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業界ウォッチ

2021.09.22

事業継続力強化の事例紹介

新型コロナの蔓延で感染症対策も重要に

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大は、従来当たり前とされてきた価値観を見直す契機となっています。

きびしい局面をむかえる業種がある一方で、テレワークやリモート化、ネットワーク基盤の強化、Eコマース、クラウドシフトなどのDX(デジタルトランスフォーメーション)化の需要が高まり、IT/サービス関連業界では事業機会の拡大が加速しています。

「非接触」や「遠隔」のニーズ、「サステナビリティへの対応」など、新型コロナがもたらした価値観の変化にともない、新たなビジネスチャンスが生まれ、中小企業にも変化への対応力が求められています。

昨今では、経営者の高齢化や後継者不足を背景に、年間4万以上の企業が休廃業・解散しており、このうち約6割は黒字企業です。それまで培ってきた技術や従業員などといった中小企業の貴重な経営資源を次世代の意欲ある経営者に引き継いでいくことが重要となる一方で、感染症を含むリスクの影響を可能な限り小さくするための事前の備えとして、事業継続計画(BCP)を策定することが急務となっています。

帝国データバンクが毎年行っている、事業継続計画(以下、BCP)の策定状況の調査によると、「策定している」企業の割合(以下、BCP策定率)は 17.6%となり、前年(2020年5月)から 1.0ポイント増加しました。BCP策定率は年々上昇し過去最高を記録したものの、未だ2割を下回る低水準となっています。(図1)

事業継続計画(BCP)の策定状況
図1 事業継続計画(BCP)の策定状況
資料:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2021年6月)

BCP(事業継続計画)策定の重要性

BCPとは、事業継続計画を意味する"Business Continuity Plan"の頭文字をとった略語で、自然災害、大火災、サイバー攻撃、新型コロナウイルスなど感染症拡大などの緊急事態に、被害を最小限に抑え、中核事業の継続や早期復旧のためにあらかじめ立てておく計画のことをいいます。

新型コロナの感染拡大により、製造業の価値観・働き方は大きな転換期をむかえたといえます。

製造業は日本の基幹産業であり、「匠の技術」と表現されるような職人技は、日本の技術力の象徴として、もてはやされてきました。しかしその一方で、ベテラン職人の長年の経験と勘による技術・ノウハウに頼っている状況は、属人化が進んでいるリスクの高い経営状況ともいえます。

特に、首都圏の1都3県などに5度目の緊急事態宣言が発出されたことからも、いつ誰が新型コロナに感染してもおかしくない状況となっています。

属人化が進んだ工場でベテラン社員が感染した場合、生産が止まってしまい、事業継続性が危ぶまれています。このような状況を避けるためには、事前に手を打っておく必要があります。例として、パンデミックを想定したBCPの策定、および属人性の排除や生産性向上の取り組みが必要になります。

また、地球温暖化にともなって、大規模な自然災害が全国各地で頻発しています。自然災害や感染症拡大の影響は、個々の事業者の経営だけでなく、わが国のサプライチェーン全体にも大きな影響を及ぼすおそれがあります。自然災害リスクには様々なものが挙げられますが、停電などの長期化に備えた対応なども必要になってくるでしょう。

「事業継続力強化計画」認定制度

政府は、今年度から中小企業が防災・減災対策をまとめる「事業継続力強化計画」認定制度をスタートさせました。

この制度は、中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法などの一部を改正する法律(中小企業強靱化法)の施行に応じてつくられました。
「事業継続力強化計画」とは、中小企業が自社の災害リスクを認識し、防災・減災対策をするための第一歩となる計画のことで、経済産業大臣がこの計画を認定する必要があり、単独の企業で申請する単独型のほか、複数の企業が連携して計画・申請する「連携事業継続力強化計画」があり、BCP対策から遠隔地の企業同士が連携して提出しているケースもあります。

この認定を受けた中小企業は、防災・減災設備に対する税制優遇、低利融資、補助金の優先採択など、様々な支援を受けることができます。

ポスター

出典:中小企業庁

BCPにつながる「連携事業継続力強化計画」を策定

移動体通信基地局向け電源装置などの板金筐体を手がける板金工場では、この10年間は毎年のように大型投資を継続、自動化・ロボット化・デジタル化へ向けた設備投資を行ってきました。さらに、BCP対策をしっかりと行い、従業員や サプライチェーン を守る姿勢を社会に示すために、CSR活動にも積極的に取り組んできました。その一貫として、中小企業基盤整備機構が推進する「事業継続力強化支援事業」の指定を受け、単独企業では対応できないリスクに対応するために、遠方の同業者と連携して事業継続力を強化する「連携事業継続力強化計画」を策定しました。これによって、両社が相互に協力・連携することを通じて、事業継続力を単独では実現できないレベルまで強化し、かつ、事前対策のコストが低減できるようになりました。
さらに、連携することを通じて、自然災害発生時などの緊急時に、現有の経営資源を補完し合うことが可能となりました。

事例:非常用電源の確保

BCPの一環として、自家用発電装置や蓄電池システムを導入する企業もみられます。

中部地区のある板金企業は、定格出力230kVAの非常用発電機を導入しました。燃料のA重油を最大1,769リットル貯蔵できるタンクとセットで設置することで、災害などにより長時間の停電が発生した場合においても、最低3日間は工場の稼働に必要な電力をまかなうことができるようになりました。

導入の経緯は、2018年9月末に台風24号が直撃し、浜松市を中心とする東海地方は大規模な停電に見舞われたことがきっかけでした。想定以上の強風により、送配電設備の損傷が各地で相次ぎました。点検・工事にあたる作業員が不足したことで、完全復旧までには足かけ7日間もかかる大きな被害が出ました。

非常用発電機と燃料タンク(右)

非常用発電機と燃料タンク(右)

また、倒木で送電線が損傷したため、同社も2日間ほど停電が続き、その間は生産だけでなく、出荷もできずに製品供給が完全にストップしました。そこで企業の危機管理能力を高め、サプライチェーンを遮断させることないように、ガソリンを燃料とする定格出力4.0kVAの小型インバーター発電機を2台導入しました。これにより、停電中も設計・プログラムやメールなどのパソコン作業はできるようになりました。

さらに続けて、工場用の非常用電源の確保を検討し、非常用発電機の導入を決断しました。費用については1,000万円の導入コストだけでなく、定期的なメンテナンスや燃料の入れ替えといったランニングコストもかかります。高額な投資ですが、事業継続のための安心感は逆に大きく、災害などのリスクへの備えが高まったといえます。

また東日本大震災の経験からリチウムイオン電池を活用した蓄電池を設置して災害にともなう停電に対応するとともに、地元の自治体とも協定を結び、災害時の非需要用電源として蓄電池の電気を活用できるように地域と連携している企業も現れています。

リチウムイオン電池

リチウムイオン電池と鉛電池のハイブリッド蓄電システム

感染症への対応をはじめとして、社会環境の変化とともに企業経営を取り巻くリスクは増大しています。事業継続計画の重要性は今まで以上に高まっており、早期に事業継続計画を策定する必要性が望まれます。

記事:マシニスト出版