板金加工業界
外国人雇用による社内活性化事例
2021年10月時点で
172.7万の外国人材が働く
厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」(令和3年10月末現在)によると、2021年10月末時点の外国人労働者数は172.7万人と「外国人雇用状況の届出」が義務化された2007年以降で最多を記録しました。
ただし、外国人労働者数の増加ペースは、新型コロナ感染拡大防止のための入国制限により、前年比で0.2%増と2年連続で大きく減速しました。
在留資格別にみると、「特定活動」は前年比44.7%増、「専門的・技術的分野の在留資格」は同9.7%増、「身分に基づく在留資格」は同6.2%増となりましたが、「技能実習」は同12.4%減、「資格外活動」は同9.5%減となりました。
※出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
(各年10月末現在)
一方、外国人を雇用する事業所の数は、2021年10月末時点で過去最高の28万5080カ所。特に2014年以降は、毎年約2万事業所ペースで増加しています。
※出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
(令和3年10月末現在)
外国人労働者を産業別にみると、「製造業」が最も多く、46万5729人で、外国人労働者全体の27.0%を占めています。次いで「サービス業(他に分類されないもの)」が28万2127人(同16.3%)、「卸売業、小売業」が22万8998人(同13.3%)、「宿泊業、飲食サービス業」が20万3492人(同11.8%)の順となっています。
※出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
(令和3年10月末現在)
外国人労働者の採用による
国籍の多様化
外国人労働者が増えるのに伴い板金業界でも「ダイバーシティマネジメント」が話題を集めています。
ダイバーシティとは多様性のことですが、ビジネスにおけるダイバーシティは、さまざまな人材を採用することによって、多様な働き方を実現するという考え方です。
具体的には、国籍や人種、性別、スキル、知識などさまざまな多様性があります。
これらの中で日本では性別や国籍などが重視されています。
少子高齢化、労働人口の減少により、国内の労働力だけでは補えないところまで来ているので、外国人労働者の採用による国籍の多様化が広まりつつあります。
異なる価値観や文化を持つ労働者がともに仕事をし、多様化が進むことで、働き手の確保という物理的な課題解決のみならず、これまでの価値観にとらわれない対応、発想や想像が期待できるようになってきました。そして、人材の多様化は、ダイバーシティマネジメントという形で企業経営にもさまざまな変革のチャンスをもたらすようになっています。
そこで外国人採用によるダイバーシティのメリットについて、さまざまな成功事例を知ることが大切と考え、2社の成功事例をご紹介します。
ダイバーシティマネジメントと
グローバル化で
さらなる成長を目指す
田中産業株式会社(静岡県三島市、田中公典社長)は、工作機械関連、スチール家具関連、業務用空調・冷暖房機器関連、医療機器などを幅広く行っていて、設計から精密板金加工、粉体塗装、組立までの「ワンストップ対応」を強みに成長を続けています。
2008年、ベトナム人の「技能実習生」を受け入れ始めたことがきっかけとなり、ダイバーシティマネジメントとグローバル化を推進していきました。技能実習生が3年で帰国してしまうことへの懸念から、2010年からはベトナム人の「高度人材」(エンジニア)を採用するようになりました。2019年からは新たに始まった「特定技能」の制度も活用し、今では全従業員65名のうち45%に相当する29名がベトナム人スタッフとなっています。
2011年にはベトナムに現地法人Tanaka Vietnam Co., Ltd. を設立し、現地で塗装・梱包作業に対応するようになりました。ベトナム工場には、かつて同社が受け入れた技能実習生のOBも勤務しています。
田中公典社長
ベトナム人スタッフ29名の内訳は、技能実習生4名、特定技能7名、高度人材18名。主に従事している工程は、プログラム3名、ブランク2名、曲げ5名、スポット溶接3名、溶接1名、塗装7名、組立8名と、全工程にまんべんなく配置されています。
スキルを要する曲げ工程には高度人材を重点的に配置し、ベトナム人5名に対して日本人3名という構成になっています。
外国人労働者の割合が高まると、技術・技能の向上と蓄積が深刻な課題となります。そこで同社は、人事評価制度を刷新し、「技能検定(工場板金技能士)」をはじめとする資格取得を促進することで対応していきました。昇給や手当の対象となる資格は、技能検定(工場板金技能士)、溶接技能者、QC検定、実用英語技能検定(英検)、マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)などで、外国人スタッフの場合は日本語検定も対象になっています。
田中社長は「外国人労働者が多いこともあって、具体的に何をがんばれば評価や昇給につながるか、目に見えるかたちでわかりやすく示す必要がありました」と語っています。
現在、技能検定にチャレンジするのは、主に高度人材か特定技能のスタッフ。同社の技能検定(工場板金技能士)の有資格者は延べ17名で、このうちベトナム人スタッフは4名となっています。
入社12年目のファム・テェ・クオンさんは2019年の技能検定で「数値制御タレットパンチプレス板金作業」の1級を取得。従来はCAD/CAMしか担当していませんでしたが、資格取得をきっかけにブランク工程のオペレーションも兼務、レーザ課長となりました。そしてこの春からは部長に昇進。今後の頑張り次第では取締役も視野に入る立場になりました。
田中社長は「組織も大幅に変え、何人かベトナム人のサブリーダー(課長補佐)も誕生させました。ダイバーシティマネジメントとグローバル化を進めていくうえでは、柔軟かつ強固な組織づくりが不可欠です。」と語っています。
CAD課でSheetWorksを操作するクオン課長
外国人労働者を雇用することで
社内活性化に成功
協和プレス工業株式会社(和歌山県紀の川市、野村壮吾社長)は業務用空調機用板金部品、プレス部品の加工を行っていて、現在は正社員65名、パート社員10名、派遣社員20名の合計95名が働いています。
「人を育て、技術を磨き、日本の未来をつくる」をスローガンに、「日々鍛錬 日々成長」を経営理念に掲げて多品種少量生産、短納期、低価格を目指しています。
そして、人種、国籍、年齢、性別、障がい、文化、価値観、ライフスタイルの違いを乗り越えて社員ひとり一人が活躍できる職場を目指したダイバーシティマネジメントを追求しています。
同社の外国人労働者(技能実習生、特定技能以外を含む)の受け入れは1996年に一般財団法人海外産業人育成協会(AOTS)を通して、中国天津から海外研修生を受け入れたのが始まりで、2003年から2012年までは中国山東省から毎年2名前後の技能実習生を受け入れました。
2013年にはベトナム、2014年にはタイからそれぞれ2名の技能実習を受け入れ、2017年にはタイからさらに2名の技能実習を受け入れ、2018年には技能実習3号、高度人材の雇用を開始。
2020年からは特定技能の雇用を開始し技能実習からの切り替えを行っていきました。
野村壮吾社長
現在の外国人労働者の受け入れ先は技能実習は中国、タイから、特定技能はタイ、インドネシアから、このほかに高度人材をフィリピン、スリランカ、ミャンマー、ウズベキスタン、中国などから受け入れ、全従業員95名に占める外国人労働者の割合は26%を占めています。
同社が外国人労働者を受け入れることを決断した理由について野村壮吾社長は、「取引先が中国、アジアへ生産拠点を移転し始めたことで、当社も海外とのつながりを構築する必要性が生じてきました。また、外国人に技能を伝承することで日本人社員のスキルアップにつながると考えました。さらに企業としての社会貢献で、専門知識を備えた人材の育成や、アジア諸国の発展に貢献するグローバルなパートナーシップの可能性を考えました」と語っています。
2020年から特定技能の在留資格を持つ外国人労働者を受け入れたのは、技能実習から継続して雇用できるからです。日本語の知識、実務経験があるのでコミュニケーションが取りやすく、職場にもすぐに馴染めます。
特定技能1号であれば5年延長できるので中長期的な雇用が見込めるので任せられる仕事の範囲が広がりました。
これまでは金型交換は日本人の熟練作業者が行っていましたが、作業手順書を多言語で作成し、作業の標準化を行うことで、金型の取り付け、取り外しを任せることができるようになりました。
野村社長は、「彼らは勉強熱心で向上心も高いので日本人社員にも良い刺激となっています。さらに海外とのつながりができ、人材採用や海外拠点づくりに役立っています。また、異文化と交流ができるので経済の流れを新たな視点で見ることができ、視野が広がりました」と語っています。
その一方で「言語、習慣の違いでミスコミュニケーションが起きることがあります。また、在留資格によって就労できる内容に制限があるため、在留資格申請、期間更新の手続きも必要になります」と、課題も指摘されています。
現在、同社は外国人労働者に対しても資格取得支援制度を設け、工場板金技能士検定、ビジネスキャリア検定の受検手数料を会社が全額負担しています。資格取得の際には「お祝い金」、資格取得後は手当を支給しています。日本語検定の検定料も会社で負担しています。さらに、受検する社員には就業時間後に社員同士の勉強会を実施し、資格取得のサポートを行っています。
管理部の野村侑加部長は、外国人労働者の定着に向けて次のように語っています。
「日本では人手不足がますます深刻化していくため、外国人材の活用が重要になります。すべての従業員がやりがいをもって働ける職場―ダイバーシティ企業を目指すことが必要になります。“強制”するのではなく、“共生”して仕事をする。そして、ともに成長できる職場を作っていくことが必要です」。
工場板金技能士2級に
合格した外国人労働者
ダイバーシティーマネジメントを
推進する真の狙い
成功事例をみてもダイバーシティを推進する背景には少子高齢化による労働人口の減少とグローバル化があり、その帰結として、女性と外国人材活用の必要性が語られています。しかし、「人手不足だから仕方がない」という消極的なスタンスでは、決してうまくいかなかったと思います。積極的な動機がなければ、誰も力を合わせて困難な目標に向かおうとはしません。
2社の事例を見ると、ダイバーシティとは異質な人材同士が共に働くことで化学反応を起こし、様々なアイデアや、社員やコミュニティに新たな絆が生まれることで企業内にイノベーションを起こし、それによって企業の成長と個人の成長を実現しようとしている狙いがあると思います。
これからの企業経営者は、多様な人材を活かすという企業風土づくりを目指すことが必要になっています。
記事:マシニスト出版