板金加工業界
「優秀板金製品技能フェア」を
“人材育成”に活用
第34回優秀板金製品技能フェアの審査結果が発表
2022年3月に職業訓練法人アマダスクールが主催する「第34回優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)の選考結果が発表され、厚生労働大臣賞は(株)榛葉鉄工所(静岡県)の「チタンエキゾーストシステム」、経済産業大臣賞は(株)田名部製作所(福岡県)の「サボニウス形風車」が受賞しました。
また、神奈川県知事賞はナサ工業(株)(福岡県)の「METANICALBOX」、中央職業能力開発協会会長賞は(株)ナダヨシ(福岡県)の「プリズム段押し鉢植え」、日刊工業新聞社賞はコンチネンタル(株)(富山県)の「超高真空チャンバー」、日本塑性加工学会会長賞は(有)コタニ(鳥取県)の「溶接なしの曲げ」が受賞しました。
大臣賞を受賞した2作品
大臣賞を受賞した2作品は、いずれも3次元CADで設計され、複雑な3次元形状を含み、高度な技術・技能の融合によって製作されています。
厚生労働大臣賞を受賞した(株)榛葉鉄工所の「チタンエキゾーストシステム」は、「ビードの仕上がりを表面処理などで誤魔化さない製品を作る」というテーマを掲げ、溶接ロボットを使用せず、すべて手溶接で製作しました。
3次元CADでデザイン・設計し、4本のエキゾーストパイプは前後左右のどの方向から見ても交差するように複雑にからみ合っています。青色とシルバーの縞模様が特徴的なエビ管2本は、計104部品で構成されており、着色部には陽極酸化処理を施しました。陽極酸化部は熱を加えることで色が抜けてしまうため、溶接はすべて1パスで、ビード幅を細く均一に仕上げています。仕上げなどは行わず、溶接ビードをあえて露出させ、デザインの一部として生かしています。青色とシルバーのコントラストが美しく、高度な溶接技能とデザインが融合した作品として評価されました。
厚生労働大臣賞を受賞した
「チタンエキゾーストシステム」
経済産業大臣賞を受賞した(株)田名部製作所の「サボニウス形風車」は、フィンランドで考案された垂直軸型の風車「サボニウス形風車」を板金加工で製作しました。3枚の羽根は、3次元CADを駆使してサボニウス形からツイストを加えた形状とし、上下のプレートにきれいに沿うように展開されています。下部に進むほどツイストを大きくし、回転時に軸がブレないよう3枚の羽根を合わせ込んでいます。羽根が回転すると、台座に設置されたLEDが点灯します。
サボニウス形風車を採用した風力発電機は、プロペラ型風車と比べて弱い風でも発電可能で、静粛性に優れ、街中などへの設置に適しているとされています。地域の自然特性を生かして発電し、地域内で消費する「ローカルグリーンエネルギー」用の発電機として期待されています。ツイストした羽根のR曲げの加工技術、滑らかに回転する機構 — 技術と技能が高いレベルで融合した作品として、時代の要請に即したテーマとして評価されました。
経済産業大臣賞を受賞した
「サボニウス形風車」
人材育成プログラムの
一環になっている
大臣賞を含む上位賞を受賞した6社は、過去に大臣賞や上位賞を受賞した経験を持つ「常連企業」3社と、今回初めて上位賞を受賞した「新規企業」3社に大きく分けられます。
複数回の受賞経験を持っている「常連企業」3社は一様に、その企業の人材育成プログラムの一環として板金フェアへの参加を組み込んでおり、人材育成や社員のキャリア形成に必須の課題として位置づけており、「参加することに意義がある」という考えではなく、応募する以上は独自性をアピールして大臣賞を取ることを目指しています。
また、技能検定にも熱心に取り組んでおり、社員の多くが工場板金技能士の資格か溶接技能資格を保有しています。自社のWebサイトには各種資格を持つ社員の人数を開示することによって、会社の技術力、品質管理能力の高さをアピールしています。
会社の財産である人材を
育てるチャンス
経済産業大臣賞を受賞した(株)田名部製作所(福岡県筑後市、田名部淳社長)は、2003年に初めて応募して以降、ほぼ毎年のように板金フェアに参加しています。これまでに厚生労働大臣賞、経済産業大臣賞を3回ずつ受賞したのをはじめ、上位賞を数多く受賞し、唯一「板金技能名人賞」という特別な賞も受賞しています。
従業員数は20名ですが、工場板金技能士(機械板金作業)の特級が3名、1級が4名、2級が7名、所属しています。工場板金技能士(数値制御タレットパンチプレス板金作業)は1級が6名、2級が4名で、板金図面検定も1級合格者が5名、2級合格者が4名となっています。
田名部淳社長は「当社では、板金加工技術に精通した人材がモノづくりに参加しています。社員一人ひとりが持つ高度な技術力により、さまざまな板金製品を高品質に製作することができます。ときにはお客さまに加工のアドバイスなども行います。製造技術者がお客さまとの窓口を担当することにより、的確で迅速なアドバイスが可能です。板金フェアは当社の財産である人材を育てるための貴重な腕試しのチャンス。これからも挑戦していきたい」と語っています。
受賞作品を製作した田名部製作所
富﨑真二係長の溶接作業
日本一を目指して
全社を挙げて取り組む
神奈川県知事賞を受賞したナサ工業(株)(福岡県糟屋郡、長澤貢多社長)は、2010年から板金フェアに参加し始め、厚生労働大臣賞、経済産業大臣賞をはじめ各種上位賞を受賞しています。
長澤貢多社長は「当社には、モノづくりに楽しみを感じて入社する社員が多い。しかし、日々の業務に追われ、その初心から遠ざかってしまうこともあります。そこで、年に一度の板金フェアを『モノづくりの楽しみをみんなが思い出せるイベントにしよう』と考え、参加を奨励しています。2015年には『一塊』となり『上質を追求』するという経営理念を定め、日本一の中小企業になることを目標に掲げました。それ以来、板金フェアへの参加も、日本一を目指して全社を挙げて取り組んでいます」。
「社内でアイデアや参加希望者を募り、その中から毎回2チームを編成、分野ごとにメンバーやチームリーダーを決めて製作に取りかかります。専務や部課長、先輩がアドバイスをしたりしますが、チームメンバーが一丸となって取り組むことで、作品のレベルだけでなく社員のスキル・意識も向上しています。作品が入賞した際には祝賀会で大いに盛り上がります。今では当社にとって重要なイベントのひとつになっています」と、板金フェアに参加する意義と効果を語っています。
受賞を喜ぶナサ工業のチームメンバー
右端は長澤貢多社長、左端は長澤敏光専務
新しい気づきや課題解決のヒントに
中央職業能力開発協会会長賞を受賞した(株)ナダヨシ(福岡県古賀市、植木剛彦社長)は、2005年から板金フェアに応募するようになりました。これまでに2度の厚生労働大臣賞や各種上位賞を受賞しています。
植木剛彦社長は「当社は『素人発想 玄人実行の精神』(素人のように制約に縛られない自由な発想を、玄人の技術で形にしていく)をモットーとし、ステンレスの板金溶接加工を得意としています。3次元CADによる設計からバラシ、展開・プログラム、切断・穴あけ・曲げ、溶接・研磨・組立まで一貫で行えるスキルを持った優秀な社員がいます」。
「そんな社員たちの熟練の技と経験を生かして板金フェアに挑戦することで、新しい気づきがあり、それが課題解決のヒントになることもあります。板金フェアの受賞歴などに裏付けられた高い技術力を使って、世の中の人々に喜びを与えるモノづくりを続けていくことで『お客さまから選んでいただけるサプライヤー』を目指したい」と板金フェアに参加する意義を語っています。
油圧プレスで最適な圧力値を探しながら
成形加工を行うナダヨシの社員
板金業界の人材育成に欠かせないイベント
ここで紹介した3社の場合、作品づくりに関わる社員にとっては大きなプレッシャーになっていますが、自分だけで抱え込むのではなく、上司や先輩に加工の一部を手伝ってもらったり相談に乗ってもらったりすることもあり、社内コミュニケーションの改善にも役立っています。また、互いがライバルとして技術・技能を競うことで、スキルのレベルアップにも貢献しているといいます。
板金フェアは、このように参加する企業の目的や狙いが変化しており、板金業界の人材育成に欠かせないイベントになってきました。板金業界の定例行事として定着することで、業界発展や技術伝承に貢献しています。
記事:マシニスト出版