送配電・蓄電池業界
カーボンニュートラル実現に
欠かせない送電網整備
~スマートグリッド化に
不可欠な蓄電池~
電気事業法改正で蓄電池が
送電網につながる
2030年度の再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入目標の達成や、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、再エネの大量導入を支えるための「送電網の整備」と、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化する「スマートグリッド化」が不可欠の課題となっています。
日本経済新聞の1月27日の紙面に「蓄電池で再エネ安定供給 送電会社、接続に応じる義務」という記事が掲載されました。これは再生可能エネルギーの電気供給を増やすため、蓄電池を電送網につなぎたいと事業者が要望した場合、送電会社に応じる義務を課すというもので、政府は今国会に電気事業法の改正案を提出する予定です。現行の電気事業法では、火力や再エネなど発電設備は送電網につなぐことが電力会社に義務づけられていますが、そこに蓄電池も加えるという改正となります。
かねてより経済産業省・資源エネルギー庁は、電力の需給調整市場や再エネの電力市場への統合に際して、蓄電池を送電網に直接接続することを検討していました。コストが高止まりしている定置用蓄電池の導入を拡大するためにも、蓄電池を活用した新たなビジネスを促進し、自家消費や調整力・供給力の提供といった多様な使い方を可能とするため、配電系統用蓄電池の電気事業法上の位置づけを検討していました。電気事業法の改正が今国会で採決されれば、蓄電池を電力需給調整市場で活用するための環境整備等が整うことになります。
出典:「電力ネットワークの次世代化について」
経済産業省・資源エネルギー庁 2021.12
蓄電池で送電網の需給調整を行う
風力を中心に再エネの普及が進む欧米では、出力が不安定な再エネを送電網に接続するため、蓄電池を活用した送電網の需給調整をすでに行っています。そこで日本政府は、電気事業法の改正ととともに、2021年度補正予算で130億円の財源を確保し、蓄電池導入費用の最大半額の補助金を出すことを決定。送電網の容量不足などが再エネの導入を阻む一因とならないよう、一時的に電気をためられる蓄電池で電力需給を補完調整し、安定供給につなげることを目指しています。
政府は2030年度までに太陽光と風力の発電容量を計1億2710万~1億4120万kWに倍増させる目標を掲げています。日本経済新聞の記事によれば、変動の大きい再エネの1/10の容量の蓄電池があれば、送電網を安定させられるとされており、単純計算で1,000万kW程度の蓄電池があれば、再エネの安定供給につながるといわれています。
デジタル化やEV化が電力需要を
押し上げる
5Gや6Gなどの高速データ通信網が整備されると、クラウドの活用が一気に進み、データ通信量が急激に増大します。その結果、データセンターや移動体通信基地局では大量の電力を消費することになります。
また、自動車の電動化により充電ステーションの設置が全国規模で進むと、大量の電力が必要になります。充電ステーションをいっせいに利用すると電力が不足するため、ここでも地域ごとに最適な電源の確保と電力の流れを供給側・需要側の両方から最適に制御するスマートグリッド化が求められています。
直流方式の送電網の整備も視野に
政府は新たな大規模送電網の整備を目指しています。1月18日、「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会に出席した岸田文雄首相は、送電網の増強を指示しました。北海道と本州を海底ケーブルで結び、北海道で発電された再エネ電力を東京へ送電する方式として、「直流送電」の採用が有望視されています。
出典:「電力ネットワークの次世代化について」
経済産業省・資源エネルギー庁 2021.12
送電には「直流」と「交流」の2つの方式があります。「直流」は一定の電圧を維持したまま送電するのに対し、「交流」は一定の周期で電圧が変わります。高圧では直流の方が送電時の電力損失が少なく、長距離の送電に適しています。交流は電圧変換の制御が簡単で技術的に優しいとされており、国内外の送電システムは大半が交流方式を採用しています。
しかし、電力を制御するパワー半導体の性能向上などにより、高圧の電気を直流で送電する「高圧直流送電(HVDC)」技術が向上、直流でも安定して送電できるようになってきており、世界的にも直流方式が注目されています。
電力ネットワークの次世代への
ロードマップの策定
こうした中で2021年5月、送配電網協議会を構成する一般送配電事業者10社は「2050年カーボンニュートラルに向けて ~電力ネットワークの次世代化へのロードマップ~」を策定しました。
送配電網協議会はこれまでも再エネ導入量の拡大に向けて、送配電設備を最大限活用するための取り組み(日本版コネクト&マネージ)や、再エネのポテンシャルを考慮した計画的な系統整備への転換などの検討を、国や電力広域的運営推進機関と連携し進めてきました。今後はこれらの取り組みを加速させ、再エネ電源比率のさらなる拡大と、非電化領域における電化推進への取り組みに貢献していくとしています。
主な取り組みとしては、メガソーラーや大規模洋上風力などを含む再エネの分散型リソース電源を円滑・柔軟に一般送配電事業者の送電線、配電線に接続することを可能とするために、こうしたソースを「仮想発電所:バーチャルパワープラント(VPP)」として一つの発電所のように機能させるとともに、電源リソースの保有者もしくは第三者が、そのリソースを制御することで、電力需要パターンを変化させる技術の確立を目指す取り組みや、再エネ電源比率が拡大しても電力品質を維持するための適正な調整力・慣性力・同期化力の確保、電力システムや市場に接続された資産が遵守しなければならない幅広い一連のルール、「グリッドコード(系統連系に係る技術要件)」の整備に向けた検討などが進められています。
蓄電池を系統に設置して
電力需給を制御
こうした中で、蓄電池への注目度はますます高まっています。蓄電池は従来、夜間の安い電力を日中に使用するために活用されてきました。これを再エネと組み合わせると、工場では、発電が可能な日中は、生産量に応じて自家発電の利用と蓄電池の放電を行い、夜間は日中の電力需要に備えて、低コストの深夜電力で蓄電池への充電を行います。
注目されているのは定置用蓄電池です。脱炭素社会の実現に欠かせない定置用蓄電池は、コロナ禍においても成長産業として注目されており、これからの10年で世界市場の規模は約3倍に成長すると予測されています。今後は電気事業法の改定と、2021年度補正予算で措置された、配電網に接続する蓄電池の設置費用については最大半額の補助金が支給されるようになるため、新たに参入する事業者が増え、蓄電池需要はさらに伸びると考えられます。
FIT買取期間の終了で
住宅向け定置用蓄電池も急速成長
また、大規模ではない住宅用蓄電池の9割を占める定置用リチウムイオン電池の蓄電池は、近年急速に出荷台数が増加しています。2019年11月から再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の買取期間が順次終了し、買取期間満了後の買取メニューを発表する事業者が増えている一方で、余った電力を蓄電池に貯め、必要な時に自家消費するための需要も期待されます。
出典:一般社団法人 日本電機工業会
また、定置用蓄電池の普及拡大に向けて、低コスト化も図られています。
業務用/産業用では、2015年からの5年間で約6割のコストダウンが求められました。板金加工の比重が大きい筐体では、64.6%の削減努力となりました。設計変更と標準化が進められ、具体的にはユニット化設計の最適化や調達先での生産性向上、小型化・軽量化などの項目が挙げられています。
出典:資源エネルギー庁
住宅用蓄電池の筐体は、製品が標準品内におさまり、量産ではプレス加工が行われると予測されます。一方、産業用は大型であることや、設置先の多様なニーズへの対応、生産台数を考えると、板金加工で行われる場合が多く、新たな板金市場として注視する必要があります。
記事:マシニスト出版