板金加工業界
「第37回優秀板金製品技能フェア」受賞作品を発表!
- 形に込めた技術の妙技!技術伝承へ -

「第37回優秀板金製品技能フェア」大臣賞受賞作品
初出品企業が20%を超える
職業訓練法人アマダスクールは「第37回優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)の選考結果を発表しました。
同フェアは、国内外の金属加工企業が製作した板金製品や作品を募集し、加工技術・技能を競う場として提供することで、優れた技術・技能を表彰するとともに、一般展示を通じて板金加工技術・技能の交流と向上をはかることを目的に毎年開催しています。一般社団法人日本塑性加工学会が協賛し、厚生労働省・経済産業省・神奈川県などが後援しています。
今回の応募総数は263点で、海外からの応募に関しては計19カ国・108点にのぼり、グローバルなイベントとしても注目度が高まっています。また、国内外ともに初出品の割合は依然として高く、国内に限っては、直近3回すべてで初出品企業の割合が20%以上にのぼり、板金加工技術の腕試しの場として年々注目度が増しているといえます。
今回の「板金フェア」の選考結果は、厚生労働大臣賞が(株)MMR技研(大阪府)の「王冠」、経済産業大臣賞は(株)田名部製作所(福岡県)の「BEVEL GEAR CUBE」が受賞しました。神奈川県知事賞は(株)石川金属製作所(北海道)の「METAL-TOY『神奈川沖浪裏』“The Great Wave”」、中央職業能力開発協会会長賞は(株)キヨシゲ(千葉県)の「3Dパズル」、日刊工業新聞社賞は(株)シンエイ(京都府)の「球体パズル」、日本塑性加工学会会長賞は(有)スナミ製作所(岡山県)の「コルゲート加工品」、海外最優秀作品賞はOFFICINE BIEFFEBI S.p.a.(イタリア)の「エンジンサポート」が受賞しました。
技術・技能をアピールする作品が多かった
3月8日に行われた表彰式では、運営委員会・割澤伸一委員長(東京大学大学院 新領域創成科学研究科教授)は次のように総評を述べました。
「全体的に造形的・意匠的な特徴をテーマに、技術・技能をアピールする作品が多かった印象です。『単体品の部』では小さい形状のもの、複雑な曲げ順序など、技術・技能が融合された作品が非常に多く見られています。『組立品の部』『溶接品の部』『造形品の部』では製作工程が分かる写真や図が添付されていて、当フェアの趣旨でもある技術・技能の共有という意味でも非常に期待ができます。『造形品の部』では単純な造形美だけでなく、そこに隠された美しく見せるための技術・技能の工夫が非常に参考になります。今後への期待としては、板金加工技術、レーザ加工技術、溶接技術にとどまらず、プレス加工技術、微細加工技術の作品も募集しています。様々なカタチ、あるいは領域で塑性加工技術の活用を期待しています。やはり生産性や精度の向上は工業製品にとって大切なポイント。今後も革新的なアイデアを提案していただければと思っています」。

審査委員会の割澤伸一委員長
(東京大学大学院 新領域創成科学研究科教授)
モノづくりは自己表現できるツール
板金業界では現場のベテラン従業員の技能・技術伝承が課題となっています。そこで「板金フェア」を活用して人材育成にチャレンジする企業が増えてきています。応募作品づくりを通して、自分で考え、つくり上げる努力の大切さや、その先にある達成感を実感させる。そんな取り組みが広がっています。
特に今回は、上位賞を受賞した企業にその傾向が見られました。モノづくりはもともと自己表現できるツールであり、創造力・想像力を育成するには最適と考えられます。自分でアイデアを出し、カタチにしていくモノづくりは、発想力や想像力を刺激してくれます。また、加工した製品の寸法や角度を測定したり、切断・穴あけ・曲げ・溶接を行ったりすることで、理論では学べない実践的なスキルが身につきます。さらに手先を使うことで脳が刺激され、知識の深まりも期待できます。何よりも、アイデアや想いをカタチにすることで、自分の個性や才能に気づき、周囲にもそれを伝えることができます。そうした経験がポジティブな思考を育み、自己肯定感の向上につながるとともに、仕事に前向きに取り組める人材へと成長できると考えられています。
高度な曲げ加工の技能と
設計技術を用いた立体作品
「王冠」が「厚生労働大臣賞」を受賞
― (株)MMR技研
「厚生労働大臣賞」を受賞した(株)MMR技研(大阪府泉北郡、西田元昭社長)の「王冠」は、SUS304・板厚1.5mmをレーザ加工で切断したブランク材をラジオペンチで手曲げ加工し、溶接レスで製作しました。サイズはW200×D200×H155mmと小ぶりですが、存在感のある作品に仕上がっています。加工精度は±1.0mmで完成度が高く、加工技術・加工ノウハウの高さがうかがえます。
この作品は放射線状に設計され、王冠の最上部の突起は、王冠の主部とは別に成形されており、王冠上部の8方向から中央に集まる腕(下のリングから突起までつながる部位)とピンとホールで締結されています。王冠の下部にある2つの細いリングのうち、「下のリング」は連続した波形状にレーザ加工しており、波形状を直線に成形することで、設計・ブランク加工の段階では「上のリング」よりも内側に位置しているにもかかわらず、「上のリング」より直径が若干広くなり、全体に安定感をもたらしています。

「厚生労働大臣賞」を受賞した(株)MMR技研の「王冠」(SUS304・板厚1.5mm、W200×D200×H155mm)
「上のリング」より上部には8本の腕部を含む32本の柱部を放射線状にレーザ切断し、柱上部と柱上部の間を結ぶ橋の部分を「への字」に加工して、円筒状に盛り上がらせています。本作品のポイントは、目を引くデザイン性に加え、王冠として美しく、見栄えよく仕上げるための曲げやリング形状への加工技術にあります。さらに、高度な曲げ加工の技能、平板から立体へと発想を広げたアイデアと設計力も高く評価されました。

自分が培ってきた技能・技術を、
若い作業者たちに教えていきたい
西田元昭社長は長年板金加工に携わり、複数の板金工場で設計~プログラム~ブランク加工~曲げ加工~溶接~品証を経験し、工場長として工場経営を任されたこともありました。
「それぞれの板金工場に勤務した期間は様々でしたが、色々な仕事を任せてもらいました。2社の工場をかけ持ちで担当したこともあります。年齢を重ね、次第に『自分が培ってきた技術・技能を、これからの日本のモノづくりを支えていく若い作業者たちに教えていきたい』という気持ちになってきました」。
「近年、設備の自動化・ロボット化・システム化が進んだことで、誰がやってもできるような仕組みができ上がってしまいました。誰でもできる仕事であれば、日本でつくる必要はありません。安くて良いものができるのであれば、モノづくりはどんどん海外へ移転していってしまう。しかし、新しい技術を開発しようとしたときには、高い技術や技能が必要になります」(西田社長)。
そこで西田社長は2008年1月に個人創業し、2011年11月に(株)MMRを設立しました。社名の「MMR」は、Machineの「M」、Makeの「M」、Roomの「R」を意味しています。

左から西田庄吾専務、溶接・曲げ・旋盤担当の上中文也さん、西田元昭社長、溶接・曲げ・レーザ担当の田宮真人さん、曲げ・組立・検査担当の水木琢馬さん
次に向けた取り組みも検討中
今回受賞した「王冠」は、西田社長が色々な資料を参考に構想をまとめ、3次元CADで設計を行いました。金属の特性を生かし、溶接を使わず手曲げだけで立体的に仕上げられるよう展開方法に工夫を凝らしました。それによって、ファイバーレーザマシンでブランク加工を行い、その後ラジオペンチと手曲げ作業のみで完成することができました。結果として、プログラム時間と実加工時間合わせても、制作には1日程度しかかからなかったとのことです。
西田社長は「自分のアイデアが評価されたことは非常にうれしかったです。これを励みに、次回からは社員たちが自分のアイデアで作品を製作し、応募するようになってほしい」と語っています。

自社商品「チェス」の展開図
また、西田社長は自らが培ってきた技術・技能を、西田専務をはじめとする次世代の若手社員に継承することを目的に、ラジオペンチ1つでつくれる大人のハンドクラフト「HMI」(Handcrafted Metal Interior)のオンラインショップを立ち上げ、自社商品として「チェス」シリーズを発表しました。ボードやチェスの駒は、ラジオペンチで手曲げできるようにブランク材をファイバーレーザマシンで加工したもので、6種類の駒をセットで販売するようになりました。同社の社員をはじめ、展開方法や手曲げの方法を考えるツールとしても活用しています。

自社商品「チェス」の製品サンプル
チャレンジし続けているからこそ
生まれるアイデア
「BEVEL GEAR CUBE」が
「経済産業大臣賞」を受賞
― (株)田名部製作所
「経済産業大臣賞」を受賞した(株)田名部製作所(福岡県筑後市、田名部秀世会長、田名部淳社長)の「BEVEL GEAR CUBE」は、傘歯車を回転させると、立方体がスムーズな動きでダイナミックに変形します。その様子はまるで映画の「トランスフォーマー」の変身シーンのようで、目を見張るものがあります。

「経済産業大臣賞」を受賞した(株)田名部製作所の「BEVEL GEAR CUBE」(SUS304 2B・板厚1.5mm、W250×D250×H250mm)
動きを伴う一対の歯車を板金で製作するだけでも、設計・展開・切断・溶接・磨き・組立の技術と技能、そして多くの時間を要します。この作品は8個もの傘歯車が連動して動くため仕組みが複雑で、高度な作品にチャレンジする意志と企業の姿勢、それを実現する技術と技能が融合された作品として評価されました。

8個の傘歯車が連動し、ダイナミックに変形する
社員教育の一環として「板金フェア」
の応募作品づくりにチャレンジ
同社が「経済産業大臣賞」を受賞するのは今回で4回目。「技術の向上には他流試合が有効」という田名部淳社長の考えにより、2003年から社員教育の一環として「板金フェア」の応募作品づくりにチャレンジするようになり、これまでに「厚生労働大臣賞」「経済産業大臣賞」をそれぞれ3回受賞したほか、数々の賞を受賞してきました。

左から田名部淳社長、大城弘文さん、田川恭輔さん
従業員数20名という規模ながら、特級工場板金技能士2名、工場板金(機械板金作業)の一級工場板金技能士5名、二級工場板金技能士3名、工場板金(数値制御タレットパンチプレス板金作業)の一級工場板金技能士5名、板金図面検定の一級合格者5名、二級6名、ステンレス鋼溶接技術検定(JIS Z 3821)基本級TN-Fが3名など、多くの有資格者を擁しています。複数の資格を持つ社員もいて、高度なスキルを備えた技能者集団となっています。

「BEVEL GEAR CUBE」の分解図。
コアと4対のギアからできている
今回、受賞作品の製作を担当したのは特級工場板金技能士の大城弘文さん。大城さんは「BEVEL GEAR CUBE」を製作したきっかけについて「8個の傘歯車が連動して動く機構の製品を見たことがあり、そのユニークな動きに目を奪われました。その機構を板金加工でアレンジしてみんなを驚かせたいと思ったのが、『BEVEL GEAR CUBE』をつくったきっかけです。8個の傘歯車を連動させるという複雑な機構と立方体というシンプルなデザインを両立させる作品を、板金加工で表現する。自身の設計力・デザイン力・展開力へのチャレンジでもありました」と語っています。

「ギアA」の分解図
「板金フェア」は人材育成には
欠かせない存在
田名部社長は「『板金フェア』に応募し続けてきた成果が社内に浸透してきたことをあらためて感じています。常識を疑い、常にチャレンジし続けているからこそ生まれるアイデアと、これまでに培ってきた技術・技能を集結させて製作した作品を応募できるまでになりました。しかも、参加していない社員がそれを応援する雰囲気が生まれ、社員同士のコミュニケーションも活発になり、風通しが良くなりました。こうした取り組みを通じて『喜びで繋がる 未来を支える モノづくり』という経営理念が定着してきたと思います。先行きへの不確実性が高まっているだけに、これは大きな力になります」と話しています。
モノづくりの現場では、様々な場面で創造性が求められています。既存の知識や経験を統合し、新しく価値あるモノをつくり出す創造力を養うためにも「優秀板金製品技能フェア」は人材育成に欠かせない存在になりつつあるようです。
記事:マシニスト出版
<主な作品リスト>
- 厚生労働大臣賞:「王冠」 (株)MMR技研(大阪府)
- 経済産業大臣賞:「BEVEL GEAR CUBE」 (株)田名部製作所 (福岡県)
- 神奈川県知事賞:「METAL-TOY『神奈川沖浪裏』"The Great Wave"」 (株)石川金属製作所 (北海道)
- 中央職業能力開発協会会長賞:「3Dパズル」 (株)キヨシゲ(千葉県)
- 日刊工業新聞社賞:「球体パズル」 (株)シンエイ(京都府)
- 日本塑性加工学会会長賞:「コルゲート加工品」 (有)スナミ製作所(岡山県)