板金加工業界
人手不足時代を生き抜く「ひとづくり」戦略
―富山の製造業が取り組む新卒採用・定着への挑戦―
人手不足は「高止まり」
少子高齢化による労働人口減少により、人手不足は深刻な「高止まり」の状態が続いています。
帝国データバンクによると、2025年10月時点で正社員の不足を感じている企業は51.6%にのぼり、10月の調査としては4年連続で半数超となりました。また、「人手不足倒産」は2025年11月時点で前年通年を上まわり(累計359件)、2025年通年でも過去最多を更新することが確実となっています。
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2025年10月)」
グラフを見ても分かるとおり、2008年のリーマンショック後は「団塊の世代」が全員65歳以上の高齢者となる2015年をはさんで人手不足が深刻化していき、2020年のコロナ禍を経て、高止まりが続いています。
厚生労働省が2024年10月に実施した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、3年前に比べて正社員数が「増えた」事業所は21.2%だったのに対し、「減った」事業所は29.6%となりました。「減った」事業所の割合は、2019年の前回調査から約3ポイント増加しました。
地方の中小製造業の状況はさらに深刻で、帝国データバンクは「若手人材が首都圏に流出するなか、地方を中心にスキルのある正社員を採用するのは難しく、今後も正社員の人手不足割合は高止まりすると予想される」としています。
少子化が進む一方で大学進学率は上昇しており、2024年度の進学率は統計史上最高の62.3%を記録しました。大学の在学者数、大学学部の女子学生の人数・割合も過去最高となりました。中小企業は資金的・時間的なゆとりがなく、新卒採用といえば高卒者が主になりがちでしたが、少子化と大学進学率の上昇によって、採用戦略の抜本的な見直しを迫られています。
人手不足対策は
「採用」「定着」「生産性向上」
今では多くの中小企業が人手不足対策に取り組んでいます。
様々な調査機関が調査を実施していますが、リクルートワークス研究所はそれらの調査結果を踏まえつつ、中小企業の人手不足対策メニューを大きく「採用強化」「定着促進」「生産性向上」の3つに分類しました。
「採用強化」は、採用する人材の属性や採用チャネルの多様化、企業PRの強化などです。求人広告にとどまらず、Webサイトのリニューアル、採用特設サイトの立ち上げ、SNSや動画などを活用した情報発信、地域の教育機関との連携、オープンファクトリーの実施などによるイメージアップ、合同企業説明会への参加などで、戦略的な広報活動とも結びついています。
「定着促進」は、労働条件の改善や人事施策の改革などが挙げられ、「採用」とも直結します。中でも教育・研修制度や人材育成施策の充実(キャリアパス明確化、OJTの充実、エンゲージメント向上策など)は、「採用」「定着」「生産性」のすべてに対して横断的に作用する取り組みといえます。
「生産性向上」は、業務プロセスの見直し、ITの利活用による業務効率化、従業員の多能工化、リスキリングなどで、単なる頭数の問題ではなく、業務・人材の質的転換により、少ない人手で高い付加価値を得る体制づくりが求められています。
■人手不足対策のための施策
出典:リクルートワークス研究所「中小企業の人手不足への対応策を
概観する」(2025年8月)の掲載図版をもとにマシニスト出版作成
「最優先課題」として
“ひとづくり”の仕組みを整備
コンチネンタル(株)(富山県富山市、岡田俊哉社長)は2018年以降、若手人材の採用・定着を目指し、全社を挙げて“ひとづくり”に取り組んでいます。
2018年当時、35歳だった岡田社長(当時専務)は、次期経営者として将来を展望したとき、自社の人員構成に対して強い危機感を抱きました。それまで同社は中途採用しか実施しておらず、岡田社長より年下の社員は極端に少なく、「毎年3名ずつのペースで採用しても、30年後に90名にしかならない。誰一人途中で辞めないという無茶な想定でも、メンバーが全員入れ替わるだけで当社の規模はほとんど変わらないことになる」と考えました。
同社は、それまでの中途採用から新卒採用へと大きくかじを切りました。しかも、少子化と進学率の上昇で人数が減っている高校新卒ではなく、専門学校・短大・大学の新卒者に狙いを定めました。

岡田俊哉社長
就活生たちを惹きつけるセールスポイントがほとんどなく、「継続的・安定的な人材確保は難しい」と考えた岡田社長は、「全社的な最優先課題」として社内改革とリブランディングに着手。試行錯誤を重ね、教育プログラムやマニュアルを整えて、人材育成の仕組みを整備していきました。
同社の教育システムの特徴は「1年間の研修期間」と充実した教育プログラム、そして、それを“自走”させる運営体制です。
新入社員は入社後の約10日間、社内・社外の研修で社会人としての基礎(業界知識やビジネスマナーなど)を学び、岡田社長の「講話」などを通じて同社の成り立ちや考え方について理解を深めます。それから約4カ月の間、近隣の職業能力開発校「富山県技術専門学院」へ通い、材料・溶接・製図など金属加工の基礎的な知識・技術を習得。帰社後は毎日、その日学んだことについて報告会を行い、「伝える力」も身につけます。
その後は約8カ月間、社内の主要4工程を2カ月ずつ巡り、OJTを実施します。その間に能力習得だけでなく、細かなフィードバックを通じて各々の適正把握や意識のギャップの解消をはかります。

新入社員研修の様子
※コンチネンタル(株)提供
丸1年かけて600ページ超の
「教科書」を制作
2022年度には、富山県や富山大学などが運営する実践型リカレントプログラム「富山“Re-Design”ラボ」に参加し、大手製造業出身の専門家とともに、実効性のある教育プログラムの整備を目指しました。
最も分かりやすい成果物は、8カ月間のOJT 期間中に使用する「教科書」です。600ページ超におよぶ教材で、14~15人のプロジェクトメンバーを中心に1年間かけて作成しました。実際の教育現場では、教える側・教わる側にそれぞれタブレット端末を配布し、データで運用しています。
8カ月にわたるOJTの品質を担保するため、教える側の「教科書」には項目ごとに話す内容や間のとり方まで書いてあり、「台本」として機能します。提出書類の様式も用意され、教わる側が業務日誌として気づきや課題などを書いて提出すると、教える側が丁寧に返信やサポートを行います。

600ページ超におよぶ「教科書」。
8カ月間のOJT 研修で使用する
役職者は1カ月に1回程度のペースで集まり、教育の進捗状況を確認し合います。2カ月ごとに配属先の工程が変わるタイミングでは、役職者同士が個別の引き継ぎを行います。OJTの現場で実際に教えるのは主任・リーダークラスですが、教育について責任を負うのは上長の部長・課長クラス。新入社員からのフィードバックは上長まで共有され、教育状況の管理や今後の改善に役立てます。
1年間の研修期間を終えた新入社員は、適性・希望を踏まえて各部署へ本配属となります。2年目以降はジョブローテーションにより各工程をめぐって様々なスキルを習得し、ひとりで製造工程のすべてをこなせる「ひとり鉄工所」を目指します。
企業内大学
「やわらカレッジ」を開設
2025年4月には、これまで取り組んできた伴走型の新入社員向け教育プログラムを発展させ、企業内大学「やわらカレッジ」を開設。大学で用いられる名称や仕組みを採り入れ、教育の目的や道筋をわかりやすく示すことで若手社員や就活生の不安を取り除き、入社2年目以降のスキル管理を見える化しました。
カレッジの「理事長」には岡田俊哉社長が就き、「製造部」「営業部」「総務部」などの部署を「学部」に、「プログラム」「ブランク」「溶接」などの工程を「学科」に見立てました。「講師」の多くは現役のベテラン社員が担当します。
■「やわらカレッジ」の運営体制
出典:コンチネンタル
入社1年目を対象とした「新入社員研修コース」は「共通科目」に相当します。入社2年目からは「キャリアデザインコース」へ移行し、配属先でさらに高度なスキルを身につけ、ジョブローテーションにより各工程をめぐって様々なスキルを習得します。
また、独自開発の「スキルツリー」アプリを採り入れ、「入社2年目以降」を統合した全社的な教育システムとして進化させました。2年目以降のスキル管理については、「教科書」をベースに以前から準備を進めていましたが、それをもとに大学のシラバス(授業計画)の発想を採り入れ、習得可能なスキルが枝分かれするかたちで階層的に整理・視覚化しました。

独自開発の「スキルツリー」アプリ。
得られる「単位」に対応し、成長プロセスを見える化
目指すゴールは、「ひとり鉄工所」と「一人前の社会人」。両方を達成したことが認められると「学位」が授与され、中核人材としてさらなるキャリアアップへの道も拓けます。
岡田社長は「『ものづくりはひとづくり』『人の伸びしろが会社の伸びしろ』と私たちは考えます。人が成長することで会社も成長し、新たな価値を生み出すことができる。当社のように多品種少量生産を強みとする企業は特にそうです」と語っています。
人を育てて
価値を生み出す組織であることが
選ばれる条件に
深刻化する人手不足と採用難は、一過性のものではなく構造的な課題です。そうした環境の中で中小企業が生き残るためには、「採用」「定着」「生産性向上」を三位一体で推進する経営改革が不可欠です。
ここで紹介したコンチネンタル(株)の事例は、改革の核心が「徹底したひとづくり」にあることを示唆しています。成長を支える充実した教材や体系的な教育システムは、若手人材を惹きつけ、定着させる強力な武器となっています。
人を育てて価値を生み出す組織であることが、これからの時代に選ばれる企業の条件のひとつになりつつあります。
記事:マシニスト出版