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板金加工業界

<SBT第2弾>
小規模事業者にも広がる「SBT認証」と「脱炭素経営」

世の中の環境問題への意識の高まりと、製造業における急速な脱炭素経営の進展に伴い、「SBT認証」取得事例の第2弾をお届けします。

中小製造業の間で
「SBT」の認証取得が急増

中小製造業の間でも「環境経営」を目指し、国際認証である「SBT」(科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標)を取得する動きが顕著になっています。

2024年3月23日時点で、SBTの認証を取得している日本の企業は2023年11月末時点の804社を大きく超え、1496社に。そのうち中小企業は823社(同546社)で、約55%を占めています。2023年11月末から4カ月間で、「SBT認証」を取得している日本の企業は1.9倍、中小企業は1.5倍に急速に増加しています。

特に注目したいのは、これまで「環境経営」や「脱炭素経営」と関係が薄かった従業員数10名以下の小規模事業者の間でも、「SBT認証」を取得するケースが増えていることです。

SBT認証を取得した日本の中小企業の推移(累計)
SBT認証を取得した日本の中小企業の推移(累計)

出典:SBTイニシアティブ

中小製造業の間で「SBT認証」の普及が進んでいる大きな要因のひとつとして、「補助金」が挙げられます。「ものづくり補助金」の「グリーン枠」や、「事業再構築補助金」の「グリーン成長枠」のように、「SBT認証」を取得していることが申請要件になっていたり、「SBT認証」を取得していると審査時に加点されたりすることで、「中小企業版SBT」の認証取得に挑戦する企業が急増しました。

その一方で、「補助金」ばかりではなく、環境問題への意識を高く持つことが、これからの時代を生き残るための必須条件であり、SBTの認証取得が企業価値や従業員満足度を高めることにつながるという認識も広がっています。

早い段階で「SBT認証」を取得し、先行者利益を獲得しようという発想もうかがえます。

大企業を対象とした「通常版SBT」の削減対象範囲は、「Scope1」「Scope2」と呼ばれる自社の排出量に加えて、「Scope3」と呼ばれるサプライチェーンの上流・下流に係る温室効果ガス排出量までが対象となります。すでに「通常版SBT」の認証を取得した大企業が、「Scope3」に該当するサプライヤーに対してSBT目標の設定を求める動きも見せています。この動きは今後さらに加速し、いずれはサプライチェーンの末端まで浸透するとの見方も強まっています。

ここからは、従業員数10名以下の小規模事業者でありながら「環境経営」を目指し、「SBT認証」を取得した事例を紹介します。

顧客の「脱炭素経営」をサポートする

(株)山本工作所(兵庫県神戸市、山本裕太郎社長)は、2023年10月末に「SBT認証」を取得しました。

2023年9月に、アマダが紹介したコンサルタント会社に「中小企業版SBT」認証の取得申請の代行を依頼。基準年である2022年度のCO2排出量46トンを2030年までに42%削減し、26.5トンとする目標を定めました。

SBT認証申請のために算出した2022年の月別CO2排出量
SBT認証申請のために算出した2022年の月別CO2排出量

役員含め総勢6名の小規模事業者で、情報通信機器の周辺機器や鉄道関連機器、現金処理機、医療機器などで用いる精密板金加工部品を生産・供給しています。中でも情報通信機器の大手メーカーとは1970年代後半から取引を続けており、現在も売上全体の30%程度を占めています。

3代目経営者の山本裕太郎社長は、取締役に就任した2014年に「神戸市機械金属工業会」に加入し、45歳以下の若手経営者が業種を超えて親睦と研さんを深める「青年経営研究会」(青研会)に参加。同世代の事業承継者と交流を深めていきました。

SECC・板厚1.2mmで製作したボックス製品

SECC・板厚1.2mmで製作したボックス製品

山本社長は「青研会では補助金の活用にとどまらず、社会・経済・環境など業界を取り巻く課題に関して幅広く学びました。それまで、環境問題に関してはどこか他人事という気がしていましたが、持続可能な社会を目指すためのSDGsや脱炭素経営に中小企業も取り組まなければならなくなるという認識を持つようになりました。しかし、役員を含め6名規模の企業ではどうやって取り組んでいけば良いのか、見当も付きませんでした」。

山本裕太郎社長

山本裕太郎社長

「そんなときに懸念事項のひとつだった『PEGA-344』の更新に関して、2023年9月にアマダの支援により『中小企業版SBT』を取得し、『ものづくり補助金』に新たに追加された『グリーン枠』を使えば、当社の場合、補助限度額が増えると聞きました。それを活用できれば最新のパンチングマシン「EMZ-3510MⅡe」の導入の際の資金負担を軽減できます」。

「また、当社のような小規模な協力工場であっても、いずれは大企業のお客さまから『脱炭素』を目指すよう要請される可能性が高いと感じます。そのため、早い時期に『SBT認証』を取得すれば、環境対策に積極的に取り組む企業であるとアピールでき、しかもお客さまの脱炭素化に貢献できると考えました」。

導入から40年が経過したレジェンドマシン「PEGA-344」は2024年秋に更新する予定

導入から40年が経過したレジェンドマシン「PEGA-344」は2024年秋に更新する予定

「設備の更新ができ、お客さまの脱炭素活動にも貢献でき、社会的責任も果たせる―これは挑戦するしかないと考えました」(山本社長)。

同社は「SBT認証」を受けた後、「ものづくり補助金」の第16次募集に「バリ取り・タップ工程の機械化によるプリンター部品量産体制の構築」というテーマで申請し、無事に採択されました。パンチングマシン「EMZ-3510MⅡe」も契約を進め、2024年9月頃には導入する予定です。

「これからお客さまにも認証取得をご案内し、お客さまの脱炭素への取り組みをサポートさせていただくつもりです。また、これを機に会社のWebサイトを作成し、削減目標の達成度合いを公開していく予定です。補助金だけでなく、環境経営への取り組みも真剣に始めていかなければならないと考えています」(山本社長)。

2018年に導入したレーザマシン「LC-1212αⅤ」による加工

2018年に導入したレーザマシン「LC-1212αⅤ」による加工

脱炭素に不向きだからこそ
挑戦する価値がある

(株)柳田鉄工所(兵庫県神戸市、柳田優社長)は、「役員含め総勢7名の鉄工所」という脱炭素化とは結びつきにくい規模・業種でありながら、「SBT認証」の取得を決断しました。

2023年9月にアマダから「SBT認証」取得の提案を受け、その月のうちに申請準備をスタート。11月1日に申請を完了して、2024年1月に「中小企業版SBT」を取得しました。補助金の獲得は念頭になく、目的はあくまでも「環境問題への貢献」でした。

「中小企業版SBT」の認定証

「中小企業版SBT」の認定証

SBTへの挑戦を決断した経緯について、3代目経営者の柳田社長は次のように語っています。

「お客さま・同業者・仕入先などと接しながら、周囲で環境問題への意識が高まっていることを感じていました。当社としても環境問題に取り組む必要を感じているところへ『SBT認証』取得の提案を受け、迷うことなく決断しました」。

「環境問題への意識を高く持つことは、これからの時代を生き残るための必須条件。『SBT認証』の取得は、企業価値や従業員満足度を高めることにもつながります。個人的にも、これからは色々なかたちで世の中に恩返しをしていきたいと考えていたので、良い機会でした」。

「脱炭素に向かない業種だからこそ、挑戦する価値がある」と語る柳田優社長

「脱炭素に向かない業種だからこそ、挑戦する価値がある」と語る柳田優社長

「鉄工所は脱炭素に最も向かない業種のひとつではないかと思います。しかし、そんなことを言っていたらいつまで経っても何もできません。環境問題への貢献が難しい業種だからこそ、取り組む価値があります。その第一歩として、まずは『SBT認証』取得に取り組んでみたいと思いました」(柳田社長)。

同社が脱炭素化に取り組んだのは、今回の「SBT認証」取得が初めて。これまで得意先から明確な要求を受けたことはなく、同社が自発的に取り組んだ格好です。

同社が手がけているのは、建築物に用いられる「建築金物」や「設備金物」。得意先は大小合わせて約180社にのぼり、全国規模の大手サブコンや鉄道事業者も含まれます。

工場内。左がバンドソー「HK-400」、右が溶接工程。加工する材料は形鋼が80%を占める

工場内。左がバンドソー「HK-400」、右が溶接工程。加工する材料は形鋼が80%を占める

「建築業界の大手のお客さまは脱炭素への意識が高く、そのことを周知もしています。話を聞いていると、当社のような協力会社も脱炭素化に取り組んでほしいと考えていらっしゃるようですが、今の時点では『強くは言えない』という雰囲気を感じます。であれば、私たちサプライヤー側が歩み寄って、要求される前に挑戦することも必要ではないかと考えました。得意先各社への報告はこれからです。仕事が落ち着いたら、いろいろなお客さまのところへ出向いて報告しようと考えています」。

「SheetWorks」で作成した螺旋階段の3次元モデル

「SheetWorks」で作成した螺旋階段の3次元モデル

「排出削減のためにできることは多くありませんが、小さなことからこつこつと取り組むしかありません。まずは節電の習慣を身につけたり、効率の良い配送ルートを組み立ててガソリンの使用量を減らしたりといったことからスタートしていきます。今後、設備投資を検討する際は、省エネ性能も考慮しながら選定することになるでしょう。そのとき、『SBT認証』を取得していることで有利にはたらく補助金があれば、積極的に活用していきたいと思います」(柳田社長)。

「Quattro」によるレーザ加工。今後は省エネ性能も考慮しながら更新を検討していく

「Quattro」によるレーザ加工。今後は省エネ性能も考慮しながら更新を検討していく

脱炭素化への具体的な対応を

ご紹介した2社に共通しているのは、小規模事業者ではあるものの大手企業と直接取引をしており、いずれは顧客の脱炭素化に協力することになると想定している点です。また、金属加工を営む事業者が脱炭素化に貢献する手段として、今後導入する加工設備に省エネ性能を求めるようになっている点です。

これからは「脱炭素化」への対応が、経営戦略や営業戦略、設備投資と切っても切り離せない重点項目になっていきそうです。

記事:マシニスト出版

アマダは、お客さまの脱炭素経営を支援しています。
「SBT認証」の申請から取得までの手続きを、ワンストップでお任せいただけます。

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