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モノづくり企業の挑戦

板金加工業界

新しいビジネスの芽を育てる
「板金製品技能フェア」

表彰式・交流会は
4年ぶりのリアル開催

2023年3月に職業訓練法人アマダスクールが主催する「第35回優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)の選考結果が発表され、厚生労働大臣賞は(株)マツダ(静岡県)の「THE EARTH」、経済産業大臣賞は(株)最上インクス(京都府)の「スリットフィン~自由な伝熱フィン~」が受賞しました。

また、神奈川県知事賞は大田産業(株)(兵庫県)の「バルーン」、中央職業能力開発協会会長賞は(株)三輪工業(福島県)の「珠」、日刊工業新聞社賞はシンエイメタルテック(株)(佐賀県)の「星型エンジン」、日本塑性加工学会会長賞は(株)佐藤医科器械製作所(滋賀県)の「Hemming・My way ヘミング・マイウェイ」、海外最優秀作品賞はANTARCTICA EQUIPMENT PVT. LTD.(インド)の「AE-LOCOMOTIVE ENGINE」が選ばれました。

3月18日(土)には「Amada Global Innovation Center」(アマダ・伊勢原事業所)で表彰式と交流会が開催されました。今回は4年ぶりのリアル開催で、計100名以上が参加。参加者からは「2年連続で紙面表彰だったが、やはりリアルでの表彰式は特別」「板金フェアの意義や主催者の本気度をあらためて認識した」といった喜びの声も多く聞かれました。

4年ぶりに開催された「第35回優秀板金製品技能フェア」の表彰式の様子

4年ぶりに開催された「第35回優秀板金製品技能フェア」の表彰式の様子

グローバルイベントへと進化

今回は、板金フェアのグローバル化とその影響が今まで以上に明確になりました。
板金フェアは、コロナ禍により開催自体が危ぶまれた第33回(2020年度)から「WEB投票」が採用され、オンラインによる作品の閲覧と投票ができるようになりました。当初は画面上での閲覧・投票に戸惑う声もありましたが、その後も「360°ビュー」の機能を実装するなどブラッシュアップを続け、回を重ねるごとにオンライン化が浸透していきました。

「WEB投票」の「360°ビュー」の画面

「WEB投票」の「360°ビュー」の画面

「WEB投票」によって物理的距離の制約がなくなり、展示会場まで足を運ばなくても応募作品の閲覧・投票ができるようになったことで、投票の利便性が大きく向上しました。遠方の企業の場合、これまでは応募作品の製作者を含め、一般社員が展示会場を訪れることが困難でしたが、「WEB投票」によって地域や立場を超えてすべての応募作品を閲覧・投票できるようになり、文字どおりの「全員参加」が実現しました。

海外企業が日本まで来なくても閲覧・投票できるようになったことは、最大の成果といえるかもしれません。特に、日本に来る機会のない海外企業は出品はできても審査には参加できず、ほかの応募作品にはどんなものがあるかなど、出品作品全体を詳細に知ることが難しかったからです。

今回(第35回)の応募総数215点のうち、国内からの応募は138点(企業124点、学生14点)、海外からの応募は77点(企業72点、学生5点)と多数の応募がありました。その中で海外からの応募の割合は35.8%で、全体の1/3を超えるまでになりました。また投票については、第1段階審査投票数は計864票で、そのうち海外からの一般投票は517票でした。これは前回(第34回)の約1.5倍で、「WEB投票」により全体の59.8%を占めるまでに拡大したといえます。

さらに、今回は「溶接品の部」のグランプリを海外企業のR P Products Pharma Equipments Pvt. Ltd.(インド)が受賞しました。「海外最優秀作品賞」を受賞したANTARCTICA EQUIPMENT PVT. LTD.もインドの企業で、審査委員会の高橋進副委員長(日本大学・特任教授)は「海外でも板金フェアの認知度が高まり、応募作品の技術レベルが向上していることがうかがえる」とコメントしています。

「海外最優秀作品賞」を受賞したANTARCTICA EQUIPMENT PVT. LTD.(インド)の「AE-LOCOMOTIVE ENGINE」

「海外最優秀作品賞」を受賞したANTARCTICA EQUIPMENT PVT. LTD.(インド)の「AE-LOCOMOTIVE ENGINE」

「溶接品の部」のグランプリを受賞したR P Products Pharma Equipments Pvt. Ltd.(インド)の「S・S・SPIRAL ART STRUCTURE」

「溶接品の部」のグランプリを受賞したR P Products Pharma Equipments Pvt. Ltd.(インド)の「S・S・SPIRAL ART STRUCTURE」

これまで日本ローカルの傾向が強かった板金フェアは、コロナ禍を経て、グローバルなイベントへと進化しつつあります。板金フェアの目標・運営方針に掲げられている「板金作品・技能・技術の競争的発展」のフィールドが世界規模に広がることで、今後も板金フェア全体のさらなるレベルアップとプレゼンス向上が期待されます。

対照的な個性を持った2作品が
大臣賞を受賞

こうした大きな変化の中で開催された今回の板金フェアで厚生労働大臣賞と経済産業大臣賞を受賞した2作品は、それぞれ強烈な個性を持った作品でした。

特に、厚生労働大臣賞を受賞した(株)マツダ(静岡県富士市、松田洋一社長)の「THE EARTH」は、とりわけ「技能」(Ability=人の熟練の技)に秀でた作品として象徴的でした。

この作品はスケルトンの地球儀で、微細ファイバーレーザ加工機によってSUS304・板厚0.1mmの板を幅0.25mmの短冊状に切り出し、それをファイバーレーザ溶接機で2本接合して経緯線としています。精度0.1mmで高さ調節ができる治具を製作し、マイクロスコープで倍率40倍の映像をモニターに映し出しながら、手とピンセットを使って加工しています。内部のマントルは銅・板厚0.3mmを切断し、曲げ加工を行った後、溶接しています。ファイバーレーザ加工機、ファイバーレーザ溶接機という最先端の技術を採り入れたことで、きわめて高度な溶接技能がいかんなく発揮された作品です。

厚生労働大臣賞を受賞した(株)マツダの「THE EARTH」

厚生労働大臣賞を受賞した(株)マツダの「THE EARTH」

スケルトンの球体の試作品

スケルトンの球体の試作品

一方、経済産業大臣賞を受賞した(株)最上インクス(京都府京都市、鈴木滋朗社長)の「スリットフィン~自由な伝熱フィン~」は、とりわけ「技術」(Technology=共有可能な知識・手法)に秀でた作品といえるでしょう。

伝熱フィン(ヒートシンク)は従来、アルミの引き抜き加工や切削加工で製作されていましたが、この作品はアルミA1050・板厚0.2mmの1枚板に対して連続したヘミング曲げを行うことで製作しています。縦方向にも横方向にも自由に湾曲させることができ、パイプやモーターなどの曲面にも最適な方向で取り付けられます。加工自体はシンプルな形状の繰り返しですが、独自開発の専用機によって曲げピッチ・曲げ高さを自由に変更でき、多品種を1個からでも生産できる多品種少量生産システムを構築しました。加工難易度や技能というよりも、企画・生産技術の発想・アイデアが優れた作品です。

経済産業大臣賞を受賞した(株)最上インクスの「スリットフィン~自由な伝熱フィン~」

経済産業大臣賞を受賞した(株)最上インクスの
「スリットフィン~自由な伝熱フィン~」

フィンの高さを自由に変更できる

フィンの高さを自由に変更できる

板金フェアが新しいビジネスの
芽を育てる

大臣賞を受賞した2社に共通しているのは、板金フェアへのチャレンジと自社のビジネスを明確に結びつけている点です。

マツダは、経営戦略として自社の強みを「板厚0.5mm以下の超薄板の微細溶接」に定めています。「このレベルの溶接ができるサプライヤーをお客さまが見つけ出すのは難しい」「見つけてもらえさえすれば仕事になる」という判断からプロモーションに力を入れ、展示会への出展やWebマーケティングに取り組み、板金フェアや「Micro加工技術コンテスト」(主催:一般社団法人微細加工工業会)にもチャレンジしてきました。「積極的に参加し、積極的に見てもらう」(松田社長)ことで新しいビジネスに結びつけていこうとしています。

マツダ

最上インクスは「新事業推進部」を発足させ、従来の受託加工ビジネスから一歩踏み出し、「メーカー型ビジネス」の展開に取り組んでいます。今回の受賞作品は、その成果のひとつで、受賞作品と同じ自社開発の専用機で製作している「フォールディングフィン」は、自社商品としてすでに市場へ供給しています。専用機をバージョンアップすることで、板厚・フィンピッチ・フィン高さなどの仕様をさらに広げていくことも検討中で、「今回の受賞を機に、当社が目指す『メーカー型ビジネス』を象徴する商品として育てたい」(鈴木社長)としています。

最上インクス

社員教育はもちろん、新しいビジネスの芽を育てる機能も期待されている板金フェア。今後は、板金フェアのグローバル化とともに、自社の強みとなる技術・技能を「作品」という目に見えるかたちに落とし込み、企業・製品のプロモーションやビジネスへと結びつける動きがますます活発化していきそうです。

記事:マシニスト出版


<主な作品リスト>