食品機械業界
アフターコロナへ向け
回復が期待される
食品機械業界
2022年の販売額は
コロナ前を上まわる
日本食品機械工業会の最新の調査結果(グラフ)によると、2022年の食品機械の販売額は前年比3.0%増の5901億円となりました。6000億円の大台には届かなかったものの、コロナ前の水準を上まわり、アフターコロナへ向けて回復に向かっていることが鮮明になりました。
出典:日本食品機械工業会「2022年 食品機械調査統計資料」
(2023年6月発表)
同工業会は、食品機械のユーザーである食品産業において、「消費者の“内食化”や“健康志向”に対応した設備投資」、「アフターコロナの消費増を見据えた設備投資」、「(まだ限定的ながら)インバウンド・外食・観光などの回復などに対応する設備投資」があったとしています。
食品機械業界は景気変動の影響を受けにくいとされており、コロナ禍の影響が表れた2021年も前年比2.2%減と小幅な落ち込みにとどまりました。しかし、機種別の内訳を見ると好不調の差は大きく、外食や土産物に関連する機種は“低調”、巣ごもりや健康志向に関連する機種は“好調”といった具合に二極化が進行しました。
2022年は、コロナ禍で2021年に“低調”だった機種が回復に向かいました。中でも、構成比の大きい「製パン・製菓機械」(構成比23.1%)が4年ぶり、「その他の食品機械」(同43.7%)が2年ぶりに前年比増に転じたことは注目されます。
「製パン・製菓機械」は、2021年はコロナ禍によるインバウンド消失・行動制約で大きな打撃を受けましたが、2022年は“人の動き”の再開に向けた設備投資が見られました。「その他の食品機械」は、コロナ禍で消費が増えた内食・中食向け冷凍食品と、アフターコロナに回復が期待される外食産業向け冷凍食品に関連する設備投資があったと見られています。
高付加価値化が進む食品機械
2023年6月に開催された世界最大級の食品製造総合展「FOOMA JAPAN 2023」は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行したこともあって、活況となりました。
会期4日間の来場者数は前回比10万6104名で、コロナ前に開催された2019年の10万680名を超え、さらに、海外からの来場者は入国制限が緩和されたこともあり、前年の約8倍に増えました。
人手不足が深刻化する中、FOOMAの会場ではAI・ロボット技術を採り入れた自動化ソリューションの出展が目立ちました。特に、内食・中食へ向けた惣菜盛り付けの自動化技術や、既存の食品工場の一部工程をそのまま自動化するコンパクトなソリューションに注目が集まりました。また、統計が示すとおり、人手不足解消やフードロス削減などの観点から、食品冷凍技術への関心も高まっています。
食品機械業界は、人口減少による国内市場の収縮が懸念される中、今後は海外市場の開拓と並んで、自動化をはじめとした高付加価値ソリューションへの転換が進んでいくと考えられます。
アーモンドなどの内観検査・外観検査・成分検査に
1台で対応するサタケのベルト式光選別機
「ベルトゥーザスペクトラ」
鈴茂器工のコンビニベンダー向け
「飯盛り容器供給ライン」
安川電機のAI画像判定ソリューション
「Y’s-Eyeコンパクト」
前川製作所の連続式急速凍結装置
「Thermo-Jack Freezer」
設計から現地据付までの
“エンジニアリング受注”
食品機械向け部品加工の分野では、設計・エンジニアリングから板金加工、機械加工、組立配線までワンストップで手がけるサプライヤーに仕事が集中する傾向が見られます。
(株)栄進産業(徳島県板野郡、森本博社長)は、飲料用充填機などの外装フレームやカバーを受託加工しているほか、充填機を格納するクリーンブースの設計・製造・組立・現地据付を一手に手がける“エンジニアリング受注”に力を入れてきました。
同社の売上構成は、充填機を格納するクリーンブース関連が50%、食品機械部品・装置が20%を占めています。
森本博社長
クリーンブースに関しては、ブース全体の詳細設計・機構設計の段階から受注しています。得意先から格納する充填機の外観図のCADデータを受け取り、「SolidWorks」で3次元設計を行い、「SheetWorks」で3次元モデルからのバラシ・展開を行います。
クリーンブースのフレームに用いるステンレス製の角パイプ(60×60mm、80×80mm)やアングルなどの加工には、平板・パイプ兼用ファイバーレーザマシン「ENSIS-3015RI」を活用しています。2009年から使用してきた小型のレーザマシン「Quattro」(2kW)から「ENSIS-RI」に更新したことで、生産性も加工品質も大幅に改善しました。
「ENSIS-3015RI」でクリーンブース用の角パイプやアングルを加工する
「ENSIS-RI」はボルト穴のピッチを高精度に加工できるため、食品工場での据付作業の負担が軽くなりました。また、設計から手がけている強みを生かし、組立作業がしやすいように、ホゾ・ミゾを加工してはめ合い構造にするなどの工夫も行っています。
飲料用充填機に使われる板金チャンバー
「設計~製造~組立~施工にワンストップで対応しているため、最近は食品工場や製薬工場を建設から設備導入まで一括受注するスーパーゼネコンのお客さまが工場見学にいらっしゃいます。工場環境や衛生・品質管理の実態を見ていただくことで、信頼度も高まっています」と森本社長は語っています。
飲料用充填機を格納するクリーンブースの組立作業
3次元設計と品質管理能力
が強み
(有)ステンレスアート共栄(埼玉県富士見市、永友義浩社長)は、「SolidWorks」、「SheetWorks」などの3次元CADと構造解析・熱流体解析などの解析ソフトを駆使したCAD/CAM/CAEに早くから取り組んできました。製品開発の初期段階から機能性と製造性を考慮した設計提案を行うことで、精度の高い試作と迅速な量産化をサポートしています。
永友義浩社長
同社は、食品機械、環境機器、包装機械、半導体製造装置、航空機内装、医療機器、アミューズメント機器、オフィス用品・什器、建物内装品、建築金物など幅広い仕事を手がけ、一部は設計から組立配線、OEM生産まで対応しています。加工設備は、同時5軸制御マシニングセンター、2mの加工範囲を備えた立形マシニングセンター、平板・パイプ兼用ファイバーレーザマシン「ENSIS-3015RI+LSTRI-3015E」などの最新の機器を備え、機械加工・板金加工・フレーム加工・溶接・バフ研磨にも対応しています。
構造解析にも対応する「SolidWorks」、
「SheetWorks」などが並ぶ設計・プログラム室
現在は、埼玉県内にある製菓・製パン機械メーカーからの受注が好調で、売上全体の20%超を占めています。また、オーブンなどの製菓・製パン機械から、焼成後に冷凍保管する急速冷凍冷蔵庫まで、同メーカーがラインアップする大半の機種について、設計から板金加工、機械加工、電装組込を含む組立一式まで手がけています。
本社工場の板金工程
永友社長は「ワンストップで対応できるので品質が安定し、トレーサビリティーを確保して安定供給できる点と、お客さまの設計部門と連携して食品機械にとって最も大切な『コンタミネーション(異物混入)の排除』を徹底している点をご評価いただいています」と同社の強みについて語っています。
このほかにも複数の食品機械メーカーから受注していますが、いずれも設計段階からのターンキー受注となっています。中には、3次元モデル作成後に熱流体解析で水の流れと温度分布をシミュレーションし、商品化した事例もあります。同社は2017年6月に、航空宇宙分野の品質マネジメントシステム「JIS Q 9100」を取得しており、「設計から完成品までワンストップ対応できる当社の総合力と、『JIS Q 9100』に基づく品質管理能力に対して、高い評価をいただいています」(永友社長)としています。
オーブンをはじめとした食品機械の多くは
電装組立まで一式で受注している
ワンストップ対応のニーズが
高まる傾向
現在は分野を問わず、設計から加工、アセンブリーまで、ワンストップ対応を求められる傾向が強くなっています。
その中でも「食の安全・安心」「衛生設計」「コンタミネーション排除」を大前提としている食品機械の分野は、ほかの分野以上に、ワンストップならではの最適なモノづくり提案と品質管理能力が評価される傾向にあります。
食品機械の高付加価値化と、食品機械のサプライヤーに多かった小規模事業者の“退出”が進むことで、この流れはますます加速すると考えられます。
記事:マシニスト出版