板金加工業界
『自動化×自社製品開発』
中小製造業による「高付加価値経営」の実例
自動化・省力化により
労働生産性を高めることが不可欠
中小製造業の現場では、団塊世代の引退や大企業との賃金格差により、人手不足と採用難が深刻化しています。経済産業省が発表した「ものづくり白書」においても最大のボトルネックとして指摘されていることから、国もこの事態を重く受け止め、中小企業の「省力化投資」や「自動化投資」を強力に推進しています。
大企業に比べ、中小企業の労働生産性は長期的に低迷しており(図1)、持続的発展には自動化・省力化による生産性(一人あたり付加価値額)の向上が極めて重要なテーマとなっています。
※「大企業」は資本金10億円以上、「中規模企業」は資本金1000万円以上1億円未満、「小規模企業」は資本金1000万円未満
※労働生産性=従業員一人あたり付加価値額
※付加価値額=営業純益(営業利益-支払利息等)+人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課
出典:財務省「令和6年度 法人企業統計調査年報」
「量」「質」の両面に作用し、
高付加価値経営を後押し
自動化の効能は、単に人手不足を補うという「量的」な作用にとどまりません。次のステップとして、自動化により生み出された人的リソースをより付加価値の高い仕事に振り向け、収益モデルを進化・変革させるという「質的」な作用ももたらします。
「付加価値の高い仕事」とは、例えば新技術・新製品の開発、新規事業の立ち上げ、新規顧客の開拓、VA/VE提案、工程全体の劇的な改善などが挙げられます。自動化・省力化は主に「量的」な作用によって「スマイルカーブ」の付加価値の低いアゴの部分を引き上げ、「質的」な作用によって上流(開発・設計)や下流(販売・サービス)へ事業を拡張して、高付加価値経営へのシフトを後押しします(図2)。
(イメージ)
「自動化を進めなければ
事業は成り立たない」
(株)行田製作所(群馬県高崎市、行田正巳社長)は、自動化投資を強力に推進し、「量」の面でも「質」の面でも、大きな成果を挙げてきました。
2016年頃からブランク・曲げ・溶接という板金加工の主要工程で自動化を進め、従業員数を維持したまま急成長を果たしています。従業員の平均残業時間は1/2程度に減少し、売上高は9年間で約2倍に増加。行田正巳社長は「休みを増やして残業を減らして賃金を上げる働き方改革によって、経営環境は急激に変わっています。これからの時代、人手で作業する領域を減らして自動化を進めていかなければ、事業は成り立ちません」と語っています。

「自動化こそが成長のカギ」と語る行田正巳社長

ブランク専用工場に設置された3台の
ファイバーレーザ複合マシン(すべて2棚・TK 仕様)

奥に3台のベンディングロボットシステムが並ぶ。
手前はプレス工程
サンディング自動化システムの開発に成功
自動化を進めたことによって、製品開発や試作といった付加価値の高い新たな取り組みにリソースを割くことも可能になり、サンディング自動化システム「Sander Robo」や、テイクアウト仕様の材料棚向け専用パレットの独自開発に成功しました。「Sander Robo」は2025年秋からアマダへのODM供給が始まり、専用パレットもアマダでの取り扱いが決まり、新たな成長フェーズへと踏み出しています。
「Sander Robo」は当初、同社のボトルネック解消を目的に開発しました。ブランク・曲げ・溶接の各工程で自動化を進めてきたものの、溶接後のサンダー仕上げは変わらず人手に頼っており、ボトルネックになっていました。サンダー仕上げは時間と手間がかかるうえ、鉄粉が飛び散る中での作業となり、手首への負担も少なくありません。繁忙期には仕上げ待ちの製品が山積みになり、多くの従業員がヘルプに駆り出されていました。経験の浅い作業者がサンダー仕上げを担当すると、不要な部分をこすってしまって不良になり、再製作になることもありました。

自社開発のサンディング自動化システム
「Sander Robo」の3号機
「Sander Robo」の開発に着手したのは2021年中頃。専任担当者を配置し、外部のシステム会社と連携して、社内で検証しながら開発を進めました。2022年には1号機が、2023年には2号機が完成し、鍛圧機械の国際展示会「MF-TOKYO 2023」の他、同年10月にはシンガポール、11月にはタイの展示会にも出展しました。
最新の3号機はデザインを刷新し、メンテナンス性の向上と小型化に取り組み、6軸ロボットの周辺には3台のツールを収納できるATC(自動工具交換装置)、ディスクチェッカー、ペーパーチェンジャー、コレットストッカーを配置しました。さらに圧力センサーを装備し、サンディングを行うときのワークのたわみも織り込んだ最適な荷重を維持しながら、製品の個体差にかかわらず一定の荷重でサンディングを行うことができるようになりました。

装置カバーのサンディング作業
さらなる自動化に貢献
― ダストフリーの研磨ソリューションも
「Sander Robo」の1~3号機は同社の製造現場で運用しており、行田社長はその効果について次のように語っています。
「製品によっては仕上げ作業の70~80%を自動化できました。何事もそうですが、はじめから100%自動化できる必要はありません。人手によるサンダー仕上げを20~30%に減らすことができたなら、十分な成果と考えています」。
「特に、ファイバーレーザ溶接システム『FLW-3000ENSIS』と組み合わせたときの効果は絶大です。専用治具を双子でつくっておけば、『FLW-3000ENSIS』にも『Sander Robo』にも活用できます。ファイバーレーザによる熱ひずみの少ない溶接の後、サンダーロボで仕上げると、溶接箇所がほとんどわからないくらい高品質に仕上がります」。
ファイバーレーザ溶接システム
「FLW-3000ENSIS」(左)と溶接治具(右)
「TIGやCO2で溶接した製品は、『Sander Robo』で仕上げるとひずみの発生個所とその度合いが明確に分かります。人手だと、熟練技能者であればひずみに気がついて修正できますが、経験の浅い作業者はひずみの有無にかかわらず仕上げてしまい、品質低下や不良につながります。同じ動作を繰り返す『Sander Robo』を使うとひずみの度合いがはっきりと分かり、人手による本仕上げの前に修正すべきかどうかを判別できます。ひずみが分かりにくいR 形状の製品などはてきめんです」(行田社長)。
2025年秋からは、フィンランドに本社を置くMIRKAの正規販売店として、各種サンディングソリューションの販売も手がけるようになりました。MIRKAは世界的な表面処理技術のスペシャリスト企業で、低振動・軽量でありながら強力な研磨力を備えた電動サンダーと、集塵機との組み合わせによるダストフリーの研磨ソリューションに強みを持っています。

「Sander Robo」の3号機に
MIRKAの製品を取り付けた状態
同社はMIRKAの電動サンダー「DEROSⅡ」、サンディングペーパー、集塵機「DEXOS」を組み合わせた“ダストフリー仕様”の「Sander Robo」を新たに開発し、2025年秋からアマダへのODM 供給が始まりました。
「自動化こそが成長のカギであり、最も重要な経営テーマだと考えています。直接的な人件費削減や生産性向上も大切ですが、それだけではありません。Sander Roboや専用パレットを開発したように、創造や革新のために試行錯誤する時間を生み出すことこそが自動化の最大の価値ではないかと思います」と行田社長は語っています。
自動化が切り開く
中小製造業の新たな可能性
「付加価値の高い仕事」へシフトするといっても、実践するのは容易ではありません。ここで紹介した行田製作所の事例は、単に「機械による代替」で労働力不足を補うだけでなく、自動化によって生まれた「余剰リソース」をいかに戦略的に再配置するかが重要であることを示しています。また、自動化を推進力としながら、スマイルカーブで示した上流(開発・設計)や下流(販売・サービス)へと事業を拡張することで付加価値を高め、「質的」な転換を図ったモデルケースといえます。
昨今の人手不足やコスト上昇は一過性のものではなく、構造的な経営課題です。その中で中小企業の新たな可能性を切り開き、持続的な成長を実現するための施策として、「自動化」は不可欠の取り組みとなっています。
記事:マシニスト出版