーチングプログラム。そのため、CAMの性能には特に注目していましたが、ベンディングロボット用CAM『VPSS 4ie ARBEND』の性能は抜群に良いと感じました。操作性が優れているだけでなく、『サイクル生成』(複数工程の曲げ加工データをひとつにまとめる自動プログラム作成機能)の精度が高く、プログラム作成後の手直しが少ないのは魅力でした。ほかのメーカーのCAMも決して悪くはありませんでしたが、現場でいろいろな設定や調整を行う必要がありそうで、オペレーターの負担が大きいと感じました」と諸隈社長は語っています。

「VPSS 4ie ARBEND」の完成度を高く評価。
リモートアクセスにより社外からも
プログラムを作成できる
諸隈社長は「汎用ベンダーで加工できる製品なら、ロボットでも加工できるはず」という考えのもと、板厚・重量・サイズなどの要件を満たす製品のプログラムを順次作成していきました。リピート受注が見込まれれば、ロットサイズが5個程度の製品でも迷わずロボット化を進めました。60~70%を占めるリピート品のうち、70%程度―全体の40%超はすでにプログラムの作成が完了しています。
ボトルネックの解消や残業時間の削減もさることながら、「ロボット化の一番の狙いは、品質の安定化です」と諸隈社長は語っています。
同社では全体的に他社が敬遠するような異形状・複雑形状の製品を多く手がけていますが、中でも主力の商用車部品は特殊な形状が多くなっています。外周と曲げ線が平行でない「斜め曲げ」や、平行でない複数の曲げ線が組み合わさる「ひねり曲げ」といった複雑な曲げ加工が非常に多く、汎用ベンダーでは安定した突き当てが困難です。慎重な作業が求められるうえ、「ひねり曲げ」の製品は手元が少しでもずれると±1.0mm程度の寸法誤差が発生し、穴位置が合わなくなるなどの不良につながります。
「商用車部品の場合、正常に突き当てができる製品の方が稀です。自動車業界特有のプレス成形の発想に基づく設計を、板金加工で実現しようとするため、どうしても曲げ加工の難易度が高くなってしまいます。それをいかに精度良く加工するかがサプライヤーとしての腕の見せ所で、繰り返し精度が高いロボットにより安定加工が可能になったことは当社にとって最大のメリットと考えています」と諸隈社長は語っています。

商用車部品は安定した突き当てが困難な「ひねり曲げ」の製品が多く、ロボットによる品質安定化の効果は絶大だった
ベンディングロボットは
複合的な課題への
戦略ツール
ここで紹介した2社の事例から見えてくる点は、高性能・多機能な最新のベンディングロボットの適用範囲の広さです。加工内容・製品形状・生産数量とすべての面で受け皿が広がり、多種多様な仕事を手がける板金加工業界においても十分な汎用性と実用性を備えるに至りました。
また、両社に共通しているのは、経営トップが自動化の重要性を深く理解し、ロボットの特性に合わせた運用を現場と一体となって推進している点です。その結果として、両社とも工場全体の残業時間を10%以上削減し、働き方改革に貢献する成果を挙げています。
慢性的な人手不足や働き方改革への対応、加工難易度の高まりなどは、中小製造業に共通する構造的な課題です。そうした中でベンディングロボットは、かつてのような単なる省力化ツールでなく、これらの複合的な課題に対応するための戦略ツールとして存在感を高めています。
記事:マシニスト出版
電動サーボ式小物ベンディング自動化システム
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