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モノづくり企業の挑戦

板金加工業界

企業力が一気にアップ!
中小企業ブランディング
成功ストーリー

企業価値と社員の
ロイヤリティー向上を図る

最近、経営者の方々と話をしていると「企業ブランディング」という言葉を、よく耳にするようになりました。特に多いのが、その企業の社員や取引先、お客さま、地域社会などのステークホルダーに対して、会社が大切にしている価値やイメージを共有することで、会社の魅力や信頼が高まり、企業としての価値が戦略的にアップします。さらに、社員が「この会社で働いていてよかった」と感じるようになり、これにより会社への愛着や誇りが育まれ、総じて企業力の向上につながります。

このように、企業ブランディングを行う目的は、「競合他社との差別化を図ること」と「社員の仕事への誇り、モチベーションアップ」。コモディティー化する市場では価格競争も激しく、製品の機能性や価格といった要素だけではお客さまに製品・サービスを選んでもらうことが難しい現代において、競合他社との差別化を図るための戦略的な取り組みが欠かせません。また、社員の仕事への誇り、モチベーション向上がなければ良い製品は生まれず、自社の製品やサービスをお客さまに評価してもらい、利用してもらうことで売上や業績が向上させることが、企業ブランディングの最終的な目的となります。

具体的な取り組みとしては、企業理念、企業文化、加工設備、加工技術などをブラッシュアップし、会社の価値、イメージを高める取り組みを行います。これらの要素を組み合わせ、あらゆる機会を通して発信します。

最近の成功例として、自社が保有する「技術」をブランド化することで、その価値の認知度を向上させる戦略が目立っています。技術は目には見えにくく、分かりにくいものが多いが、それを価値あるものとしてブランド化することで、その技術が使われた製品に価値を与えることができます。
また、人材の求人面では、自社の魅力を発信し、求職者に対するイメージを向上させる取り組みも盛んに行われています。単にクリーンなイメージを伝えるだけでなく、求職者に「この企業で働きたい」と思ってもらえることが重要です。それとともに、求職者だけでなく、求職者に関係する家族、友人、先生などにもアピールすることも重視されています。

企業ブランディングというと、Webデザインや企業のロゴマークの変更などの部分的な取り組みを行う企業が多く見られますが、表面的な部分を変えるだけでなく、会社の強みや弱みを分析し、ブランドを根幹から見直すことが重要となっています。

しかし、ブランディングは実際には目に見えない価値を伝えるものであり、効果検証がしにくいのが特徴で、「短兵急に効果が表れる」というものではなく、施策によってどのよう指標で効果を確認するのかが重要になります。費用対効果だけで評価すると失敗するケースも多々見られます。

それには、企業ブランディングを行うメリットや進めるにあたっての問題点をあらかじめ理解しておくことが重要です。
ここからは、企業ブランディングに取り組み、成功した企業2社をご紹介します。

働く全員が、仕事に誇りとやりがいを
持てる企業を目指す

(株)創円(愛知県名古屋市、服部太志社長)は、2020年に解散、服部工業(株)の溶接組立部門が、同社に統合されたのを機に、ベトナム人研修生を受け入れて事業を開始しました。 この新たな取り組みは、服部工業の元専務である服部元巳氏のご子息・服部太志氏を中心にスタートしました。
2019年には工場に近い建売住宅を事務所として購入し、さらに2021年に第2工場を建設、第1工場(本社工場)にあった曲げ、溶接工程を移管、ゆとりを持った工場に改装しました。

「以前から工場の拡張を検討してきましたが、適当な物件がなかった。社長交代後にチャンスがあり、工場、事務所を拡張できました」。

(株)創円の服部太志社長

(株)創円の服部太志社長

「一方で、これまでは属人化を避けるため、工場のデジタル化に取り組んできましたが、事業存続を考えると事業承継者の育成など、人材育成も考えなければなりません。正社員が少なく、パート社員や技能実習生に頼る生産体制だけではいけない。会社の未来を考え、経営ビジョンを共有できる日本人社員の採用、人材育成を7~8年前から考えるようになりました」。

「それとともに、当社がここで事業を将来にわたって継続して行うためには、地域との共存共益を考える必要があると考えました。そのためには私自身が経営者として成長しなければいけないと考え、『愛知中小企業家同友会』に加入、経営者としての勉強をさせていただきました。また、積極的に社外の若手経営者との勉強会、交流会に参加して、モノづくり企業の経営者としての知見を得ることができました」(服部太志社長)。

2021年に開設した(株)創円の「第2工場」

2021年に開設した(株)創円の「第2工場」

企業理念の策定

服部工業(株)を(株)創円に吸収、統合するとともに、企業ブランドを再構築するために、会社の経営理念を策定しました。「製造を創造する~私たちは豊かな未来へ、モノづくりの可能性を追求し、挑戦していくことで社会に貢献する製造創造企業を目指します」を経営理念としてあらたに掲げました。

そして「明日を夢見て 昨日を反省し 今日を生きよう」という行動理念のもと、「明日の可能性を無限大」に、「夢を創りあげ、モノづくりをもっと面白くしていく技術集団として、一日一日を大切に日々成長できるように高度な技術へ挑戦し、新たな可能性への追及を進めていく」企業を目指すように、企業のブランディング活動を行ない、「モノづくりは、人づくり、街づくり」という想から地域貢献活動を積極的に行い、工場を会場にしたワークショップ、工場見学会などのイベントを積極的に開催するようになりました。

曲げ加工を担当する女性社員。同社に勤める母親の紹介で半年前に入社した

曲げ加工を担当する女性社員。
同社に勤める母親の紹介で半年前に入社した

2017年には「地域防災協力事業所」、2022年に「未来創造企業(SSC)」にも認定され、こうした地域貢献に協力する中で、経営ビジョンを共有できる日本人社員の募集も順調に進んでいき、現在では、パート・技能実習生を含め57名、年商も右肩上りに成長し、定着率も高い優良企業となりました。

「社員教育に力を入れ、『教え、教えられる』という風土が根付き、社内の風通しも良く、社員も働きやすいようです」(服部社長)といいます。これは、まさに企業ブランディングを行った成果だといえます。

溶接まで完了した厨房・食品加工向け製品

溶接まで完了した厨房・食品加工向け製品

「組織づくり」「自社商品」
「ブランディング」で
会社の魅力を高める

1966年の創業以来、神奈川県の湘南エリアで板金加工を手がけてきた(株)タシロ(神奈川県平塚市、田城功揮社長)は、2023年9月に事業承継を実施し、31歳の田城功揮氏が代表取締役社長に就任しました。田城社長は大学卒業後、人材紹介会社の(株)パソナに入社し、同時期に国際ボランティア事業を運営するNGOの理事を務めました。その経験をもとに2019年1月に26歳でタシロに入社してからは、短期間で様々な改革を実行してきました。

「当社はこれまで時代に合わせた経営に努めてきました。初代(田城俊雄氏)は高度経済成長の波に乗り自動車部品製造をスタートし、2代目(田城会長)は最先端の加工マシンを積極的に導入して精密板金加工を強化しました。3代目の私は『共創』を軸に据え、自社製品の製造販売を新規事業として進めながら、ジャンル・業界を越境するコラボレーションを歓迎する文化を醸成していきたいと考えています」(田城功揮社長)と意欲を示しています。

31歳で3代目社長に就任した田城功揮社長

31歳で3代目社長に就任した田城功揮社長

同社は「製造業界のコンビニ」をキャッチコピーとして掲げ、小規模企業ならではのフットワークの良さを生かして得意先の信頼を獲得してきました。特に短納期対応は最大の強みで、最短で即日見積り・即日納品に対応し、ほとんどの製品を確定受注から1週間以内に納品しています。

田城社長にとって、同社の最大の課題は「日本人社員の定着率の低さ」でした。前職で身につけた人事・労務関係の知識・ノウハウを生かし、2019~2022年の3年間で労働環境の抜本的な見直しを行い、離職率の低下を図ってきました。

まずは、企業の方向性を示す「VMV」(ビジョン・ミッション・バリュー)を策定。就業規則を見直し、完全週休2日制や半休制、子育て中の社員を対象とした時短勤務を採り入れました。有給休暇の取得を推進し、交通費や住宅手当もアップ。人事評価制度を策定し、社員が「どうがんばれば評価されるか」を明確にするとともに、資格手当制度や表彰制度も設けました。

人材教育にも力を入れ、新人研修や週1回の勉強会を実施し、社会人の基礎であるビジネスマナー、モノづくりの基礎である図面の読み方などのほか、SDGsなどの時事的な話題も共有しています。また、先輩社員が後輩社員に対して個別に支援を行う「メンター制度」を採り入れたり、社員間投票で決定するMVPや、田城社長と社員の1on1ミーティングも実施し、「評価される機会」そのものを意識的に増やしました。

4×2m材まで対応するファイバーレーザマシン「ENSIS-4020AJ(9kW)+AS-4020G」厚板・大物まで幅広く対応し、同社の利便性(コンビニエンス)を象徴する設備となっている

4×2m材まで対応するファイバーレーザマシン
「ENSIS-4020AJ(9kW)+AS-4020G」
厚板・大物まで幅広く対応し、同社の
利便性(コンビニエンス)を象徴する設備となっている

新事業として「自社商品」を開発

こうした組織の基盤固めと並行して、自社ブランド製品の企画・製販売をスタートし、プロモーションにも力を入れました。

2021年には「3WAYピザ窯」でクラウドファンディングに挑戦し、目標金額の300%(120万円)を達成。「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022」の「LIFE×DESIGNアワード」では国内外2172社の中からグランプリ(最高賞)を受賞し、メディアでも大きく取り上げられました。

また、町工場発の製品を紹介・販売するポップストア(数日~数週間程度の期間限定で開設される店舗)「FACTORY'S GOODs」などに参加し、蔦屋書店などへ共同出店するなど、活動の場を広げていきました。

「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022」でグランプリを受賞した「3WAYピザ窯」

「東京インターナショナル・ギフト・ショー春2022」で
グランプリを受賞した「3WAYピザ窯」

人材採用では、「日本一挑戦するベンチャー型町工場」を掲げ、求める人材像を「自分のアイデアで自社商品をつくりたいくらい、モノづくりが好きな人」と定めて、採用ツールやPR動画に力を入れた結果、求人応募者数は5年前の年間10名から2025年度の300名へと30倍に増加。現在は30代前半までの社員が90%を占めています。

現在は「板金加工とジャンル・業界を越境するコラボレーションで日本の産業を勢いづける存在に」をテーマに「オープン・イノベーティブ・ファクトリー構想」に取り組んでいます。さらに2023年度には、同社の事業テーマ「ベンチャー型町工場の新規事業創出に係るブランド構築にむけたデザイン開発」が神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の、「次世代事業創出デザイン支援事業」に採択されるなど、着々と成果を上げています。

「組織づくり」「自社商品」「ブランディング」で会社の魅力を高めるという、企業ブランディング戦略の成果といえます。

展示会やポップアップストアで田城社長自ら接客対応を行っている

展示会やポップアップストアで
田城社長自ら接客対応を行っている

まとめ

2社のお客さまの成功事例を見ても「企業ブランディング」を目的に改革に取り組んだわけではありません。企業理念の策定や社員に誇りをもって働いてもらえる環境整備、自社商品開発の取組など、日々の地道な努力が増収増益、人集めに困らない業態へと変化させてきています。「企業ブランディング」という目標を掲げる前に、真摯に自社の課題と向き合い、地道な改革への努力を続ける、という経営者の決意と、ぶれない強い信念が欠かせません。

記事:マシニスト出版