「生産能力最大3倍」を実現!
複合マシン×自動倉庫が
もたらす現場革命
「複合マシン×自動倉庫」の導入が増加する背景と課題
近年、板金加工業界では、パンチ・レーザ複合マシンと自動倉庫を組み合わせた大規模な自動化ソリューションを導入するケースが目立っています。
その背景には、深刻化する人手不足や熟練技能者の減少、ダイバーシティの推進に伴う「自動化・スキルレス化」への強い要求があります。また、市場環境の変化として、「多品種少量・変種変量生産」への移行や、半導体製造装置関連に代表される「急激な増産要請や受注変動」への柔軟な対応が求められていることも、自動化投資を後押しする大きな要因となっています。
こうしたニーズに対応しようとしたとき、従来の生産体制のままでは、多くの課題に直面せざるを得ませんでした。ブランク工程では、成形加工やタップ加工を別工程として切り離していると、工程間での仕掛り品の滞留や配膳のムダが生じ、現場の負担が増えるだけでなく、全体のリードタイムを縮めることが困難でした。また、素材の材質・板厚が多岐にわたる場合、材料・製品・スクラップの入れ替え作業に多くの時間と労力を要していました。夜間や週末の自動運転を行いたくても材料段取りやバラシ・仕分けがボトルネックとなり、実質的な長時間連続稼働に至らないケースも少なくありませんでした。
「複合マシン×自動倉庫」がもたらす効果
こうした課題に対し、最新の複合マシンと自動倉庫をシームレスに連携させることで、生産能力と生産効率を飛躍的に高めようとする事例が増えています。その具体的な効果としては、主に以下の3点が挙げられます。
1つ目は、「工程統合」による省力化とリードタイムの短縮です。大容量の金型ストレージを備えた複合マシンであれば、「金型段取りレス」で様々な加工に対応でき、レーザ切断・パンチング加工・成形加工・タップ加工を同一機内で完結できます。これにより、金型交換の手間や2次加工の負担を削減し、自動化・省力化・スキルレス化を実現できます。
2つ目は、自動倉庫との連携による「材料段取りレス」と長時間連続運転の実現です。自動倉庫に多種多様な材質・板厚の素材をあらかじめ収納しておくことで、変種変量生産であってもシステムからの指示どおりに素材が自動供給されます。作業者が頻繁にパレットチェンジャーなどを操作して、材料の入れ替えや製品・スクラップの搬出を行う必要がなくなり、稼働率を最大化できます。
3つ目は、テイクアウトローダー(TK)による「バラシ・仕分けの自動化」です。加工後の製品をTKが機外へ搬出し、パレットへ整列・集積することにより、人手によるバラシ作業や仕分け作業を削減できます。また、製品を積載する際にキズ防止用のプラダン(プラスチック段ボール)を自動挿入することで、厳しい外観品質が求められるステンレス製品などもキズレスで安定供給を行うことが可能になります。
ここからは、複合マシンと自動倉庫を組み合わせた自動化ソリューションを実際に導入し、長時間連続運転による生産能力の大幅増強を実現した2社の事例をご紹介します。
複合マシン増設と生産ライン二重化で医療機器部品の増産に対応
(株)斎藤板金工業所(山形県鶴岡市、長南由春社長)は2025年5月、新工場棟の全面稼働を開始しました。主力顧客である大手医療機器メーカーからの増産要請に応え、新たに工場建屋を3棟増築し、ファイバーレーザ複合マシン「ACIES-2512T-AJe」と自動倉庫「MARS(8段6列)」、自動金型交換装置付きサーボベンディングマシン、新型バリ取り機などの自動化設備を導入しました。

長南由春社長(左)と
製造部の齋藤勇部長(右)
それまで、ブランク工程ではパンチ・レーザ複合マシン「EML-3510NT+MARS(8段6列)」が中核設備として活躍してきましたが、主力顧客である医療機器メーカーの増産要請に応えるため、工場建屋の増築と「ACIES-2512T-AJe+MARS(8段6列)」の増設に踏み切った格好です。これにより、同社の工場面積は約1.6倍に広がり、生産能力は2~2.5倍に向上しました。
「ACIES-AJe」導入の狙いについて、長南社長は「まずは増産対応です。EML単独のときと比べて、工場全体の生産能力は大幅に向上しました。内製化により板金加工の外注割合は従来の10~15%から5%以下まで減少し、柔軟な納期対応が可能になるとともに、利益率も改善しました。また、ブランク・曲げの生産ラインを2系統とすることでBCP対応を強化し、機械トラブルが発生しても供給責任を果たせる体制を整えました」と語っています。

山形県鶴岡市の(株)斎藤板金工業所
多品種少量生産における「工程統合」と「長時間連続稼働」
同社は、売上全体の約80%を「精密板金部門」が占め、残りの約20%を祖業である「建築板金部門」が担うユニークな事業スタイルを構築しています。「精密板金部門」の顧客は約20社で、そのうち主力の大手医療機器メーカーからの売上が90%弱を占め、医療機器の筐体や内部部品を手がけています。
製造部の齋藤勇部長は、「ここへきて単月の仕事量が従来比で約2倍のボリュームに増えていますが、それでも製作外注の割合は5%以下にとどまっています。これまでは、曲げ工程数が多く、1ロットあたりの加工時間が長くかかる製品を外部に委託していましたが、それらもすべて内製化できました」と設備投資の効果を語っています。
「ACIES-AJe」も「EML」も自動倉庫「MARS(8段6列)」と連動する自動化仕様ですが、「ACIES-AJe」の導入により「工程統合」と「長時間連続運転」への対応が大幅に向上しました。
「EML」には金型自動交換装置(PDC)を付けていないため、金型段取りを手作業で行う必要がありますが、一方の「ACIES-AJe」は最大300型を収納可能な大容量金型ストレージを装備しており、金型交換が必要になる製品も「金型段取りレス」で加工できるようになりました。

「ACIES-2512T-AJe」と「MARS-2512N(8段6列)」
医療機器の部品には、皿モミやバーリングなどの成形加工が頻繁に求められます。「EML」はマルチタップステーションを備え、タップ加工には対応するものの、金型設置本数が限られることから、成形などの2次加工は別工程で対応していました。それが、多彩な金型を自動で呼び出せる「ACIES-AJe」を導入したことによって、皿モミやバーリングなどの成形加工まで機内で完結できるようになりました。これにより、2次加工エリアの工数が減り、作業者は4名から2名に半減させることができました。
「バラシ・仕分けの自動化」を実現するTKの性能も改善しました。既存の「EML+MARS」のTKはパレット上への「整列」(平置き)のみの対応でしたが、「ACIES-AJe+MARS」のTKは「整列」に加え「集積」(積載)にも対応します。そのため、1枚のパレット上に積載できる製品量が大幅に増えました。
従来ラインのボトルネックだった「金型交換」の自動化、「2次加工」の統合、「製品積載量」の増加を実現したことで、「ACIES-AJe」と「MARS」との連携機能は飛躍的に高まりました。「MARS」の段数・列数が従来の「MARS」と同じであっても、段取りレスの「長時間連続運転」が可能になり、生産能力・生産効率を大幅に引き上げる環境が整いました。

「EML-3510NT」と「MARS(8段6列)」
「『ACIES-AJe+MARS』は今のところ、曲げ工程の処理能力に合わせて毎日23時頃までの稼働にとどめていますが、いずれはさらなる長時間連続運転を行いたいと考えています。現在は、金型交換が必要な製品や、皿モミ・バーリングなどの成形加工が多い製品を『ACIES-AJe』へと優先的に振り分けながら、それ以外の製品も『ACIES-AJe』と『EML』の両方で柔軟に加工できるように加工データの二重化を進めています」と齋藤部長は語っています。
ブランク工程刷新で
半導体製造装置の増産に対応
太洋工業(株)(茨城県日立市、三村泰洋社長)は2023年9月、敷地内に建設した新工場棟の本格稼働を開始しました。新設した「A棟」は建築面積1809m2で、これにより全体の工場建築面積は約25%拡大しました。主力製品である半導体製造装置向け大型筐体の受注が右肩上がりで推移する中、顧客の増産要請に応えるため、ボトルネックとなっていたブランク工程の刷新に踏み切りました。
同社は、「ものづくりの街」茨城県日立市で80年超にわたり地域産業を支えてきた老舗企業で、「板金加工事業部」と「回転保管庫事業部」の両輪体制で事業を展開しています。現在は、各種鋼材の加工・販売を手がける相鐵(株)(茨城県日立市)を中心とした相鐵グループの一員として板金加工と溶接組立の機能を担い、急成長を遂げています。

三村泰洋社長(左)と製造部の生方富士夫部長(右)
現在の売上構成は、大手半導体製造装置メーカー向けの筐体・部品が売上全体の約60%、次いで大手医療機器メーカー向けの装置部品等が約20%を占めています。残りの20%は情報通信機器部品や印刷機器部品、相鐵グループ経由で受注する各種案件となっており、いずれも増加傾向にあります。
三村泰洋社長は「半導体製造装置の市場は、極端なアップダウンを繰り返す従来の『シリコンサイクル』から、AI需要にけん引される右肩上がりの『スーパーサイクル』へと移行し、今後も成長が見込まれます。お客さまからはさらなる増産を求められており、ご要望にいかにしてお応えするかが当面の最重要テーマです」と語っています。

2023年9月に開設した新工場棟(A棟)
生産能力は最大3倍、
段取りレスの
長時間連続稼働を実現
新工場棟(A棟)には、ファイバーレーザ複合マシン「ACIES-2515T-AJ」とファイバーレーザマシン「VENTIS-3015AJ(4kW)」を導入し、自動倉庫「MARS-3015N(12段14列)」と接続。10~20年前に導入したブランク加工マシン3台との入れ替えで、これによりブランク工程の生産能力は最大で約3倍に向上しました。
製造部の生方富士夫部長が機種選定と仕様検討を進めるにあたって重視したのは、段取り作業を可能な限り自動化することで長時間連続運転を実現し、全体の生産性を大幅に引き上げることでした。

「ACIES-2515T-AJ」と自動倉庫「MARS(12段14列)」
段取りレスの長時間連続運転を支えているのが、自動倉庫「MARS(12段14列)」です。それまで使用していたCO2レーザ仕様の複合マシン「ACIES」は8段パレットチェンジャー仕様で、材料4パレット・製品4パレットで運用していました。材料の入れ替えや製品・スクラップの搬出のため、作業者は週末も関係なく対応しなくてはならず、大きな負担になっていましたが、「MARS」の導入により大きく改善することができました。
金型ストレージの収納量も大幅に増えました。従来の「ACIES」は170型でしたが「ACIES-AJ」では300型になり、金型段取りの手間はほぼなくなりました。TKも効果的でした。以前はミクロジョイントで加工するパンチングマシンが多く、バラシやバリ取りに8名ほどの作業者を配置していましたが、今では半分以下の3名で対応が可能になりました。また、ファイバーレーザの採用により、同社が得意とする3.2mm以下の薄板は加工速度・加工品質ともに改善し、後工程のバリ取りの負荷を大幅に削減できました。

共通の「MARS」と連動する「VENTIS-3015AJ(4kW)」
「直近月の稼働時間は1日20~21時間で、稼働率は24時間ベースで86%でした。加工速度と加工品質が向上し、材料段取りと金型段取りを自動化できたことで、生産性が高まるとともに作業者の負担も減少しました。引き続きオペレーションのムダを限界まで削減して1%でも2%でも稼働率を引き上げたい」と生方部長は意気込みを語っています。

半導体製造装置の大型筐体などの溶接エリア
激変する市場環境に
対応するための有力な選択肢
人手不足の深刻化や多品種少量・変種変量生産への移行、急激な受注変動への対応など、板金加工企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
そうした中で、ここで紹介した2社の事例は、複合マシンと自動倉庫の連携により、「工程統合」「金型段取りレス」「材料段取りレス」「バラシ・仕分けの自動化」など、人手に頼ることなく作業者の負担軽減や省人化、スキルレス化を推進し、生産システムの稼働率を最大化させることに成功しています。
変動の激しい市場環境において、複合マシンと自動倉庫を組み合わせた自動化ソリューションは、多様化する顧客ニーズに応え、高い競争力を発揮するための有力な選択肢となっています。
記事:マシニスト出版
複合機と自動倉庫で
実現する現場改革
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