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モノづくり企業の挑戦

板金加工業界

「技術の融合」と「新たな付加価値」を体現
「第38回優秀板金製品技能フェア」
受賞作品を発表

海外からの応募作品数と
オンライン投票数が
過去最多を記録

職業訓練法人アマダスクールは2026年3月、「第38回優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)の選考結果を発表しました。

同フェアは、国内外の板金加工技術・技能の向上と交流を目的に1989年から毎年開催され、今回で38回目を迎えました。一般社団法人日本塑性加工学会が協賛し、厚生労働省・経済産業省・神奈川県などが後援しています。

今回の応募総数は276点にのぼり、国内から147点、海外からは過去最多となる19カ国・129点の作品が集まりました。海外からの応募作品数とオンライン投票数は過去最多を記録しました。海外からの応募比率は全体の約47%と半数に迫り、板金加工技術・技能を競い合うグローバルなイベントとして定着しつつあります。

厚生労働大臣賞は(株)MMR 技研(大阪府)の「無限螺旋階段」、経済産業大臣賞は(株)鈴木(長野県)の「マイクロソケット端子」が、それぞれ受賞しました。神奈川県知事賞は(有)志村プレス工業所/名古屋工業大学(愛知県)の「メタリック・シナプス」、中央職業能力開発協会会長賞は(株)今井技巧(新潟県)の「ブラキオサウルス・ステゴサウルス」、日刊工業新聞社賞は(株)現代工業(大阪府)の「板金製 大屋根リング」、日本塑性加工学会会長賞はリョーユウ工業(株)(福岡県)の「グローリー・ホール」、海外最優秀作品賞はFERALU Les Techniciens du Métal(フランス)の「Steel Crab(鋼のカニ)」が受賞しました。

「技術の融合」
「新しい付加価値」が目を引く

主催者であるアマダスクールの磯部任 理事長が「非常にレベルが高く、内容も拮抗していました。海外からの応募作品にも大変素晴らしいものがいくつも見られました」と述べているように、今回の板金フェアは熟練の技能と最新テクノロジーが高度に融合した独創的な作品が目立ちました。

また、優秀板金製品技能フェア・運営委員会の割澤伸一 委員長(東京大学 大学院新領域創成科学研究科・教授)は次のように総評を述べ、「技術の融合」と「新たな付加価値」への期待を示しました。

「今回は板金・レーザ・溶接それぞれの技能・技術の高度化に加え、プレスや微細加工を組み合わせた『技術の融合』が随所に見られました。今後も加工領域の壁を超えた多様な技術活用を期待します。また、生産性や精度は生産技術の基盤であり最も重要な要素ですが、それに加えて、『新しい付加価値』を表現・具現化する作品が増えてきました。今後も従来の常識にとらわれず革新的なアイデアへの挑戦を見せていただきたいと思います」。

板金フェア運営委員会・割澤伸一 委員長

板金フェア運営委員会・割澤伸一 委員長

高度な設計技術と
熟練技能を用いた作品
―「親子2代」で達成した快挙

「厚生労働大臣賞」を受賞した(株)MMR技研(大阪府泉北郡、西田元昭社長)の「無限螺旋階段」は、最高度の熟練技能と緻密な設計力が融合した作品です。これにより同社は前回(第37回優秀板金製品技能フェア)の「王冠」に続き、2年連続で厚生労働大臣賞を受賞する快挙を果たしました。

この作品は内側の「螺旋階段」と外側の「枠」の2部品で構成されており、それぞれ一枚板から加工しています。2部品は溶接を行わずに組み合わさっており、外側の「枠」が「螺旋階段」を支えています。2回転しながら上段へ昇り、そこからまた2回転して下段へ降りる二重螺旋階段で、途切れることなく無限に続く構造になっています。円筒状の「枠」の部分も一枚板から製作されており、前回、厚生労働大臣賞を受賞した「王冠」の加工方法を発展・応用しています。

(株)MMR技研の「無限螺旋階段」(SUS304・板厚1.5mm、W125×D125×H270mm)

(株)MMR技研の「無限螺旋階段」
(SUS304・板厚1.5mm、W125×D125×H270mm)

いずれも1枚の展開図から製作されていますが、完成作品から展開図の形状と加工方法を想像するのは容易ではありません。さらに、空間内での連続性や視点の変化を意識して設計されており、上から見ると上面と下面が重なり合って無限(∞)の記号に見えるといった遊び心も盛り込まれています。最終形状から展開図を構想し設計する技術に優れ、最高度の熟練技能・手法を用いた作品として評価されました。

前回、厚生労働大臣賞を受賞した「王冠」は西田元昭社長による作品でしたが、今回の「無限螺旋階段」は子息の西田庄吾専務が製作しました。2年連続の厚生労働大臣賞受賞は「親子2代」で果たした快挙であり、卓越した技能・技術の継承という観点からも意義深い成果となりました。

上から見ると上面と下面が重なり合って無限(∞)の記号に見える

上から見ると上面と下面が重なり合って
無限(∞)の記号に見える

手作業とラジオペンチで成形

「無限螺旋階段」は、テーマ設定から設計、プログラム作成、曲げ加工まで、ブランク加工を除くすべての工程を西田専務が担当しました。モチーフを螺旋階段にすること自体は1年以上前から決めていましたが、形状については検討を進める中で何度も変化していきました。当初は1部品だけで構成する一重の螺旋階段を考えていましたが、ばねのように不安定な形状になってしまいました。そこで、安定性とインパクトの両立を目指して、設計・プログラム作成・試作を繰り返し、最終的に5階建てで交互に交差する現在の構造にたどり着きました。

左からレーザ加工担当の田宮真人さん、西田元昭社長、西田庄吾専務、西田有希さん

左からレーザ加工担当の田宮真人さん、
西田元昭社長、西田庄吾専務、西田有希さん

中でも苦労したのはプログラム工程で、全体の作業時間の半分にあたる300分を要したといいます。同社ではフリーの2次元CADで図面を作成しているため、金属がどれくらい伸びるかなどをプログラム上で判断することが難しい。そのため、実際に試作して伸び量を確認しながら、少しずつ展開位置を決めていきました。

曲げ加工は、ひねりが必要な部分は手作業で、階段のステップ部分はラジオペンチで起こして成形した。一見すると複雑な角度調整が必要になりそうだが、西田専務は「展開上、それ以上まわらないような形状になっているので、ラジオペンチでつかんで曲げるだけで簡単にステップ部分が起きるようになっています。加工時間も3時間ほどでできました」としています。

螺旋階段の展開図(部分)

螺旋階段の展開図(部分)

「今回の作品は硬質なステンレスに対して機械を使わずに、すべて手作業で複雑な曲線形状を狙ったかたちに近づけるように加工しました。手加工による加工痕も、あえて作品の個性として残しています。板金素材の可能性を広げること、そして技術と技能の両面で新たな表現に挑むことを目指した作品です。自分の中ではとにかくアイデアをどうかたちにできるかが重要で、連覇を狙おうという意識はありませんでした。板金加工は溶接まで行えば大抵のものはつくることができます。反対に溶接は使わず、曲げだけで立体形状をつくるのは難しい。だからこそ、挑戦しがいがあると考えました」と西田専務は語っています。

ラジオペンチで曲げ加工する

ラジオペンチで曲げ加工する

順送プレス金型による微細化の限界に挑戦

「経済産業大臣賞」を受賞した(株)鈴木(長野県須坂市、鈴木教義社長)の「マイクロソケット端子」は、一般的な圧着端子を約1/30サイズまで小型化した極小サイズのコネクタソケット端子です。抜き・曲げ・絞り・潰しといったプレス加工の要素技術を凝縮し、順送プレス金型による微細化の限界に挑戦しました。

真鍮(C2600)・板厚0.05mmのフープ材からプレス加工で製作しています。連続する丸穴に目が行きますが、これは端子を成形するための位置決め用。作品はその先端の長さ0.8mm・φ0.2mmの部分で、φ0.13mmの貫通穴があいています。太さはおおよそ髪の毛2本分。加工精度は±0.005mm。実用の際は長さ0.8mmの箇所で切断し、φ0.1mmの極細電線を挿入して、極小サイズの圧着端子として用います。先端部を絞り加工で成形したことによりプラグ挿入時も開くことなく、はめ込みを保持します。

精密金型技術を基盤に、微細加工技術と匠の技を融合させました。金型製作のための専用工具・治具に加え、専用の送り装置も開発し、順送プレスによる量産確認まで完了しています。

近年は電子機器の小型化・高密度化や自動車の電動化の進展とともに、コネクター・電子部品の微細化・多ピン化・ファインピッチ化の要求が高まっています。マイクロスコープなしでは形状確認もできないほど微細な端子の量産を実現した最高度の加工技術が評価されました。

 (株)鈴木の「マイクロソケット端子」(C2600・板厚0.05mm、W0.2×D0.8×H0.13mm)

(株)鈴木の「マイクロソケット端子」
(C2600・板厚0.05mm、W0.2×D0.8×H0.13mm)

開発テーマは「どこまで小さい端子をつくれるか」

(株)鈴木は精密金型の設計製作から電子部品・自動車電装部品などの生産、自動化設備の開発・製造まで一貫して手がける課題解決型ものづくり企業です。「不への挑戦」を経営理念に掲げ、「ゼロへの挑戦」と形容される徹底的な精度追求により、不可能を可能にする技術革新に挑み続けてきました。

「マイクロソケット端子」は同社オリジナルの「社内開発品」で、技術開発部の蟻沢宏氏が開発を担当しました。開発テーマは「どこまで小さい端子をつくれるか」。開発当時、最小径だったφ0.1mmのリード線接続をターゲットに、ソケット端子の微細化に挑戦しました。

作品を担当した技術開発課スペシャリストの蟻沢宏氏(左)と同課・高橋崇課長(右)

作品を担当した技術開発課スペシャリストの
蟻沢宏氏(左)と同課・高橋崇課長(右)

特徴的なのは端子先端部の絞り加工です。一般的なソケット端子は金型で包み込むように丸めて筒状にするため、「割り」が発生します。しかし、今回のような極小サイズだと、プラグを挿入した際に「割り」の部分が開いてしまい、挿入で保持する力を維持できないため、蟻沢氏は「割り」のないシームレス端子を構想しました。極細のパイプからつくる案もありましたが、生産性を考慮して絞りによる一体成形を選択しました。

下向きに絞りながら、φ0.13mmの貫通穴を加工した後、折れないように強度を保ちながら横向きに成形します。また、端子圧着部は潰しにより、セレーション(鋸歯状の凹凸)加工を施しています。

「ここまで小さい製品の金型をつくるためには、世の中にないレベルの小さい工具、小さい治具が必要でした」と蟻沢氏は振り返ります。

米粒とのサイズの対比。金属プレス金型による微細化の限界に挑戦した

米粒とのサイズの対比。
金属プレス金型による微細化の限界に挑戦した

金型を加工するために必要な工具・治具などをリストアップしましたが、そのほとんどが市販されておらず、独自に開発しました。たとえば金型研磨の工程で使用するダイヤモンドヤスリは、極細の母材を社内で製作し、専門業者に依頼してダイヤモンドパウダーを付着させました。また、微細な金型部品は指でつまむと完全に埋没してしまうため、削り・磨きを行う際の固定用の治具も製作しました。

工作機械による切削・研削の加工方法も、この製品に合わせて開発を行いました。プレス機は試用中だった高速プレス(3トン)の試作機を活用し、独自の送り装置も開発して、200SPMでの量産確認まで行いました。

「当社の経営理念である『不への挑戦』は、ネガティブな意味を持つ“不”や“負”に立ち向かい、チャレンジしていく姿勢を示しています。今回の受賞は、この経営理念を体現すること、より高い技術力をもって社会に貢献していくことの決意を新たにする機会となりました。今後も技術開発を推進し、モノづくりを通じて世の中に貢献していきたいと思います」と蟻沢氏は語っています。

抜き・曲げ・絞り・潰しといったプレス加工の要素技術を凝縮した

抜き・曲げ・絞り・潰しといった
プレス加工の要素技術を凝縮した

技能・技術の共有と
競争的発展に貢献

板金加工への要求が高度化する中、国内外から多くの力作が集まった今回の板金フェアは、「技術の融合」と「新たな付加価値」を体現する場となりました。卓越した設計力と熟練技能により複雑な3次元形状に挑んだ西田専務と、極小端子の量産化を実現した蟻沢氏という2人のスペシャリストによる作品は、その象徴といえるでしょう。

「優秀板金製品技能フェア」への参加は、若手人材の育成のみならず、技能・技術の共有と競争的発展の観点からも意義深いものとなっています。

記事:マシニスト出版


<主な作品リスト>
  • 厚生労働大臣賞:「無限螺旋階段」 (株)MMR技研(大阪府)
  • 経済産業大臣賞:「マイクロソケット端子」 (株)鈴木 (長野県)
  • 神奈川県知事賞:「メタリック・シナプス」 (有)志村プレス工業所・名古屋工業大学 (愛知県)
  • 中央職業能力開発協会会長賞:「ブラキオサウルス・ステゴサウルス」 (株)今井技巧(新潟県)
  • 日刊工業新聞社賞:「板金製 大屋根リング」 (株)現代工業(大阪府)
  • 日本塑性加工学会会長賞:「グローリー・ホール」 リョーユウ工業(株)(福岡県)他