建設機械業界
好調な建機業界ではサプライヤーの
「選択と集中」が進展
(株)内山製作所(群馬県)の溶接ロボットライン
出荷額が3兆円を突破
―4年連続成長を予測
一般社団法人日本建設機械工業会によると、2022年度の建設機械出荷金額は前年度比19.4%増の3兆4768億円(補給部品を含む)と、1990年の調査開始以来の最高金額を2年連続で更新しました。内需は同6.0%増の1兆573億円、外需は同26.5%増の2兆4196億円と、内需・外需ともに2年連続の増加となりました。
また、2023年8月に発表された「建設機械需要予測」によると、2023年度の建設機械出荷金額(補給部品は含まず)は2022年度比5%増の3兆1921億円で、2023年2月予測から1341億円の上方修正となり、建機業界が好調であることが伺えます。
出典:一般社団法人日本建設機械工業会「建設機械需要予測(2023年8月)」
2024年度も引き続き多くの機種で内需・外需ともに堅調な伸びが見込まれるため、2024年度の建設機械出荷金額は2023年度比3%増の3兆2768億円と予測しています。
中国、欧州市場の需要が低迷
堅調な建設機械市場ですが、外需に関しては先行きへの警戒感が強まっています。中国や欧州の低迷が目立ち、ロシア・ウクライナ問題でCIS加盟国(ロシアなど旧ソ連加盟国で結成した国家の連合体)も低調です。
中国は不動産不況の影響が強く、日系をはじめとした外資メーカーの需要が半減すると見られています。2022年度まで好調だった欧州も金利上昇とインフレが続き、住宅需要や設備投資が低調です。英国やドイツで受注が大きく落ち込んでおり、堅調だったイタリアもここにきて受注が落ち込んでいます。アジアでは、選挙を控えるインドネシアなどで選挙結果が出るまで投資を控える傾向が見られ、2023年度下期以降、各国で需要が減速していくという見方も出ています。
SDGsとカーボンゼロへの
対応も課題
「SDGs」「2050年カーボンニュートラル」への対応も課題です。
国土交通省は「建設施工におけるGX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けた取組」として、「建設材料の脱炭素化」「ICT施工による施工の低炭素化」「革新的建設機械の導入拡大」という3つの目標を掲げています。とりわけ「革新的建設機械の導入拡大」では、温室効果ガスを排出する従来型のエンジンを抜本的に見直し、電気や水素、バイオマスなどで動く建設機械を導入・普及させようとしています。
中でも「電動建機」は、温室効果ガスの排出を抑えることができます。使用する電気料金は軽油代より安く、ランニングコストを低く抑えることができます。太陽光発電設備やボイラー発電設備の余剰電力を活用すれば、より環境に優しく経済的な運用が可能になります。日々の燃料補給やエンジンオイルの交換、フィルター類の交換など、メンテナンスの手間も大幅に削減できるため、生産性や収益力も向上します。
建設機械が排出する温室効果ガスの59%を占める油圧ショベルを例にすると、ディーゼルエンジンを使って運転する場合、実際の仕事に変換されるエネルギーはわずか20%程度といわれています。これを電動化やハイブリッド化することで、60%以上の燃料削減効果を得られることが実証試験によって明らかになっています。
「電動建機」はバッテリー駆動だと長時間の連続稼働が難しくなるため、「有線式」の開発も行われています。電源を有線で直接供給するため、充電式と異なりバッテリー残量を気にすることなく、長時間の連続稼働が可能になります。また、電源を確保するのが難しい場所での使用を想定し、水素エンジン搭載型の建設機械も期待されています。
人手不足に対応する
ICT建機への期待
人手不足に対応する「ICT建機」の実用化も始まっています。
ICT建機は、「MC/MG」(Machine Control system/Machine Guidance system)を搭載した建設機械で、建設機械に3次元設計データを取り込み、排土板の機械操作ガイド(MG)、機械自動制御(MC)などを行います。ICT建機の実用化により、オペレーターの負担軽減、工期短縮や省人化、仕上げ精度の向上、手戻りの大幅な減少などが期待されます。
「MC」は、位置計測装置を使って、3次元設計データと作業場所の土地形状の差分を算出し、建設機械の排土板の高さや勾配を自動で制御します。自動作業のため、オペレーターの技量に頼ることなく、精度の高い施工が短時間で可能になります。
「MG」は、全球測位衛星システムを利用し、建設機械の操縦モニターに掘削距離やバケットの位置などを表示します。作業中に基準値内であるかを測りながら作業するため、計画より深く掘り進めてしまうといったことも防止できます。また、従来は経験に基づいて行っていた操作の感覚を短期間で身に付けられるメリットもあります。
建設工事における無人化施工法の技術開発を進める中で、建設機械の遠隔操作に対するニーズも高まっており、大手建設機械メーカー各社は将来の施工現場の実現を目指し、建設機械の遠隔操作システムの開発にも取り組んでいます。
建設機械の板金サプライヤー
建設機械を構成する部品の中でも、板金部材は原価に占める割合が10%前後を占めています。
建設機械の板金サプライヤーは、コロナ禍からのV字回復とサプライチェーン再編、「電動建機」や「ICT建機」などの新規ニーズが重なり、好調を維持しています。また、建設機械メーカーは調達先の「選択と集中」を進めており、板金・溶接だけでなく、プレス加工・機械加工・モジュール組立・塗装まで対応できる総合力を備えたサプライヤーに仕事が集中する傾向が強まっています。
ここからは、建設機械業界で活躍する板金サプライヤー2社の動向を紹介します。
圧倒的なコストパフォーマンスで
成長
(株)内山製作所(群馬県館林市、内山進社長)は建設機械の板金サプライヤーとして目覚ましい成長を遂げ、2023年5月期の売上高は前期比24.4%増の127億円となりました。これは、20年前(4.5億円)の28倍、10年前(25億円)の5倍、5年前(54億円)の2.3倍に相当します。大手建設機械メーカーとの取引が本格化したところへ、コロナ禍からのV字回復とサプライチェーン再編が重なり、業績を伸ばしました。同社は10年前にはすでに急成長企業として広く知られていましたが、ここ5年間は成長速度をさらに加速させています。
同社は油圧ショベル、ダンプトラック、クレーン、ホイールローダー、道路機械、高所作業車といった建設機械の構成部品をユニット単位・モジュール単位で受注しています。得意先は約260社。売上全体の90%が建設機械で、大手建設機械メーカー2社からの売上が約50%を占めています。従業員数は、直近5年間で1.4倍の約600名まで増えました。
延床面積4万3505m²の「本社工場」と1万3376m²の「本社新工場」のほか、群馬県内に10カ所、栃木県内に2カ所の生産拠点があり、総延床面積は約7万m²に達します。現在は本社工場の隣地に新工場を建設中で、既設のカチオン電着塗装ラインの隣に粉体塗装ラインを新設し、完全自動の塗装ラインを構築する予定です。
(株)内山製作所の本社工場
スケールメリットを生かした
「専用機化」
同社は1985年の創業当初から、スケールメリットを生かした板金加工の自動化ラインの構築を目指してきました。創業後7~8年間は“規模”の拡大のために建設機械業界の得意先を増やし、受注拡大を進めました。レーザ加工を強みに切り板の加工からスタートし、その後は大胆な設備投資と受注拡大を繰り返しながら、持ち前の生産技術のノウハウを生かして生産合理化を進めてきました。
板金工程の設備投資の基本方針は「専用機化」でした。2002年以降は毎年のようにレーザマシンを導入し、今ではパンチ・レーザ複合マシン10台、レーザマシン16台を設備するに至りました。また、曲げ工程は「ブランク1台と曲げ2台で1セット」を基準とし、今では計47台のベンディングマシンを設備しています。それらを材質・板厚別に「専用機化」することで、ブランク加工マシンであれば材料の搬入・搬出や条件出し、ベンディングマシンであれば金型交換などの段取り工数を極限まで削減しました。
ブランク工程ではパンチ・レーザ複合マシン10台が稼働。材質・板厚別に「専用機化」している
毎月生産する製品は4万種類を超え、子部品まで含めた部品点数は膨大になります。納期管理・出荷管理が煩雑になるため、今はバッファーとして2週間分の在庫を持つことで納期遅延ゼロを実現しています。使用材料はSS400が64%、酸洗材(SPHC-P)が25%、高張力鋼が5%、その他(SUS・S45C・SM材・めっき鋼板など)が6%。計26台のブランク加工マシン(複合マシン・レーザマシン)が24時間稼働し、重量ベースの最大加工能力は3120トン、毎月の平均加工量は2600トンにおよびます。また、鋼材価格の変動に対応するため、1万6000トン以上の鋼材を常時在庫しています。
曲げ工程には47台のベンディングマシンを設備。「ブランク1台と曲げ2台で1セット」を基本としている
生産技術のノウハウを生かした
「ロボット化」
溶接工程は付加価値の40%以上を生み出す重要な工程で、同社の強みである生産技術のノウハウを生かし、ロボット化を推進してきました。毎年30~40台のロボットを立ち上げ、今では259台の溶接ロボットが稼働しています。
同社の生産技術のスタッフは全社員の約10%を占め、ロボット化の企画やロボット治具の組み立て、ティーチング、試作品の検査などを行うとともに、ロボット化をはじめとする工程の改善・改革に取り組んでいます。
リピート率は約90%で、毎年10%ずつ新規品のロボット治具を立ち上げる必要があります。現在、ロット10個超のリピート品はロボット化がほぼ完了し、今後はロット10個以下の製品もロボット化を進めていこうとしています。
建設機械の運転席の部品。ナットの供給から溶接まですべてロボット化している
道路機械・油圧ショベル向け
部品が好調
(株)ヒラノ(千葉県旭市、平野利行社長)は2003年頃から大手建設機械メーカーのサプライヤーとして取引を開始しました。コロナ禍と半導体などの供給制約で生産調整が長引いていましたが、2023年7月からは需要回復への対応と積み重なった注残を消化するための増産が始まり、建設機械向けの売上構成比はこれまでの30%から40%に増えています。
同社は油圧ショベル、アスファルトフィニッシャーなどに用いられるエンジンカバー・外観カバー・エンジンブラケット・ステーなどのパーツ加工からサブアッシー、塗装まで対応しています。
受注する機種は道路機械、油圧ショベルなど10機種。1カ月の受注アイテム数は約350件で、子部品まで含めると3600~4000点になります。そのうち90%以上の製品で板金加工に機械加工が加わり、95%以上の製品が溶接・塗装まで行う製品となっています。
スライダー溶接ロボットライン
最近は精度要求が厳しいエンジンまわりで、スライダー溶接ロボットラインなどにより溶接を行い、機械加工で100分台の精度に仕上げるサブモジュール製品の仕事が増えています。
建設機械のエンジンまわりで使用する高精度部品
加工材料はSPHCとSS材が大半で、パネル・カバー関係は板厚1.6~2.3mm、各種ブラケットは4.5~19mmが中心で、リピート率は約90%となります。
得意先の建設機械メーカーからは、納期の4カ月前に「生産見込み」の内々示があり、2カ月前に内示があります。内示された内容は、その後の確定発注の有無にかかわらず買い取り保証の対象となるため、その段階で得意先のMRP(資材所要量計画)をもとに材料手配を行います。
確定受注は10日前。90%はリピート生産のため、在庫から注文数量を引き当て、安全在庫を下まわった分は生産手配がかかります。
板金加工と機械加工の
複合加工に対応
受注製品の70%が板金加工で、30%が機械加工です。板金加工のブランク工程には、ファイバーレーザ複合マシン1台、ファイバーレーザマシン2台、CO2レーザマシン1台があり、パイプ・形鋼加工に対応するレーザマシンもあります。
エンジンまわりに使用するブラケット類は、板厚4.5~19mmのSS材をファイバーレーザマシン「ENSIS-3015AJ」(9kW)で切断し、曲げ加工と溶接を行った後に機械加工で仕上げています。
ファイバーレーザマシン「ENSIS-3015AJ」(9kW)
機械加工設備としては5台のマシニングセンターがありますが、新たに5軸マシニングセンタを増設し、ワンクランプで全工程の加工を完了させることで工機短縮と省人化をはかります。
据付作業中の12面パレットチェンジャー付き立形5軸マシニングセンタ
建設機械業界ではパーツ発注からモジュール発注へとシフトし、さらに塗装までワンストップで対応できるサプライヤーに仕事を集約する傾向がますます顕著になっています。そこで同社は、自社で対応できないカチオン電着塗装にも対応できるようにするため、協力工場の塗装会社とのアライアンスを強化して対応することも検討しているところです。
建設機械業界から構造変化が
加速する可能性
建設機械産業は景気の先行指標とも言われ、われわれの生活に欠くことのできない社会インフラの開発・整備を効率的かつ安全に行う極めて重要な産業です。人力施工では不可能な大規模工事を可能にするだけでなく、工期の短縮や省力化、災害復旧などの危険が伴う作業現場での安全確保などにより、世界の人々の生活向上に貢献しています。
板金加工の市場としては出荷金額の3~4%、1000億~1200億円の市場規模と見られます。また、近年は板金からプレス、機械加工、溶接、モジュール組立、塗装工程までにワンストップで対応できる「板金ゼネコン型」のサプライヤーに仕事が集中する傾向が見られます。
好調な建設機械業界からサプライチェーンの構造変化が加速する可能性があり、今後の動向から目が離せません。
記事:マシニスト出版