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モノづくり企業の挑戦

板金加工業界

「B to C」だけじゃない!
いま脚光を浴びる「B to B」向け自社商品

宇都宮工業(株)が開発した「B to B」の自社商品(遮熱屋根部材)

宇都宮工業(株)が開発した「B to B」の自社商品(遮熱屋根部材)

コロナ禍で急増した「B to C」の自社商品

2020年以降はコロナ禍のもと、中小板金企業が「自社商品」を展開する事例が急増しました。

その大きな要因としては、

  1. ① コロナ禍による受注減で余剰工数が発生
  2. ② 2020~2022年に板金製品と相性が良いアウトドア・キャンプがブームに
  3. ③ エンドユーザーへ訴求するツールとしてSNSの活用が浸透
  4. ④ アマゾン・楽天市場・Yahoo!ショッピングなど大手ECサイトでの取引(出店・利用)が拡大
  5. ⑤ SNS感覚で手軽に作成できるネットショップサービスが普及
などが挙げられます。

しかしその後、コロナ禍の沈静化により本業(受託加工)が忙しくなり、アウトドア・キャンプブームが落ち着きを見せるにつれて、中小製造業の「自社商品ブーム」も下火になっていきました。特に「B to C」向けの自社商品は、本業や人材採用などへの好影響を評価して開発・販売を継続するか、いつの間にか放置されて自然消滅へと向かうか、ほとんどがどちらかのパターンに分かれました。

「自社商品」が「新たな事業の柱」といえるまでに成功したケースは、ほんの一握りといって良いでしょう。

「B to B」や「B to B to C」の自社商品に脚光

しばらくの間、「自社商品」といえば「B to C」を思い浮かべる状況が続いていましたが、これらのブームが下火になってきたことで、2023年頃からは「B to B」や「B to B to C」の「自社商品」に脚光が当たり始めています。

中小製造業が「B to C」の自社商品に取り組むうえで大きな障害となるのは、「ニーズの把握」と「販路の確保」といわれています。受託加工を本業とする中小製造業には、マーケティングやプロモーションの機能が備わっていないことが多く、販売ルートを確立する過程でつまづくケースも少なくありません。そのため、思いつきや自己満足な商品開発に陥りやすく、ひとつのアイテムが成功したとしても、ヒット商品を続けてリリースすることは容易ではありません。販売もスムーズに立ち上げられるのはまれで、直販やECサイトで販売しても知名度不足で埋もれてしまい、逆に代理店や小売店を通そうとすると、卸値が安すぎて原価割れを起こすことがあり得ます。

その点、「B to B」や「B to B to C」の場合は、取引先がニーズを把握しているため、それを開発に反映させることでヒット率が高まります。目標コストも、複雑な計算や調査を行うことなく知ることができます。また、取引先が自ら利用したり、販売を受け持ったりするため、ゼロから販路を開拓する必要もありません。

工業化住宅向け自社商品などを展開

工業化住宅製品や自動車部品の金属プレス加工・板金加工を手がける宇都宮工業(株)(愛知県豊川市、土井昌司)は、持ち前の技術開発力を生かして「B to B」と「B to B to C」の自社商品をいくつも展開しています。

B to B商品の代表格が、集合住宅の生活音を減衰する金具「ミュート」(特許取得済み)です。集合住宅で最もクレームが多いのが生活音トラブル。これまでは生活音を減衰するために防振ゴムが使われてきましたが、可燃性であることや、経年劣化・圧縮に弱いなどの課題がありました。

宇都宮工業(株)の本社事務所・工場。太陽光発電パネルの出力容量は642kW。遮熱シートを施工し、真夏でも空調いらず

宇都宮工業(株)の本社事務所・工場。太陽光発電パネルの出力容量は642kW。遮熱シートを施工し、真夏でも空調いらず

「ミュート」は業界初の金属製で、S字状に曲げた鋼製のバネ板(板厚0.8~1.5mm)と重りを組み合わせた構造。鋼板板バネを重ねるバネ乗数と重りの重量から減衰させたい周波数を計算でき、共振により振動を正確にキャンセルします。金属製のため非可燃性で、経年劣化にも強く、試算によると1㎡あたりの設置コストは防振ゴムの半分以下になります。

「ミュート」は2022年に「超モノづくり部品大賞」(主催:日刊工業新聞社)の「生活・社会課題ソリューション関連部品賞」を受賞。集合住宅の付加価値を高めたい住宅メーカー各社が採用を進めており、さらなる拡販が期待されています。

宇都宮工業(株)の本社事務所・工場。太陽光発電パネルの出力容量は642kW。遮熱シートを施工し、真夏でも空調いらず集合住宅の生活音を減衰する金具「ミュート」(特許取得済み)。同社のオリジナル製品で、住宅メーカーが採用を進めている

集合住宅の生活音を減衰する金具「ミュート」(特許取得済み)。同社のオリジナル製品で、住宅メーカーが採用を進めている

同社はそのほかにも、米国・リフレクティックス社の「反射絶縁材料」を組み込んだ金属製の屋根部材や、ドアの開閉に伴ってドアと床のすき間を自動的に遮断する「旋回ドアのシール装置」(特許取得済み)も開発しています。

薄型遮熱シート「リフレクティックス」を組み込んだ金属製の屋根部材

薄型遮熱シート「リフレクティックス」を組み込んだ金属製の屋根部材

「B to B to C」商品としては、人気音楽ユニットDREAMS COME TRUE(ドリカム)とのコラボレーションで開発した猫用全自動トイレユニット「ネコレット」を皮切りに、ドリカムの公式グッズも手がけるようになりました。これらのグッズはドリカムのツアー会場や公式ECサイトで販売され、好評を博しています。

人気音楽ユニットDREAMS COME TRUEの公式グッズ(写真はゴルフマーカー)

人気音楽ユニットDREAMS COME TRUEの公式グッズ(写真はゴルフマーカー)

そのほかにも、芸能プロダクション向けに所属タレントのプロフィール写真をレーザマーキングしたグッズ、プロバスケットボールチームの公式グッズ、神社・寺院のお守りなど、様々なアイテムを手がけています。

土井社長は「B to Cも良いのですが、自分たちだけで開発してECサイトで販売しても、なかなか成功しません。知名度が低いと販売が伸びず、ひとつ成功しても二の矢、三の矢を放つのが難しい。「B to B to C」商品であれば、あらかじめ販路やマーケットを確立しているお客さまのフィードバックをいただきながら開発・提案し、販売はお任せできます。ニーズにマッチした製品になりますし、売上も見込めます」と語っています。

オール板金構造の「パレットラック」を開発

建設機械部品などの板金加工・溶接・塗装・組立にワンストップで対応する(株)鶴町製作所(茨城県笠間市、鶴町修)は、得意先の要望を受けて、オリジナルの「パレットラック」を開発しました。

左から鶴町梨沙常務、鶴町修社長、高橋大輔工場長

左から鶴町梨沙常務、鶴町修社長、高橋大輔工場長

このパレットラックは溶接レスのオール板金構造で、等間隔にバーリングタップを加工した支柱(特許出願中)に、ビーム・底板・棚板・天板をリベットやボルトで締結します。バーリングタップのピッチ以外は自由に寸法を変えることができ、棚板の枚数や設置位置もフレキシブルに変更できます。一般的な溶接構造のパレットラックと比べてコストは約半分。納期は1/3に短縮できました。

塗装品の積載・運搬に用いる場合は、ワークが接触する部分に低反発・撥水性のスポンジを貼り付けます。その上にワークを置くと自重によって沈み込み、トラック輸送時も簡単には動きません。これまでワークを固定するために行っていたラップ巻きの作業は不要になり、受け取る側もラップを剥ぎ取って処分する手間がなくなります。

2022年に開発したオリジナルのパレットラック(特許出願中)

2022年に開発したオリジナルのパレットラック(特許出願中)

スポンジの有無や、キャスターの有無は選択することができ、フォークリフトやハンドリフターで運べるようにツメの差し込み口もあります。キャスター移動の際に便利な取っ手(意匠登録出願中)を付けることもでき、支柱の脚部はスタッキングが可能な形状になっています。

得意先の評価は上々で、提案した直後に100台を受注。その後もリピート受注を重ね、計300台を納入しました。さらに、同社を訪れた別のメーカーの目にも止まり、別途90台を受注しました。

鶴町修社長は、特許や意匠登録を出願した理由について「他社の模倣を監視するためというよりは、パレットラックを見た誰かが知財を取得してしまい、『当社が開発したのに生産できなくなる』という最悪のケースを防ぐためです」と説明しています。

取っ手も板金製。レーザ加工でスリットを入れておき、最後に手曲げを行う(意匠登録出願中)

取っ手も板金製。レーザ加工でスリットを入れておき、最後に手曲げを行う(意匠登録出願中)

また、今後の方向性について「今後は社内にも導入して、5Sに役立てていくつもりです。工場スペースを節約するため、図書館の集密書架のように移動可能なシステムラックにも挑戦したいと考えています。また、浅い引き出しを付けて、半端な量の材料ストッカーとしても使えないか模索中です。ゆくゆくは外販も視野に入れており、製造物責任を果たすために構造解析ツール(CAE)の導入も検討していきます」(鶴町社長)としています。

2021年1月に本格稼働を開始した(株)鶴町製作所の新工場

2021年1月に本格稼働を開始した(株)鶴町製作所の新工場

「自社商品」の多様化が進む

2020~2022年の「自社商品ブーム」を経て、現在は明確なニーズを把握したうえで開発・製造に専念できる「B to B」「B to B to C」の強みが再認識されています。

華やかさでは負けるかもしれませんが、新たな収益源としての期待や、自社商品をきっかけに新規顧客・既存顧客との取引が拡大する可能性は「B to C」を上まわります。また、「自社商品」を展開している実績や「自社商品」にチャレンジできる環境は、モノづくりに夢を抱く意欲的な若者を引きつけ、既存社員の自信や誇りにもつながります。

その一方で、「B to C to B」や「B to B to B」、自社商品を含むプラットフォーム型サービスのような新たなスタイルを目指すケースも見られ始めています。2024年以降は、中小板金企業の「自社商品」の開発スタンスやビジネスモデルの多様化が、ますます加速していきそうです。

記事:マシニスト出版