厨房機器業界
インバウンドの回復鮮明で
「業務用厨房機器」の商機が拡大!

「業務用厨房機器」の売上高は
初の7000億円超え
日本厨房工業会が2024年度に実施した「業務用厨房機器に関する実態調査」によると、回答企業の業務用厨房機器の売上高は前年度比15%増の7123億円となり、初めて7000億円を超えました(グラフ1)。

※「機器単品販売」「設備工事を伴う機器販売」「他の厨房事業」を含む
※出典:日本厨房工業会
注意点として、この調査は同工業会が毎年8~10月に実施しており、会員企業各社は直前営業年度決算時の実績を回答します。そのため、「2024年度調査」の内容は、前年の営業年度(実質2023年度)の実績となります。また、厨房機器メーカーの決算月がそれぞれ異なるため、営業年度の期間には一貫性がないといえます。
これを踏まえて、2021年度調査(実質2020年度実績)ではコロナ禍の影響により前年比12%減と大きく落ち込みましたが、その後は行動規制の緩和に伴い3年連続で増加しました。特に、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類へ移行したことで外食産業の回復が加速し、2024年度調査(実質2023年度実績)ではコロナ前の水準を大きく上まわる結果となりました。
回復の背景①:
脱コロナとインバウンド需要
業務用厨房機器の主要市場である外食産業の売上高は、2022年から2024年まで3年連続で増加しました(グラフ2)。人流回復やインバウンド(訪日外国人)需要の伸長によよって外食ニーズが高まり、原材料費・エネルギー価格・人件費などの高騰に伴う値上げも売上高全体を押し上げました。

※出典:日本フードサービス協会
特にインバウンド需要の伸長は目覚ましく、2024年の「訪日外客数」は3687万人にのぼり、コロナ前の2019年(3188万人)を大きく上まわって過去最多となりました(グラフ3)。旺盛なインバウンド需要を背景に、都市部を中心とする商業施設や店舗、空港・鉄道駅など、人が集まる場所へ向けた投資が活発化。その一環で業務用厨房機器の市場も回復が鮮明になっています。

※出典:日本政府観光局
回復の背景②:人手不足対応
業務用厨房機器の需要回復の背景には、「外食市場の回復」という需要側の側面以外にも、「人手不足への対応」という供給側の側面もあります。
外食産業では「非正社員」が就業者の多くを占め、店舗運営を支えてきました。しかし、「飲食店」の「非正社員」の人手不足割合は「人材派遣・紹介」に次ぐ2番目で、引き続き高い水準で推移しています(グラフ4)。2023年4月をピークに減少傾向にありますが、その要因としては、コロナ禍で減少した非正社員の数が足元で回復していること、スポットワークの普及、自動化・DXの進展などが挙げられています。
「飲食店」の現場では、人手不足だけでなく人件費の高騰や人材の多様化も加速していることから、自動化・デジタル化・スキルレス化へ向けた活発な設備投資は今後も継続すると見られます。

※出典:帝国データバンク
人手不足に対応する厨房機器
こうした状況を受けて、経済産業省・中小企業庁が2024年度から実施している「中小企業省力化投資補助事業」(補助率1/2以下、補助上限額1500万円)では、「飲食サービス業」を対象とする製品カテゴリーが登録されています。
「飲食サービス業」向け製品カテゴリーの例
- 清掃ロボット
- 配膳ロボット
- スチームコンベクションオーブン
- 自動フライヤー
- 券売機
- 自動精算機(一部セルフレジを含む)
このうち業務用厨房機器に分類されるのは、「スチームコンベクションオーブン」と「自動フライヤー」。中でも加熱調理(焼く・蒸す・煮る・炊く・炒めるなど)の自動化・時間短縮・スキルレス化に貢献する「スチームコンベクションオーブン」は、外食産業の人手不足や人材多様化に対応する製品として、これまで以上に注目されています。

スチームコンベクションオーブン
※ラショナル・ジャパンのプレスリリースより
また、近年はスタートアップを中心に、調理や洗い場の作業を自動化するロボットソリューションの提案が活発で、大手厨房機器メーカーとスタートアップのコラボレーション事例も目立っています。
2025年2月に開催された「厨房設備機器展」では、調理ロボットのスタートアップTechMagicが、フライドポテト調理ロボット「F-Robo」や炒め調理ロボット「I-Robo2」を出展し、注目を集めました。「F-Robo」はケンタッキーフライドチキンと共同開発しており、食材供給・揚げ・軽量袋詰め・整列保管までの一連の作業を自動化します。「I-Robo2」は大阪王将などですでに導入されており、調味料軽量・調理・洗浄までの一連の工程を自動化し、多品目の炒め料理を再現します。

TechMagicのフライドポテト調理ロボット
「F-Robo」
回復へ向かう外食産業と、深刻化する人手不足を背景に、今後はこうしたロボットソリューションが存在感を発揮していくことになりそうです。
今後の市場動向:
需要は底堅いが予断を許さない
大手厨房機器メーカー各社の決算資料を総合すると、2025年度以降の業務用厨房機器市場については、「インバウンド消費による需要や、人手不足を背景とした省人化ニーズは引き続き底堅い」としながらも、エネルギー価格や原材料価格の高騰、円安の長期化、物価上昇による個人消費の停滞(節約志向・低価格志向の高まり)、深刻な人手不足などの不確定要素が多く、「予断を許さない状況が続く」としています。
実際、外食産業の回復ペースは2024年に減速に転じており、さらに建築費・賃料・人件費の高騰によって、大手外食チェーンの国内出店計画が下振れするなどの影響も出ています。同じく、大手厨房機器メーカー各社の売上高予想も2ケタ増から微増へとペースダウンし、上向きではあるものの踊り場を迎えつつあるといえるでしょう。
業務用厨房機器は板金部品の使用割合が高く、板金業界に与えるインパクトも大きいことから、今後の動向が注目されます。
記事:マシニスト出版