業界ウォッチ

2021.12.15

農業機械業界

国内外で拡大する農業機械市場
~スマート農業が農業を変える~

世界市場は年率4.2%で成長

世界大手の市場調査会社マーケッツアンドマーケッツ社の市場調査レポート「農業機械の世界市場—2025年までの予測」によると、世界の農業機械の市場規模は、2020年の922億米ドル(10.1兆円)から2025年までに1130億米ドル(12.4兆円)に達し、年平均成長率は4.2%で成長すると予測しています。

一方、国内の農業機械市場は、新型コロナウイルスの影響で2020年は落ち込みが見られました。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響に取り組むために、世界各国が農業従事者向けの経済対策を講じたこともあり、2021年に入り増勢に転じています。
日本でも農業従事者が利用することのできる給付タイプの補助金、無担保融資タイプの支援制度の効果もあって、2020年度後半から上向いてきています。

※1ドル110円で換算

一般社団法人日本農業機械工業会の農業機械生産出荷実績によると、2021年1—9月の生産額の累計は3585億7940万円 で、前年比19.5%増。うち、国内向けは 1862億1900万円で同4.7%増、輸出向けは1723億6100万円で同41.1%増となっています。このまま増加傾向が続くと、2021年の生産累計額は4600億円を超える見通しです。

農業機械の生産金額推移
農業機械の生産金額推移

出典:日本農業機械工業会

日本の農家の76%が60歳以上

国内農業市場においては、農業を担っている農業人口の減少が進んでおり、この20年間で56%以上減少し働き手不足が深刻化しています。農業人口の減少とともに深刻なのが、農業従事者の高齢化で、2020年に公表された農林水産省の統計によると、日本の農家の78%が60歳以上と高齢化が進んでいます。

農業人口の推移
農業人口の推移

出典:農林水産省

さらに、農業人口の減少とともに耕地面積も年々減少している一方で、耕地面積が30hr以上の大規模耕地の経営件数は増加しています。
直近10年で10ha以上の大規模耕地が41.7%から55.3%と13.6ポイントも上昇と農耕地の集約が急速に進んでいます。
これら規模の大きな耕地は、大型の農業機械を用いて効率の高いあらたな農業経営を目指していると想像されます。

経営耕地面積規模別の経営耕地面積集積割合(全国)
経営耕地面積規模別の経営耕地面積集積割合(全国)

出典:農林水産省

大規模農業を支える「スマート農業」

そんなあらたな農業経営を実現するために欠かせないのがスマート農業です。
海外ではすでに「スマート農業」は農業技術とICT技術、5Gなどの高速、大容量の通信技術を活用したハイテク農業として活用が進んでいます。国内においても、農業が抱える問題解決の道として「スマート農業」の活用に期待が高まっています。

重労働で手作業の多い農業市場では、農業機械の導入による機械化農業が増え、農作業の省人化や省力化が進んでいます。特に、ICTやロボット技術を活用することで、農業機械メーカーも省人化、効率化ニーズに対応し、高性能な農業機械の製造、自動化技術の開発を進めています。遠隔操作や無人で自律走行するトラクター、ラジコン草刈り機、さらには農薬散布を行うドローン、生育状況のチェックや収穫時期の管理、自動収穫を行う収穫機械、農業技術のデジタライゼーションなど、農業に関わる機器、システムの開発が次々と行われています。

ラジコン草刈り機

ラジコン草刈り機

出典:農林水産省

大手農機メーカーの対応

農業機械のトップメーカーである(株)クボタは、田植え作業の省人化と作業効率化に向け、2020年、自動運転農機の販売を発表しました。また、カーボンニュートラルに対応したEV化の流れを受けて、電動トラクターの試作機を公開しました。
ヤンマー(株)は、2018年に自動運転トラクター、2019年末には自動直進機能を備えた田植え機を発表しました。
井関農機(株)は、完全無人トラクター、コンバイン、田植え機を開発中で、スマート農業の企業連携プロジェクトにも取り組んでいます。

自動運転田植機

自動運転田植機

出典:農林水産省

農業機械のEV化はまだ実用化されていませんが、2030年度の温室効果ガス排出削減目標の設定を受けて、農林水産省は農業機械で7900トンの削減目標を設定しました。今後、補助金や税制、基金などを活用して農業分野の排出削減対策を支援する方針です。ただ、大型農機は馬力が必要なため、電動化が難しく、そこで、水素など、他燃料の開発も視野に入れた開発が進み、(株)クボタでは、 ハイブリッドエンジンの実用化も目指しています。

ロボット技術やICTの導入は、農作業の軽減や効率化の他、農作物の品質向上にも必要な技術となっています。
大手農業機械メーカーからIT企業まで、市場参加者は増加傾向で、政府もスマート農業の普及に向けプロジェクトを開始し、スマート化を推進しています。
(株)安川電機は全国農業協同組合連合会(JA全農)と共同で、農業用ロボットの開発を加速すると発表し、2019年から行っているキュウリ用ロボットの開発に引き続き、あらたにイチゴ向けの開発を始めました。手作業を自動化して農家の負担軽減に活躍しています。こうした動きは他にも進んでおり、今後国内でも、ロボットやITを活用した農業機械の利用が進むことが予想されています。

農水省スマート農業PJ2021ポスター

出典:農林水産省

農業機械における課題

農業機械はトラクター、田植え機、コンバイン、ハーベスタなどの様々な機種があり、大型から小型まで幅広くラインナップされています。
さらに、農作物に対応した様々なインプルメント(アタッチメント)や、作業能率が高く、省力化、低コストの農業に対応する作業機なども製作されており、多品種少量生産対応が課題となっています。
また、農業機械は季節変動が大きく、特にコンバイン、籾すり機などは、収穫期前の4~9月、田植え機は1~3月に生産が集中する傾向があるため、生産の平準化も課題となっています。

一般に農業機械に使用される材料は鉄材が多く、板厚は0.4~12.0mmで、1.2~4.5mmが中心で、近年は、錆や摩耗を減らすためにステンレス部材を採用するケースが増えています。
こうした材料の多様化、多品種少量生産、生産の季節変動などに対応するため、形状の自由度が高いレーザ加工機に棚やテイクアウトローダーなどを装備した自動化ライン仕様を導入しているサプライヤーが多く見られます。
さらに、ファイバーレーザ加工機をライン仕様で導入するメーカーも出てきており、薄板から中・厚板まで、加工領域が広いこと、加工速度が速く、電気代をはじめとしたランニングコストが低く抑えられる点が高く評価されています。

「植物工場」への期待も高まる

さらに注目する必要があるのが「植物工場」です。
植物工場とは、水耕栽培を大規模な形にした栽培施設のことで、室内で行う環境保全型の生産システムとして食材の定期的供給を目的に開発されました。LED照明などの人工光、水耕栽培のための溶液を使用して野菜を栽培するもので、季節や天候に左右されず、計画的かつ安定的に生産できるメリットがあります。
その理由に、農業従事者の減少、自然災害増加による安定調達ニーズの高まり、農作物の消費スタイルの変化に伴うニーズの多様化が挙げられます。こうした課題・ニーズの変化を解決する一つの手段として、農作物の生育環境を制御することで、場所を選ばず、効率的に生産が可能な植物工場への期待が高まっています。板金市場としての検証はこれからですが、農業機械市場の新規事業として注目しておきたい分野です。

完全人工光型植物工場の運営市場規模 完全人工光型植物工場の運営市場規模

出典:矢野経済研究所

記事:マシニスト出版