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業界ウォッチ

2021.09.08

好調続く工作機械業界

内需は補助金効果、外需は活況な中国経済と欧米の経済回復

一般社団法人日本工作機械工業会(日工会)が発表した2021年1~6月期の受注額は、前期比+42.8%、前年同期比+71.2%の7,021億円となり、新型コロナウイルスがまん延する前の2019年1~6月(6,819億円)を上回りました(図1)。

工作機械受注額グラフ
図1 工作機械受注額

出典:一般社団法人日本工作機械工業会

半導体製造装置関連での活発な投資が継続しているほか、ロボットや搬送機等の自動化関連、射出成形機や油空圧機器等の産業機械、各種金属製品など、多様な分野で需要が喚起されています。また、6月18日に第1次公募分の採択結果が発表された「事業再構築補助金」による需要上乗せ効果も挙げられています。

暦年上期の受注額が7,000億円を超えたのは、2018年の9,640億円以来3年ぶりです。また、半期ベースでの外需比率は69.9%で、昨年下期から3.6%増加するとともに、2010年上期の69.5%を上回り、11年ぶりに過去最高を更新しました。
今後の見通しについて、内需では事業再構築補助金による押し上げが注目されています。この補助金は予算額が1兆1,485億円に上る大型措置であり、6月18日に採択された第1回公募分に関して東京商工リサーチが採択件数8,016件のうち東京商工リサーチ社データベースに登録されている7,043件を分析すると、製造業界は2,307件(32.7%)を占めています。第5次程度まで公募が行われるとの見方があるのと、ものづくり補助金など、他の措置もあるため、補助金効果で年度全般にわたって需要の上振れ効果が期待されています。

また、受注額の70%弱を占める外需に関しては好調な中国経済の先行きが懸念されています。中国市場全体としてみれば、3月に行われた全人代での活動報告でも、「中国製造2025」に象徴されるように財政政策の正常化とともに、国内産業の強化や強大な国内市場の形成を目指し、経済の持続的で健全な発展を期するとの方針が示され、これまでよりペースが緩やかになるとしても、高い受注水準が当面持続すると見られています。また、ワクチン接種の進展を受けて、欧米では着実に経済の回復が進んでおり、これらの動向を総合すると外需は引き続き高水準での受注が続くと見られています。内需、外需とも現状、あるいはそれ以上の受注水準を維持すると想定されることから、2021年の工作機械受注は2017年実績並みの1兆5千億円を上回る水準になると推測されています。

半導体製造装置や自動車関連の需要に期待

業種別では、2023年度まで好調が持続するといわれる半導体市場向けの製造装置業界への期待が大きく、また、自動車関連需要の先行きも注目されています。EVシフトの加速や自動運転—いわゆるCASEに対応してエンジン部品の加工用設備については慎重な見方も出ています。特に欧州がHV、PHVを含めた車を2035年以降は認めないとする発表を行ったことから、一気にEV、FCV(燃料電池車)へ移行する動きが垣間見えています。そうなれば10,000点に及ぶ自動車部品が不要になり、部品業界で100万人以上の雇用が喪失するといった悲観論も出ており、こうした動きが工作機械需要の下振れリスクと考えられています。しかし、2021年、2022年というレンジでは工作機械需要を引き下げるほどにはならず、自動車関連需要は一度動き出せば内需全体への波及効果が大きいだけに、その発現に期待できると考えられます。

半導体

工作機械向け板金のトレンド

工作機械向けの板金では、スプラッシュカバー、テレスコピックカバー、オイルパン、チップコンベア、クーラント処理装置、ATCカバーなどの需要も、引き続き拡大が見込まれている。
最近はデザインカバーへの要求が増えており、意匠効果の高いステンレスなどの材料を使うケースも増えている。
また、切削工具材質の硬度,靭性などの向上により、2万回転以上の高速加工や重切削加工が増え、切りくず処理対策から高速クーラントを使ったり、ドライ切削で切削油剤を使用しない加工が増えており、作業環境をクリーンに維持するためにも、スプラッシュカバーの気密性やデザイン性が求められ、溶接ビードが少なく、滑らかに全周溶接できるファイバーレーザ溶接が多用される傾向にあります。

工作機械

さらに、4′×8′、5′×10′の定尺材からのシート加工が増え、さらに、外周切断から穴あけ、成形、タップ加工をワンクランプで加工する複合加工が一般化しつつあることから、ファイバーレーザ複合マシン、ファイバーレーザ溶接ロボットなど、生産性を高めるマシンを導入するサプライヤーが増えています。

工作機械業界の競争力強化を後押しする設備導入

工作機械カバー、フレームなどの仕事を受注する板金サプライヤーで、ここ数年のトレンドがファイバーレーザ複合マシンやファイバーレーザ溶接機の導入です。

最近は工作機械のコモディティ化が進み、インド・中国・韓国・台湾との競争も厳しさを増しており、メーカーからのコストダウン要請が強まっています。

例えば、大手工作機械メーカーからマシニングセンタなどのフレームや工作機械カバーなどを受注しているお客さまは、5′×10′の定尺材に対応する10段4列の自動倉庫と連動したファイバーレーザ複合マシンを、テイクアウトローダー付きの自動化ラインとして導入し、夜間稼働にも対応できるように設備力を強化しました。
同社はフレームなどの製缶製品から板金カバーを一式で受注、塗装までを一貫生産できるように設備力を強化することで付加価値生産性を向上し、お客さまからの高い信頼を勝ち得ています。

自動化ライン

また、工作機械カバーや産業機械カバーなどを受注しているお客さまでは、溶接工程にファイバーレーザ溶接ロボットを導入し、機械カバーなどの溶接を行うサプライヤーも目立っています。
ファイバーレーザ溶接は、これまでの半自動やTIG溶接に比較し焼けやひずみの少ない溶接ができることで、焼け取りやひずみ取りの作業を軽減し、大幅に工数を削減することでコスト競争力を高めています。
さらに、ファイバーレーザのCW(連続)発振のレーザビームで全周溶接することで、気密性の高いスプラッシュカバーが製作できるため、意匠性の高いデザインカバーなどの製作には最適という評価も得られています。

ファイバーレーザ溶接

この様に、工作機械業界が堅調な中で板金サプライヤーの設備投資意欲が増している事例も多く、今後も活況を維持していくと考えられます。

記事:マシニスト出版