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業界ウォッチ

2022.05.18

冷凍・空調機器業界

温暖化・感染症で変化する
冷凍・空調機器市場
~ノンフロン対応と
高まる空気質への関心~

2022年度は2021年度並みの需要と予測

冷却技術の応用により「空気調和(空調)」 と「冷凍冷蔵」を実現する「冷凍・空調機器」の市場は、コロナ禍により大きな影響を受けました。

冷凍・空調機器市場の製品構成(台数) 冷凍・空調機器市場の製品構成(台数)

出典:日本冷凍空調工業会「冷凍空調機器の国内需要統計」(2022年2月)の2021年度見込み(台数)よりマシニスト出版作成

日本冷凍空調工業会によると、「家庭用エアコン」の2020年度の出荷台数は、特別給付金支給や在宅勤務の拡大が追い風となり、年度ベースで初めて1000万台を超え、過去最高の出荷台数となりました。2021年度はテレワークの普及で伸びが期待されていましたが、2020年度の反動で8.3%の減少、2022年度も1.4%減と見込まれています。

業務用機器は、「業務用エアコン」に代表されるように、2020年度は投資の先送りや現場施工・営業活動の停滞などで大きく減少。2021年度・2022年度とゆるやかに回復へ向かっています。

2022年度の展望について同工業会は「引き続き新型コロナの影響を受けることになるが、ワクチン接種が進んでいること、治療薬などの効果が期待されることから、早い段階で前の状態に戻ることを期待している」として2021年度並みの需要を予測しています。

「冷凍冷蔵ショーケース」はV字回復

板金製品が多く使われる業務用機器は、全体的に回復ペースがゆるやかですが、中にはひときわ好調な製品もあります。

室温変化の少ない業務用の換気システム「全熱交換器」は、コロナ禍による換気ニーズを受け、2020年度以降3年連続で増加する見込みです。特に2021年度の出荷台数は、調査開始以来、最高の伸び(前年比14.4%増)となりました。

また、「冷凍冷蔵ショーケース」は、巣ごもり需要・テイクアウト需要によって食材・食品の低温保存へのニーズが高まり、 2021年度には早くもコロナ前を超える水準へとV字回復を果たしました。業績好調なスーパーマーケットなどの改装需要、コンビニエンスストアの改装案件、ドラッグストアの郊外出店などが重なり、今後も好調が持続するとみられます。

「冷凍冷蔵ショーケース」や低温物流倉庫などの低温設備を手がける中野冷機(株)は、2021年度(1-12月)の「ショーケース・倉庫事業」が前年同期比16.3%増となりました。フクシマガリレイ(株)は、2021年10-12月期の「冷凍冷蔵ショーケース販売」が前年同期比24.4%増、「大型パネル冷蔵設備販売」が同26.7%増となり、通期業績予想の上方修正を行っています。

主要な冷凍・空調機器の出荷台数推移 主要な冷凍・空調機器の出荷台数推移 主要な冷凍・空調機器の出荷台数推移

出典:日本冷凍空調工業会「冷凍空調機器の国内需要統計」(2022年2月)よりマシニスト出版作成

「室内空気質」への関心が高まり
空気清浄機が好調

「空調機器」のトレンドとしては、 「室内空気質」(IAQ:Indoor Air Quality)への関心の高まりが挙げられます。 コロナ禍よって室内で過ごす人々が増え、また、健康維持に対する注目度が高まっていることで、「室内空気質」への関心が高まり、2020年度は「空気清浄機」の出荷台数が大幅に増えました。

空気清浄機の国内出荷台数推移 空気清浄機の国内出荷台数推移

出典:一般社団法人日本電機工業会統計資料

「室内空気質」とは空調/環境関連の業界で使われる用語で、温度・湿度・二酸化炭素・清浄度・気流などについて、人を取り巻く「空気の質」を健康や快適さの視点から評価なってきました。このような環境の変化の下、空調関連機器も、暑さ寒さによる不快な温熱感の解消という機能の提供だけでなく、安全・安心で良質な空気質の提供まで求められるようになっており、新たな市場創出の期待が高まっています。

①空気質にこだわる公共交通機関・商業施設などへの新規需要が顕在化し、顧客層がグローバルで拡大する可能性
②空気質の健康への影響に関するさまざまなデータの収集・解析をすることを通じて、未病・予防分野で人々の健康に貢献するヘルスケア事業への領域拡への可能性
などが模索されています。そのため、空調機メーカーは空調機器の販売だけではなく、サービス/ソリューション事業を強化する動きも見せています。

ノンフロン対応が求められる
冷凍冷蔵機器

「冷凍冷蔵機器」の分野では、20年以上前から「フロン」の使用削減に取り組んでいます。フロンは二酸化炭素の100~1万倍という強力な温室効果があり、オゾン層の破壊や地球温暖化など、環境に悪影響を及ぼすことが確認されています。日本でもフロン類の排出を抑制し、地球温暖化の防止やオゾン層保護に貢献する目的で、フロン排出抑制法の改正(2020年4月1日施行)が行われました。

冷凍空調機器に多く使用されてきた「フロン」はフルオロカーボンの総称で、「特定フロン」(CFC、HCFC)および「代替フロン」(HFCs)が「フロン類」と呼ばれています。

モントリオール議定書で先進国では2020年に「特定フロン」が全廃となり、「代替フロン」も2036年までに生産量の85%が削減される予定となっています。そのため、冷媒にフロンを使用しない「省エネ型ノンフロン冷凍冷蔵ショーケース」などの普及を後押しする補助金制度などが国や東京都などで開始されています。

フロンを使わない自然冷媒の冷凍冷蔵ショーケースは、補助金なしだとフロンタイプの2倍ちかい金額になることから、これまではなかなか普及が進みませんでした。しかし、大手企業に気候変動対策が強く求められている今、国・自治体の補助金が後押しするかたちで普及にはずみがつくと期待されています。

モントリオール議定書キガリ改正(注)の内容
  先進国※1 途上国第1グループ※2 途上国第2グループ※3
基準年 2011-2013年 2020-2022年 2024-2026年
基準値
(HFC+HCFC)
各年のHFC生産・消費量の平均+HCFCの基準値×15% 各年のHFC生産・消費量の平均+HCFCの基準値×65% 各年のHFC生産・消費量の平均+HCFCの基準値×65%
凍結年 なし 2024年 2028年※4
削減
スケジュール※5
2019年:▲10%
2024年:▲40%
2029年:▲70%
2034年:▲80%
2036年:▲85%
2029年:▲10%
2035年:▲30%
2040年:▲50%
2045年:▲80%
2032年:▲10%
2037年:▲20%
2042年:▲30%
2047年:▲85%
  • ※1:先進国に属するベラルーシ、露、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタンは、規制措置に差異を設ける(基準値について、HCFCの参入量を基準値の25%とし、削減スケジュールについて、第1段階は2020年5%、第2段階は2025年に35%削減とする)。
  • ※2:途上国第1グループ:開発途上国であって、第2グループに属さない国
  • ※3:途上国第2グループ:印、パキスタン、イラン、イラク、湾岸諸国
  • ※4:途上国第2グループについて、凍結年(2028年)の4〜5年前に技術評価を行い、凍結年を2年間猶予することを検討する。
  • ※5:すべての締約国について、2022年、及びその後5年ごとに技術評価を実施する。

出典:環境省 フロン対策室

注:モントリオール議定書「キガリ改正」 とは2016年にルワンダのキガリで採択された同議定書の改正案

「ノンフロン化」を目指す小売業界

コンビニ大手のローソンは2019年、「ローソン慶應義塾大学SFC店」で、使用する要冷機器をすべてノンフロン化した「完全ノンフロン店」を実現しました。

同店舗が採用したのは、別置型機器がパナソニック(株)くらしアプライアンス社製のCO2冷凍冷蔵機と扉付きCO2冷媒要冷ケース。内蔵型機器は、ホシザキ(株)が開発したプロパン(R290)採用の業務用冷凍冷蔵庫(6枚扉)と業務用冷凍庫(2枚扉)、そしてイソブタン(R600a)採用の製氷機およびコールドテーブルでした。同店舗は非24時間営業店舗のため、配送荷受け用として使用する温度管理機能付き保冷庫(1枚扉、2台)についてもプロパン(R290)採用の機器を導入しました。

コンビニ業界では「ノンフロン化」― 省エネ性を含めた環境負荷の低い業務用冷凍機器の導入が進んでいますが、今後こうした動きはコンビニ以外の百貨店、スーパー、ドラッグストアなどでも進むことが考えられます。

2019年11月に東急百貨店が渋谷でオープンした大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア」。その地下2階にある東急フードショーエッジの区画「HEAD LINE」に国内初のCO2水冷式冷凍機内蔵型ショーケースが7台設置されました。

納入したのはパナソニック(株)くらしアプライアンス社とハマ冷機工業(株)の2社。両社は東急百貨店と連携し、経済産業省の「代替フロン等排出削減先導技術実証支援事業」という自然冷媒機器導入にともなう技術的な課題や運用面の課題を解決するための実証試験を支援する補助金制度に「CO2冷凍機システムの適用研究」を提案、採択され、1年で開発しました。

「炭化水素系冷媒」に注目が集まる

ノンフロンの自然冷媒に関しては長らくCO2冷媒が中心でしたが、最近は「炭化水素系冷媒」の可能性が注目されています。業界ではホシザキ(株)が自然冷媒である炭化水素系冷媒を採用した内蔵型機器の開発に成功しています。

炭化水素系冷媒はプロパンやイソブタンなどの可燃性のある冷媒で、安全対策に対する課題解決が必要となるため、これまで国内メーカーは商品化に消極的といわれてきました。しかし、冷熱応用システムメーカーによって「炭化水素を用いた冷却装置用凝縮器ユニット」が開発され、そうしたユニットを活用する動きが目立ち始めています。ノンフロン機器の導入率向上のため、今後も各機器に適したノンフロン冷媒によるバリエーションの拡充が進むものと思われます。

日本の温室効果ガス排出量推移 日本の温室効果ガス排出量推移

出典:環境省 フロン対策室

以上のように、冷凍空調機器業界は地球温暖化・感染症対策という社会の変化に対応してビジネスの中身が大きく変わろうとしており、板金市場としての可能性もこれまで以上に高まっていくと思われます。

記事:マシニスト出版