業界ウォッチ

2022.02.22

建設機械業界

前年比40%増の外需が牽引する
建設機械市場
~生産拠点の分散化で
クロスソーシングが進む~

2021年の建機出荷額は
2兆2千億円超え

「景気の先行指標」とも言われる建設機械(以下、建機)の需要動向がコロナ禍でも好調に推移しています。
日本建設機械工業会(以下、建機工)が1月31日に発表した 2021年12月の建設機械出荷金額によると、内需は前年同月比5.0%増加の855億円、外需は同47.9%増加の 1660億円となりました(補給部品含む)。その結果、2021年暦年の建機出荷総額は内需が9937億円(前年比-0.2%)、外需が1兆7632億円(同+50.6%)、総額は2兆7569億円(同+27.3%)となりました 。2021年度(2021年4月から2022年3月まで)の出荷額も、昨年8月に発表された予測(グラフ)を上回ると見込まれます。

※1ドル110円で換算

このままの勢いで行けば2022年はリーマンショック前の2007年の2兆7,000憶円程度にまで回復する可能性があります。これほどの回復ペースとなっているのは、3大輸出先(北米、欧州、アジア)を中心に、前年同期比で40%超えという高い伸びが続いているのが大きな要因となっています。その背景としては、ワクチン接種が進み、経済活動の正常化が進んだことに加え、世界各国の経済対策や資源高が建設機械の需要を喚起したことが、出荷額の増加につながっているとみられています。

建設機械(国産分)の出荷金額推移
建設機械(国産分)の出荷金額推移

出典:日本建設機械工業会

原材料価格の高騰、BCP対応で
海外拠点とのクロスソーシングが進む

主要建機メーカーの2021年4-9月期決算では各社が大幅増益を達成しました。(株)小松製作所(以下コマツ)の連結決算の売上高は、前年同期比34.8%増の1兆2914億円、営業利益は同125.9%増の1362億円、当期利益が前年同期比250%増の931億円に。日立建機(株)は、売上高が同31.3%増の4736億円、営業利益は同248.4%増の381億円、当期利益は151倍の318億円に回復し、そろって2022年3月期見通しを上方修正しました。

建機の製造原価は、鍛造素材を含む鋼材費、鋼板費、鋳造素材費を加えると、45%程度が材料費となっており、建機は“動く鋼材” と称されます。それだけに鋼材をはじめとした原料高への対策という不安があります。 大手建機メーカー各社は中国をはじめとした新興市場に生産拠点をグローバル展開しているだけに、地産地消の生産体制がほぼ確立されており、それだけに鋼材価格が日本に比べて10%程度安い、中国で製造した建機部品を日本に逆輸入するケースもみられています。

さらに、日本では自然災害により、主要部品を製造するサプライヤーの工場が被災、長期間にわたって主要部材の手配が滞った、という苦い経験があるだけに、BCP対策という側面からも、サプライチェーンの大幅な見直しを進めています。

コマツは「需要のあるところで生産をする」を基本とし、建機の主力機種である20、30トンの油圧ショベルの7割以上を海外工場で生産しています。中型油圧ショベルの生産拠点は全世界で9拠点あり、需要の変動に応じて、クロスソーシングが可能となっています。そのため、同一図面で同一品質のものを各拠点で生産することを可能としています。これにより、不測の事態が発生した時のBCP対応にもレジリエンスを発揮できる体制が整っています。今後、原材料価格が高止まりすれば、板金製品なども建機モジュールを構成する要素部材として、海外で調達された部材が日本に入ってくる事態も想定されます。

カーボンニュートラルへの対応

建機業界でも中長期的には2030年を目標とするSDGsや、2050年のカーボンニュートラル(CN)などに対応すると宣言されています。特に、CN実現に向けた電動化への対応が大きなトレンドになっています。
環境規制が進んだ欧州市場向けや、温室効果ガス排出削減に乗り出している国際鉱山大手向けでは建設機械、鉱山機械の電動化が求められています。車載用のリチウムイオン電池や水素燃料電池は、基本的には自動車への搭載を念頭に開発が進められており、パワーや充電能力、重量バランス、コストなどが課題となっています。そのため、建機メーカー各社は、有線式や電池交換式の中小型電動ショベルや、有線式の鉱山現場向け電動ダンプトラック、ハイブリッド式、ディーゼル発電方式など、さまざまなアプローチで電動化に取り組んでいます。

大手建機メーカーの
電動化への取り組み

コマツは、CO2を排出しないバッテリーや燃料電池を動力源とする製品開発を加速させており、2020年4月には国内市場でバッテリー式ミニ油圧ショベルPC30E-5の市場導入を開始しました。2021年5月にはリチウムイオンバッテリー搭載のフル電動(油圧機器による駆動無し)・オペレーター非搭乗式ミニショベルを発表しました。

2022年度には当該機に搭載しているリチウムイオンバッテリー技術を使ったバッテリー式ミニ油圧ショベルを欧州市場へ導入し、環境負荷の少ない建設機械の実用化を加速させるとともに、今後のさらなる普及を目指しています。コマツはそれとは別に、交換式電池パックを活用した電動マイクロショベルの開発で、ホンダと2021年6月に提携しました。交換式電池パックを建設現場へ供給することができれば、電動ショベルの充電能力不足の欠点をカバーできます。

フル電動ミニショベル(コンセプトマシン)

フル電動ミニショベル(コンセプトマシン)

日立建機は、8トンクラスの電動油圧ショベルを2020年に25台受注し、2021年は50台の受注を目標に掲げています。2021年に日欧で発売した5トンクラスのバッテリー駆動式の電動油圧ショベルは、欧州市場で好調な出足となっています。また、同年6月には、スイスの重電大手ABBと共同で、鉱山向けトロリー充電式のエンジンレス・フル電動ダンプトラックの開発をさらに加速する計画です。

建機業界におけるDXの推進

一方、土木・建設現場では労働力不足やオペレータの高齢化が課題となっており、その解決策として、現場全体をICTで有機的につなぐことで生産性を大幅に向上していく、「i-Construction(スマートコンストラクションともいう)」の考えが、国土交通省などから提唱され、現在ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、「i-Construction」が位置付けられています。

従来の「i-Construction」では、建設の生産プロセスの部分的な「縦のデジタル化」実現を主体として考えられてきました。しかし、IoT技術の発展によって新たなデバイスが次々と開発され、それに対応するアプリケーションを活用、施工の全工程をデジタルでつなぐことで「横のデジタル化」を進め、施工プロセスを大幅に変革できると考えられるようになりました。
これによって、実際の現場とデジタルの現場(デジタルツイン)を同期させながら、施工を最適化していくことが可能となり、工事全体の安全性、生産性、環境性を高めることができるようになってきました。

建設業の55歳以上就業者数の割合推移
建設業の55歳以上就業者数の割合推移

出典:総務省「労働力調査」
※2011年は東日本大震災の影響で全国区集計結果なし

「i-Construction」への取り組み

コマツは、2021年4月(株)NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)、(株)野村総合研究所とともに、(株)EARTHBRAINを4社共同で発足、建設工事全体のDX化によって、「i-Construction」の加速を進めようとしています。

日立建機は新品販売だけではなく、「建機のライフサイクル全てを支援する」というビジネスモデルへと変化させ、デジタル技術を駆使したICTサービスをこれからの事業の柱としようとしています。また、工事現場の全てのプロセスのICT化に取り組み、「i-Construction」に対応して、新商品のみならず既存の自社製品にセンサーなど、必要なデバイスを後付け、利用できるサービスの開発に注力しています。さらに、RFタグを装着した作業員を検知、衝突を未然に防ぐ運転支援サービスなどの商用化の準備も進めています。
また、協調型建設機械と運転支援システムを開発、各種ソリューションで建設機械の高度化と安全性の向上を目指すことで、協調型建設機械の実用化に向けた「協調安全」と高度な自律運転を両立するシステムプラットフォーム「ZCORE」を開発中です。

「i-Construction」が目指すもの

「i-Construction」が目指すもの

出典:国土交通省

さらに、周囲認識と自動ブレーキ、掘削状況判断や自動積込、オペレータの状態監視を実用化した運転支援システムを実用化し、それによって工事現場全体の安全性を高め、「人と機械の最適な関係」の実現を目指しています。

5Gを活用した建機の遠隔操作

そのために各建機メーカーが力を入れているのが、現場が全く見えない遠隔地で建機を操作できるようにする建機の遠隔操作です。今のところ実用化されているのは現場から比較的近い、機械が見える範囲での操作部分にとどまっています。
走行だけでなく複雑な動きをする建機は、大量のデータのやりとりが必要となるため、高速・大容量・低遅延の5Gの活用が期待されています。

コマツは、NTTドコモと5Gを使った実証実験を行っています。コマツのICT建機と遠隔操作システムを5Gで接続し、建機に搭載した複数のカメラで撮影した現場の映像と建機への制御信号を双方向でリアルタイムに送信する実証実験を重ね、実用化を目指しています。

日立建機も複数の企業と連携して5Gの研究、実用化に取り組んでおり、各社ともに「いかに現場で作業している感覚で操作ができるか」を焦点としています。今後は、音や操縦席の振動などといった現場の状況をどのようにフィードバックするかが課題となっています。

CEATEC2019にコマツが参考出展したブルドーザーの遠隔操作装置

CEATEC2019にコマツが参考出展した
ブルドーザーの遠隔操作装置

建機部材に使われる
高張力鋼板への対応

こうした動きに連動して建機部材に占める割合の高い板金製品も、SDGsやCNへの対応が求められています。その際のポイントが高張力鋼板への対応です。
ブルドーザーや油圧ショベルは建機特有の過酷な環境で使用されるため、部材には高い土砂摩耗特性が求められます。そのため、一般構造用鋼材よりも高強度で軽量化が図れ、かつ耐摩耗性に優れる高張力鋼板(ハイテン)を使う割合が以前から高い傾向にありました。加えてCNへの対応ということで、鋼材の肉厚を削りつつ強度を維持したいという軽量化の対策から、強度部材に高張力鋼板の使用が増える傾向となっています。このような製品仕様から現在は、引張強さ590~980N/mm2級の高張力鋼板が建機用高張力鋼板として使用されています。

高張力鋼板の切板加工は、シャーリング切断では加工時にネジレ、反りの発生が見られることで、最近はレーザ加工が使われる場合が多く、板厚19㎜程度までの高張力鋼板の加工に使われています。
曲げ加工では、高張力鋼板自体が硬い材料のため、スプリングバックがきつく、単純なL曲げでもノウハウが必要とされます。今後、建機部材に使われる板金製品の材料が高張力鋼板に置き換わるケースが増えると考えられるだけに、高張力鋼板に対応するレーザ加工、曲げ加工に関してのパラメーター選定を含め、ノウハウの蓄積が重要となっています。

熱間圧延高張力鋼板・板厚8㎜をファイバーレーザマシンで切断した部品

熱間圧延高張力鋼板・板厚8㎜を
ファイバーレーザマシンで切断した部品

前述のように好調な建機需要ですがその多くが外需であり、内需は前年同期比で横ばい、または微減となっています。CNに対応した電動建機に対する需要が伸びていけば、建機の排ガス規制で一時的にリプレイス需要が起きた時と同じ様な活況も期待できますが、当面は板金を使用した建機部材の需要の伸びは限定的と考えられます。
クロスソーシングが進む建機業界だけに、海外から板金製品が逆輸入されることも考慮する必要があります。
板金市場に占める建機業界の割合が高いだけに、これからの動向からは目が離せない状況です。

記事:マシニスト出版