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モノづくり企業の挑戦

板金加工業界

「ものづくり女子」の活躍
~ 女性の力を引き出し活性化につなげる ~

2022年度版「女性版骨太の方針」
を閣議決定

1999年に制定された男女共同参画社会基本法第2条で「男女共同参画社会」は、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」と規定されています。

2001年には内閣府に「男女共同参画局」も設置されました。また、2014年の閣議決定で、様々な状況に置かれた女性が、自らの希望を実現して輝くことにより、日本の潜在力である「女性の力」が十分に発揮され、社会の活性化につながるよう、内閣に「すべての女性が輝く社会づくり本部」が設置され、女性も男性と同じ様に、意欲に応じてあらゆる分野で活躍できる社会を目指すことになりました。

さらに、女性活躍・男女共同参画の取り組みを加速するために、毎年6月をめどに「女性版骨太の方針(女性活躍・男女共同参画の重点方針)」が閣議決定されるようになりました。

男女間賃金比較(男性の給与に対する女性の給与の比率) 男女間賃金比較(男性の給与に対する女性の給与の比率) 男女間賃金比較
(男性の給与に対する女性の給与の比率)

出典:厚生労働省 令和3年賃金構造基本統計調査

個性と能力を十分に発揮できる
社会の実現

「女性版骨太の方針2022」では「⼈⽣100年時代を迎え、⼥性の⼈⽣と家族の姿は多様化しており、もはや昭和の時代の想定が通⽤しない」として、「第5次男⼥共同参画基本計画」を着実に実⾏するために、「女性の経済的な自立を目指す取り組み」、「⼥性が尊厳と誇りを持って⽣きられる社会の実現」を進める一方で、男性の育児休業取得の推進など、男性が子育てに参画しやすくなるための環境整備も行っていくとしています。

こうした国の政策の影響もあって、ものづくり現場への女性の参画や職域拡大が、2000年以降から着実に進んできています。昭和の時代をはじめとして2000年以前の認識では、ものづくりは「男の仕事」と考えられ、男子の役割・女子の役割など、「性別」によって働き方が決められてしまう傾向がありました。

しかし、SDGsの目標のひとつ「ジェンダー平等」では、社会的・文化的につくられた性別を問い直し、すべての人の人権を尊重し、責任を分かち合い、性別に関わりなく、その個性と能力を十分に発揮できる社会を目指すことが求められています。

雇用者総数に占める女性割合の推移 雇用者総数に占める女性割合の推移 雇用者総数に占める女性割合の推移

出典:総務省「労働力調査」

板金業界でも製造現場での
女性の活躍が増える

板金業界でもここ数年で製造現場に女性社員が目立つようになってきました。最近では積極的に「ものづくり女子」をアピールする企業も増え、YouTubeチャンネルに動画をアップする企業も複数出てきました。

その様な「ものづくり女子」の一人が2020年度に開催された第33回優秀板金製品技能フェアの「造形品の部」でグランプリを受賞した、「メタルダイオウグソクムシ」を製作した、 (株)スズヒロ製作(静岡県浜松市、前田純子社長)鈑金事業部溶接課の内山麻由さんです。

造形品の部でグランプリを受賞した作品

造形品の部でグランプリを受賞した作品

2017年10月に入社した内山さんは2児の母親で、以前からものづくりや、溶接に興味を持っており、結婚・出産・育児を経験する中でその思いは次第に強くなっていきました。自宅を新築した際に表札の製作を依頼した女性工芸家と出会い、溶接を駆使して作品を製作する様子を見て、溶接への興味はますます強くなったそうです。

そんなときにスズヒロ製作の「溶接工募集!」という求人広告が目に入り、すぐに会社訪問し「OJTで一貫して指導する」と聞いて、その場で入社を決断したそうです。入社後、静岡県シートメタル工業会が主催する講習会に参加して溶接のイロハから金属材料の知識までを座学で学び、溶接の実務は先輩社員から学びました。

作品を製作した内山麻由さん

作品を製作した内山麻由さん

溶接条件はその時々によって変わるために、自分のノートに作業の要点や溶接条件の数値を記録。同じ失敗を繰り返さないように励む中で、半自動溶接からTIG溶接まで、様々な溶接を学んでいきました。半自動の上向き溶接では、溶接中に顔面に火花がスパッターと一緒に降ってくるので最初は不安でしたが、今では溶接面、手袋の完全防備で作業に臨んでいます。そしていつしか、盤筐体の溶接・組立作業をひとりでこなせるまでに成長。頼りになる作業者に成長しました。

前田純子社長に勧められて、地元の浜松市で開催された“溶接女子”の作品を集めた美術展に出展したのが、子どもたちの間で人気があった、海生甲殻類の1種であるダイオウグソクムシです。その後、展示した作品を優秀板金製品技能フェアに出品してグランプリを受賞することができました。

受賞は働く女性の励み

実物の1.5倍のサイズで作品を製作することにし、全長が45cmにもなりました。実寸のスケッチを描き、そこから展開図を起こし、ボール紙でパーツの型紙を製作。それをSUS304・板厚1.5mmの板にあてがって切り出して、古いベンディングマシン「RG-35S」で曲げ、頭の部分は丸みを出すために何度も何度もたたき、カットして修正しました。
足の造形にリアリティーを出すために、微妙な角度の調整に苦労したそうです。溶接は熱ひずみを最小限にするため、細心の注意を払いました。子どもたちにも励まされながら休日出勤も厭わず製作に取り組んだそうです。

「この受賞は当社にとっても非常に意味がありました。製造現場もIoT化、AI化が進み、働き方改革によって生産の仕組みが大きく変わろうとしています。時流に鑑みながら、自社の強みを生かして柔軟に対応していきたい。事業を継承し永続させるためには、変わることをおそれずに進化させていくことが大切です。これからの時代は、製造現場にも女性を積極的に受け入れていく必要があり、内山さんの受賞は働く女性の励みになります。これから内山さんの後を追う“溶接女子”が増えるように努力をしていきたい」と前田社長は語っています。

「ものづくり女子」の動画を
YouTubeチャンネルにアップ

群馬県伊勢崎市にある島田工業(株)(島田 渉社長)は、従業員133名のうち1/3が女性社員で、製造現場では7名の「ものづくり女子」が活躍しています。それぞれが様々な職歴を持ち、前職は美容師だった女性社員が今では「HG-ATC」を使いこなしています。

2015年にファイバーレーザ複合マシン「LC-C1AJ」を導入して以降、同機のオペレーターを担当している寺澤美佐子さんも「ものづくり女子」のひとりです。
同社のYouTubeチャンネルにアップしている「ものづくり女子」の動画では、愛称「マルちゃん」としてMCを務め、製造現場を訪問し、工程別に最新の設備を活用した加工を紹介しています。こうした活動によって社内外に「マルちゃん」ファンが増えています。

「入社以来、先頭工程のブランク工程で『LC-C1AJ』のオペレーターをしているので、後加工の曲げや溶接のことも十分に理解していませんでしたが、『マルちゃん』としていろいろな工程を訪ね、自分がその作業を経験しながら内容を紹介できたので、いい勉強になりました」と、MCとして動画づくりに参加した寺澤さんは笑顔で語っています。

「LC-C1AJ」を担当する寺澤美佐子さん

「LC-C1AJ」を担当する寺澤美佐子さん

「『ものづくり女子』を動画にしてYouTubeチャンネルにアップすることを考えたのはチーム『アンバサダー』です。これは女性社員も参加する社内の有志で活動しているのですが、SNSなどを積極的に活用して、島田工業の活動やサービス内容などを認知してもらうための活動です。島田工業のものづくりの事例紹介をはじめ、動画による会社、自社製品の紹介からイベント出展情報などを積極的に発信しています」。

島田工業のYouTubeチャンネル

島田工業のYouTubeチャンネル

「当社の経営理念は『顧客満足』です。顧客とはお客さまはもちろん、社員、家族、仕入先様、地域の方々など当社と関わるすべての方が『満足』するという意味です。企業とは人を成長させ、人を幸せにする場所です。人が成長するからこそ企業も成長し、そこにいる人たちが幸せになります。当社の『ものづくり』が多くの人の笑顔と幸せに貢献することを願い、『信頼できるひとづくり』『信頼できるものづくり』に励み続けたい。当社は全社員の1/3が女性社員なのですが、男性社員とは目線の異なる提案などがとてもおもしろいと思っています。中でも7名の『ものづくり女子』社員はひたむきで実直に仕事に励んでくれることで、男性社員にも刺激になっており、製造現場の活性化にも貢献しています。『マルちゃん』が私を取材した動画も公開されているので是非見てください」と島田社長は熱く語っています。

行政も「ものづくり女子」
を支援

行政でも、「ものづくり女子」を支援する動きが活発化しています。特に製造製品出荷額が44年連続で全国1位の愛知県では、県が「モノづくり女子」の活躍を紹介する事例集を2017年から発行しています。
また、中部経済産業局は「ものづくり女子の応援サイト」を立ち上げています。

また、埼玉県では、「ものづくり女子交流会」として、既にものづくりの現場で活躍されている先輩女性と、ものづくりに興味がある女性、ものづくりを仕事にしたい女性の交流会を定期的に開催するようになっています。

こうした事例集や応援サイトも参考にしながら、皆さんの企業でも女性が活躍できる環境を整備していくことが必要になっています。

記事:マシニスト出版