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モノづくり企業の挑戦

板金業界

DXは全社的な“小さな変革”の積み重ね

DX・デジタル化の重要性が急速に高まる

経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」の中で「2025年の崖」の問題を指摘し、「レガシーシステムからの脱却」を訴えて以来、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への対応は、産業界全体の最重要課題のひとつと認識されるようになりました。

「2021年版 中小企業白書」では、新型コロナウイルス感染症の流行を通じて、生産性向上や働き方改革だけでなく、事業継続力強化の観点からも、中小企業における「デジタル化」の重要性が急速に高まっていると分析しています。

※「2025年の崖」
経済産業省が「DXレポート」で提唱した言葉。デジタルトランスフォーメーション(DX)が実現できず、複雑化・老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムが残存した場合、国際競争への遅れや日本経済の停滞などが想定され、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告しました。

DX推進ガイドラインの構成

DX推進ガイドラインの構成
※出典:経済産業省

DX・デジタル化推進の課題

その一方で、中小製造業のDX・デジタル化が多くの課題を抱えていることも事実です。

2020年12月に発表された「DXレポート2」では、中小製造業に限らず「新しいツールを入れればDX」「旧来のシステムを刷新すればDX」といった素朴な解釈がなされている点を問題視。経済産業省の担当者は各種セミナーなどで「これでは従来と何ら変わらない」「レガシー企業文化から脱却し、本質的なDXの推進へ」と訴えています。

野村総合研究所が実施したアンケート調査では、中小製造業にとってのデジタル化推進の課題として、「アナログな文化・価値観が定着している」「組織のITリテラシーが不足している」「明確な目的・目標が定まっていない」が上位を占めています。

デジタル化推進に向けた課題(製造業)
出典:「2021年版 中小企業白書」

※出典:「2021年版 中小企業白書」(2021年4月発表)
原資料:(株)野村総合研究所「中小企業のデジタル化に関する調査」

この調査結果を踏まえ、「2021年版中小企業白書」では、「経営者が積極的に関与することによって、企業全体のデジタル化に向けた “方針”を示し、全社的に推進することが重要」、「デジタル化に積極的に取り組む組織文化の醸成や、業務プロセスの見直しなど、企業自身の組織改革が必要」と指摘しています。

中小製造業にとってのDXとは

「DX」も「デジタル化」も、最終的に目指すところは、生産性を改善し、顧客への提供価値を最大化させ、競争優位性を獲得することです。デジタル技術は、そのための手段にすぎません。「DXレポート2」や「中小企業白書」でも指摘されていますが、“手段”と“目的”の切り分けが不明確なままツールやシステムを入れ替えても、得られる成果は限定的です。
たとえ目的が明確であっても、それが全社に浸透していなくては意味がありません。DX・デジタル化は全社的・組織横断的な取り組みであり、実務者レベルまで主体的・積極的に関わる必要があります。その意味では改善活動や小集団活動に似ており、経営者には“トップダウン”というよりも、方針を示しながら社員の意識付けと動機付けを行う“リーダーシップ”が求められているといえます。

大企業と比べ、資金や人材の面で制約がある中小製造業にとって、DX・デジタル化の推進は容易なことではありません。また、板金企業の経営者からは「何から手をつけたら良いかわからない」「これまで取り組んできたデジタル化と何がちがうかよくわからない」「DXやIoTを謳ったツールやサービスはよく目にするが、具体的な効果がイメージできない」といった戸惑いの声も聞かれます。
しかし中には、汎用的なツールを駆使しながら、または外部のITエンジニアと連携しながら、運用を工夫することでDXが目指す「企業文化やビジネスモデルの変革」まで踏み込む板金企業も現れています。

以下に、デジタル化に取り組み、成功している各企業をご紹介します。

「モノづくりの“見える化”」で得意先や協力工場との信頼関係を強固に

(株)フジムラ製作所(埼玉県川口市、代表取締役:藤村智広氏)は、「ICTを活用した最先端のデジタル板金工場」をコンセプトに掲げ、さまざまな切り口から「モノづくりの“見える化”」を推進してきました。すべてのプロセスでデジタル化とネットワーク化を徹底し、2017年12月には板金企業としてはほとんど例がないISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を取得しています。

事務所の壁面に設えられた大型スクリーンには、工場の各所に設置されたネットワークカメラのライブ映像と、工程管理板 「KAIZEN」 が収集するネットワーク対応マシンの稼働状況がリアルタイムに表示され、事務所に居ながら現場の状況を確認でき、現場と事務所の距離感も近くなりました。

(株)フジムラ製作所 藤村智広社長

(株)フジムラ製作所 藤村智広社長

現場の各工程では、大型モニターにジョブリストが表示され、その日に対応しなくてはならない仕事をひと目で把握できるため、スムーズに作業計画を立てられるようになりました。
ホワイトボード管理やスケジュール表の印刷・掲示といった手間もなくなりました。

すべてのスタッフにモバイル端末を配布し、進捗情報の入力や図面や製品モデルの確認、ビジネスチャットによるコミュニケーションや情報共有にも役立てています。
モバイル端末を通じて取得した進捗・実績情報はST(標準作業時間)に反映され、社内標準価格を確立することで見積りの“見える化”を実現しています。工程ごとの細かな金額までオープンにするスタンスと、根拠が明確でバラツキのない見積りは、得意先や協力工場との信頼関係を強固にしています。

各工程に設置された大型モニター

各工程に設置された大型モニター

たゆまぬ改善でワークフローの最適化を追求

(株)酒井製作所(愛知県豊橋市、代表取締役社長:酒井悠太郎氏)は、2000年に生産管理システム「WILL」を導入して以来、カスタマイズを重ね、情報の一元管理とワークフローの最適化を追求してきました。現在は、プログラム工程と見積り作業のさらなる合理化を目指して、「AIを用いた類似品検索」「RPAによる事務作業の自動化」「完全3次元化」「製造現場のペーパーレス化」を強力に推し進めています。

「AIを用いた類似品検索」は、AIが類似品の図面を瞬時に見つけてくれる仕組みです。導入後、これまでは担当者の記憶頼みで、数十万枚もの図面データの中から日付・得意先・製品名称などを手がかりに類似品を探し出していましたが、AIが代行することによって、属人化から脱却するとともに、プログラム・見積りの工数を大幅に削減することができました。

(株)酒井製作所 酒井悠太郎社長

(株)酒井製作所 酒井悠太郎社長

「RPAによる事務作業の自動化」は、定型的なPC作業を自動化することで人的労力を減らすことが目的です。自社の業務に合わせて自分たちでRPAの“シナリオ”をつくれるようにトレーニングを進め、事務作業全般でRPAを適用できそうな業務をリストアップし、優先順位をつけながら業務改善を進めていこうとしています。

左:My V-factoryの稼働状況一覧 右:パンチ・レーザ複合機の機内映像

左:My V-factoryの稼働状況一覧
右:パンチ・レーザ複合機の機内映像

クラウド技術を採り入れ「雑務」を減らして「実務」を増やす

(株)ヒラノ(千葉県旭市、代表取締役:平野利行氏)は、「情報の一元管理(雑務の削減)」「外段取りの推進(工場外での業務の充実化)」「第2次ロボット化(自動化・無人化)」をテーマに自動化・デジタル化を推進してきました。それと並行して「3Dモデルから始まるDX」をテーマに、クラウド技術を活用することでグループ企業や顧客とつながる仕組みを独自開発。この取り組みにより、日本デジタルトランスフォーメーション推進協会から「モデル事例」として認定されました。

(株)ヒラノ 平野利行社長

(株)ヒラノ 平野利行社長

このうち「情報の一元管理」については以前から取り組んできましたが、2015年以降はクラウド技術を採り入れ、一元管理する情報の対象を生産情報・加工情報だけでなく、会社に必要なあらゆる情報へと拡大しました。クラウドベースの情報管理の仕組み「What’s No」を独自開発し、さまざまなデータをクラウドで保管・共有。キーワード検索やタグなどから、欲しいデータを瞬時に見つけ出すことができるようになりました。
これにより、情報を“探す”“確認する”“整理する”といった「雑務」が減り、技術・管理・事務系スタッフの工数を推計で年間6,000時間削減できたということです。

「What’s No」の画面

「What’s No」の画面

平野社長は「DX・クラウド・IoT・AIといろいろな言葉が飛びかっていますが、これらはあくまで“手法”です。DXとは『雑務』を減らして『実務』を増やすための仕組みだと私は考えています。大げさに考える必要はなくて、当社が『What’s No』で実践しているようなことだと思います」と語っています。

“小さな変革”の積み重ねがDXにつながる

ここで紹介した3社に共通するのは、まず、経営者自身がデジタル技術に対する高いリテラシーを備え、強力なリーダーシップを発揮してDX・デジタル化を推進している点です。これは、プログラマーやITエンジニアとしてのスキルというよりは、デジタル技術の効能や可能性を理解し、その発想や考え方が実務者レベルまで深く浸透していることを意味します。

次に、DX・デジタル化の目的については、見積りの“見える化”や「雑務」の削減といった実現したいことを明確に打ち出していること。また、従来の業務プロセスに合わせて既存のツールを導入するのではなく、目的を実現するために業務プロセスそのものを見直していることも挙げられます。

そして、従来型の大規模アップデートと長期メンテナンスではなく、スモールスタートとスモールアップデートを短いサイクルで繰り返し、小さな成果を積み上げることで変革につなげています。

DXという言葉からイメージするような生まれ変わるほどの劇的な変化を、一度や二度の大型投資で実現するのは現実的ではありません。DX・デジタル化の重要度が増している今こそ、経営者主導による全社的な“小さな変革”を忍耐強く積み重ねていくことが求められています。

記事:マシニスト出版