医療業界
高齢化とヘルスケアへの関心の高まりで
医療・医用機器業界の成長が続く

2028年まで国内生産は
年平均成長率1.4%
みずほ銀行が発表した「日本産業の中期見通し」によると、医療機器の国内需要は、2023年が前年比1.2%増の4兆4210億円、2024年が同3.0%増の4兆5540億円と予想されています。2028年は5兆560億円で、2023年から2028年まで年平均成長率2.7%で推移すると見込まれています。
医療機器の国内生産は、2023年が前年比3.5%増の2兆6580億円、2024年が2.1%増の2兆7140億円と予想されています。2028年には2兆8490億円で、2023年から2028年までの年平均成長率は1.4%と見込んでいます。


※出典:みずほ銀行「日本産業の中期見通し」
新型コロナウイルス感染症
(COVID-19)の感染拡大が転機
2019年12月に流行した新型コロナウイルス感染症への対策は、当初はPCR検査が主で、検査キットやそれを分析する検査装置が大量に必要になりました。ほかにも、重症化した患者の治療に用いる人工心肺装置やECMO(体外式模型人工肺)、人工呼吸器、隔離した部屋でも診察できる移動式のX線画像診断装置などに対するニーズが高まり、政府も生産や購入に対する補助金、診療報酬上の特例措置を創設しました。これによって医療機器メーカーは、これらの機器や装置の量産化・増産を推進し、医療機器業界では「コロナ特需」が発生しました。
その後、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴う診療報酬上の特例措置や補助金の縮小で、一部機器への投資が抑制されました。「コロナ特需」の終息により、短期的には需要が軟調に推移する機器・装置も多く、一部機種では在庫が増え、生産調整が行われました。
しかし、中期的には全体的にコロナ前の水準に戻り、成長へ向かうと見られます。後期高齢者のますますの増加、健康寿命の延伸に対する医療ニーズの高まり、病院の医療スタッフ不足の深刻化などにより、運営の効率化や診断支援(AI診断支援ソフトなど)、治療支援(手術支援ロボットなど)のニーズが高まっています。また、病院の負荷を分散するため、診療所や在宅で使用可能な簡便・小型の医療機器の需要も高まってくると考えられています。
日本の医療を取りまく環境
医療を取り巻く環境は、決して楽観できるものではありません。
厚生労働省によると、2023年度に病気やけがなどの受診で医療機関に支払われた医療費の総額はGDP比8%弱の47.3兆円となっています。2022年度から2.9%(1.3兆円)増加し、3年連続で過去最高を更新しています。特に団塊世代が75歳以上の後期高齢者となることで、75歳以上の医療費が18.8兆円と4.5%増え、医療費全体に占める割合は39.8%になりました。75歳以上の1人あたり医療費は平均96万5000円と0.9%上昇し、75歳未満の平均(25万2000円)の約4倍となっています。
また、「令和4年(2022年)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」調査によると、20床以上のベッド数を備えた病院の数は8156施設で、前年から0.6%減りました。その一方で、歯科まで含めた診療所の数は17万2948施設で、前年を上回りました。
病院の数が減り続ける理由は、病院経営の難しさ。多くの病院長はドクターで、経営者でないため赤字経営に陥るケースが多く、半数の病院が赤字となっており、診療報酬の改定、医療従事者の働き方改革が進めば、赤字の病院がさらに増える可能性も指摘されています。
医療の課題を整理すると以下のようになります。
■ 日本は超高齢化社会 ― 「2025年問題」
高齢者の人数が急増しています。2025年には第1次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた「団塊世代」がすべて75歳以上となり、後期高齢者が日本の人口の1/4を占める超高齢化社会となります。2070年になると人口は8700万人に減少し、そのうち、15歳から64歳までの生産年齢人口は5割となり、65歳以上の人口は4割近くに達するとの予測もあります(グラフ)。こうした日本の人口の年齢別比率の劇的な変化により、社会構造や体制が大きな分岐点を迎え、様々な分野に影響を与えることが予想されます。


出典:国立社会保障・人口問題研究所
「日本の将来推計人口(令和5年推計)」・
出生中位(死亡中位)推計
■ ヘルスケアへの関心の高まり
医療の進歩とともに最多死亡原因であるガンも、今や治らない病気ではなくなっています。人生100年時代 ―健康寿命の延伸をはかるために、早期発見・早期治療に貢献する医療・医用機器が必要とされています。
■ 医療現場での働き手が減少
人手不足は医療業界が抱える深刻な問題で、過重労働が定着していたために、2019年に施行された働き方改革関連法の適用も、2024年4月に先送りされていました。少子高齢化の進展に伴い、医療の現場でも人手不足が懸念され、治療・診断の効率化に資する医療・医用機器が必要とされています。
また、医療従事者の人手不足に対応して、AIを活用した診断ソフト支援による検査、措置の迅速化、「ダヴィンチ」をはじめとした手術支援ロボットの導入など、医療の高度化がますます進むと考えられます。AIの活用や、新しい技術が生まれることで、早期発見・早期治療ができるようになるのと同時に、医療の質の格差がなくなります。その上、患者への検査・治療時の痛みなどの負担緩和、医療従事者の手間や負担が軽減され、トータルとして医療の質も向上すると見られています。
医療・医用機器の一般的名称は
4000以上

超音波診断装置の筐体/大永工業(株)(長野県埴科郡)
医療・医用機器は非常に範囲が広く、医療機関用から家庭用まで、装置・器具・材料など多岐にわたっています。
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、いわゆる「薬機法」により、機械器具・医療用品・歯科材料・衛生用品・プログラムなどの類別名称が定められており、国際医療機器名称の制度に基づき、日本で制定されている一般的名称は4000以上にもなっています。
医療・医用機器製品の製造・販売に関しては、国の規制要件を満たし、管理システムを備えていることを証明するために、厚生労働省の事前認証が必要になります。その際、医療機器のリスクに応じた4つのクラス分類があり、不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられる「クラス1」から、患者への侵襲性が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結するおそれがある「クラス4」までがあり、クラスに応じて認証条件が異なっています。
しかし、一旦認証を受けると耐用年数は3年から10年は認められているため、一般消費財や生産財と比較しても製品のライフサイクルが長く、モデルチェンジ、マイナーチェンジの頻度は少ないという特性があります。
日本の強み
経済産業省のもと、産学官の構成メンバーによりまとめられた「医療機器産業ビジョン2024」では、
- 医療機器産業の成長に向けたグローバル市場の獲得
- 実現に向けた戦略的取組(米国をはじめとしたグローバル展開へ踏み出す企業の創出/イノベーションを生み出す研究開発環境の構築)
日本のメーカーが強いといわれているのが画像診断装置。内視鏡分野では、オリンパス・HOYA・富士フイルム、超音波診断・CT・MRIでは富士フイルム・キヤノン・日立製作所などが上位を占めています。
また、検体(臨床)検査装置にあたる血液検査用器具も生産金額が上位になっています。2022年は医療機器全体で減少していますが、血液検査用器具は19.1%増加しました。コロナ禍も収束しつつあり、2023年度の検体検査の機器・試薬やサービス全体の売上は減少となりました。しかし、コロナ関連を除外した数値で見ると増加もしくは維持となっており、安定的と見て取れます。
さらに、検査システムがない病院の検体を扱う国内検査センター数(登録衛生検査所数)は現在993(2021年1月1日現在)で、各検査会社はどの地域でも迅速に検査を行えるように増設を進めています。これから先は、ヘルスケア・早期発見・早期治療に一役買う分野として期待されています。
記事:マシニスト出版