冷凍冷蔵機器業界
冷凍食品ついに1兆円突破!
「冷凍冷蔵機器」の押し上げが
板金加工業界の追い風に!
冷凍食品消費額が過去最高に
冷凍食品などの生産・供給に欠かせない冷凍冷蔵機器の市場が国内外で拡大を続けており、今後も安定した成長が見込まれています。
日本冷凍食品協会によると、2024年の日本国内の冷凍食品消費額は過去最高の1兆3018億円となりました(グラフ1)。単身世帯や共働き世帯の増加に伴い、調理が簡単で高品質な冷凍食品や惣菜などの「中食(家庭用)」需要が急速に高まっています。インターネット通販で生鮮食品や冷凍食品を購入する消費者が増えたことも、冷凍冷蔵機器の需要を押し上げる要因となっています。
グラフを見ても分かるとおり、冷凍食品の消費額は2019年までほぼ横ばいで推移していましたが、新型コロナウイルス感染症の猛威にさらされた2020年を境に大きく変化しました。
2020年は行動制限により外食の機会が減ったことで、「国内生産額(業務用)」(以下、業務用)が14%減と大きく落ち込んだ一方、巣ごもり需要や内食志向の高まりにより「国内生産額(家庭用)」(以下、家庭用)は18%増と大きく伸びました。
「業務用」は翌2021年から上向き、2023~2024年にはコロナ前の水準(3800億~3900億円)まで回復しました。一方、「家庭用」は2022年まで3年連続で伸び続け、コロナ禍が落ち着きを見せてからも大きな落ち込みはみられませんでした。2022年以降の「消費額」の伸びは食料品価格の高騰も作用していますが、コロナ禍をきっかけに起こった「内食」への消費スタイルの変化は一時的なものに留まらず、内食(家庭用)・外食(業務用)が拮抗するバランスで冷凍食品に対するニーズが定着しました。
主要な冷凍冷蔵機器の動向
― 右肩上がりで推移
冷凍冷蔵機器の代表例として、小売・流通産業では「冷凍冷蔵ショーケース」や「冷凍自動販売機」、外食産業や大量調理現場では「急速冷凍機(ブラストチラー/ショックフリーザー)」や「業務用冷凍冷蔵庫」、食品工場では「トンネルフリーザー」、物流産業では「冷凍冷蔵倉庫」、「冷凍冷蔵車」、「冷凍冷蔵運搬船」などが挙げられます。
これらの機器には板金加工部品が多く用いられており、板金加工業界にとっても成長が見込まれる分野として注目されます。
冷凍冷蔵機器を手がけている上場メーカーの業績を見ても、規模を問わずおおむね右肩上がりで推移しており、堅調さが伺えます。
厨房機器大手のホシザキ株式会社は、「製氷機」「冷蔵庫」が右肩上がりで伸びています。「冷蔵庫」は2024年度の売上高が1100億円を超え、2020年度から4年間で2.0倍に増加しました(グラフ2)。同社は2025年6月に米国の大手食品ショーケースメーカーを買収したほか、ベトナムやフィリピンでも食品機械・厨房機器・冷蔵設備などのメーカーや商社を買収し、中国の事業拠点を再編するなど、海外での事業拡大を加速させています。
※その他:食器洗浄機、ディスペンサ、
その他製品、保守・修理、他社仕入商品
※決算資料より作成
コールドチェーン事業を主力とするガリレイ株式会社は、ほぼすべての製品カテゴリーが伸長し、2021年度から2024年度までの3年間で売上高が1.4倍に増加しました(グラフ3)。2025年6月には、業務用冷蔵庫・製氷機などを製造する「岡山工場」に新配送センターをオープンし、製品収容能力を旧配送センターの1.5倍となる6000台以上に高めました。さらに、2026年12月には「滋賀第二工場」を稼働し、冷凍冷蔵ショーケースの生産能力を既存の工場と合わせて年6万台(約30%増)とする計画です。
※決算資料より作成
下表に、主要な冷凍冷蔵機器と、それを取り巻く事業環境・トレンドについて簡単にまとめました。外食産業・流通産業では、物価上昇による節約志向、エネルギーコストの上昇、原材料価格・人件費の高騰などで設備投資に慎重な姿勢も見られますが、おおむね堅調といえるでしょう。
| 主な冷凍冷蔵機器 | 事業環境とトレンド |
|---|---|
| 業務用冷凍冷蔵庫 |
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| 冷凍冷蔵ショーケース |
|
| トンネルフリーザー 急速冷凍機(ブラストチラー/ショックフリーザー) |
|
| 冷凍冷蔵倉庫 |
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人手不足と「食の安全・安心」
の課題解決に貢献
表にも示されていますが、冷凍食品などを消費する「需要側」だけでなく、工場・物流・厨房・流通などの「供給側」にも、冷凍冷蔵技術を積極的に採り入れる明確な動機があります。とりわけ、自動化・省人化、省エネ化、環境負荷低減、付加価値改善などを目的とした設備投資が引き続き活発です。
食品業界では人手不足がますます深刻化していますが、冷凍冷蔵により食品の長期保存が可能になることで、計画的な大量生産や長距離輸送を実現し、フードロス削減と労働負荷軽減にも貢献します。また、2021年から「HACCP(ハサップ)」が完全義務化され、食品の製造・加工・流通過程における厳密な温度管理が必須となりました。これにより、温度を正確に制御し、記録できる機能を持つ業務用冷蔵庫やブラストチラーの需要が高まっています。
人手不足への対応として最も象徴的な事例は、病院や介護老人保健施設(老健)などの給食施設で採用されている「クックチル方式」や「ニュークックチル方式」です。「クックチル方式」は、加熱調理した料理を調理後90分以内に急速冷却し、チルド(0~3℃)状態で保管して、提供直前に再加熱します。「ニュークックチル方式」は、「盛り付けた状態」で冷却・保管・再加熱します。学校給食や社員食堂と異なり、入院患者や老健入居者には三食提供する必要があります。調理員はこれまで、朝食を調理・提供するために朝4~5時に出勤する必要がありましたが、働き手がなかなか集まらなくなり、前日に調理・冷凍しておいて当日朝に再加熱・提供する「クックチル方式」が提案されています。
人手が足りず、「食の安全・安心」を担保するための衛生管理・温度管理が厳格になる中、食品の製造・加工・流通のすべてのプロセスで適時適量を実現するのはますます困難になっていきます。冷凍冷蔵機器は、こうした課題を解決するための強力な手段としても期待されています。
冷凍技術の進化と環境負荷低減
近年は冷凍技術の進化により冷凍食品の品質が向上し、それが飲食店や流通事業者の新たなビジネスを生み出しています。高級食材や名産品、これまで存在しなかった酒や寿司などの高品質な冷凍食品が登場し、注目されています。テクニカン、デイブレイクといった独自の冷凍技術を開発したスタートアップや新興企業が存在感を見せ、高級冷凍食品の専門店や専門コーナー、自動販売機もよく見かけるようになりました。
業務用冷蔵庫や冷凍冷蔵ショーケースなどは、電気料金の高騰を受け、インバーター制御などの省エネ性能が重要な選定基準となっています。また、国際的なフロンガス規制にともない、環境負荷の低い「自然冷媒(CO2、アンモニアなど)」への転換も加速しています。一般的には新規出店や設備更新(老朽化対応)のタイミングで自然冷媒製品への切り替えが検討されますが、近年は気候変動対策や企業の社会的責任の観点から「脱フロン」を積極的に推し進める事業者も現れています。
イオングループはその筆頭格で、2015年以降、新店舗すべてで自然冷媒製品を採用してきました。さらに2025年7月には、2040年度までに既存店舗を含むグループ全店舗で自然冷媒を用いる冷凍冷蔵機器へと切り替える目標を掲げました。2025年2月末時点で自然冷媒機器の導入台数は約5300台でグループ全体の約4%。これを2030年度までに約30%、2040年度までに100%に高める計画で、今後は15万台程度の冷凍冷蔵機器を順次導入することになります。
「日本式コールドチェーン(低温物流)」の普及拡大に期待
さらに、冷凍冷蔵機器のグローバル展開として期待されるのが、「日本式コールドチェーン(低温物流)」の普及拡大です。
国土交通省は2017年、「日ASEANコールドチェーン物流プロジェクト」を立ち上げ、東南アジア各国の低温物流インフラの改善支援に取り組み始めました。2024年12月には、これまで日本が主体となって提案・開発を進めてきた規格をもとに、企業間(BtoB)取引におけるコールドチェーン物流サービスに関する国際規格(ISO31512)が制定されました。この規格は、生産地や加工工場、倉庫、小売店や飲食店までの一貫した冷蔵冷凍輸送に加え、工場や倉庫、店舗での低温保管も対象としています。ISO制定を機に、日本政府は東南アジア各国に対して、ISO31512に基づく国内規格の策定を促していくことになります。
| 低温保管サービス (冷蔵・冷凍保管) |
低温輸送サービス (冷蔵・冷凍輸送) |
共通項目 | |
|---|---|---|---|
| 項目 |
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| 要求 事項 |
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日本では当たり前となっているコールドチェーンですが、新興国では物流網の整備が行き届かず、フードロスや健康被害が問題になっています。日本では「調理食品」が冷凍食品消費額の約86%を占めていますが、新興国で課題となっているのは農産物・水産物・畜産物といった「食材」で、円滑な流通が実現すれば人々の生活水準の改善も見込めます。
日本にとっては、農林水産物・食品の輸出拡大(2030年の輸出額目標5兆円)を目指すうえで、輸出相手国の低温物流インフラは極めて重要です。すでに日本の物流企業が相次いで東南アジアでの低温物流サービスに進出していますが、この動きが加速すれば、SDGsへの貢献や、日本の物流事業者、冷凍冷蔵機器メーカーなどのビジネス拡大につながる可能性もあり、注目されています。
国内外でますます重要性が高まる冷凍冷蔵機器
このように冷凍冷蔵機器市場は、国内における冷凍食品需要の定着を背景に、今後も拡大を続けていくと予想されます。「供給側」においても、人手不足やHACCPの完全義務化、フードロス削減といった課題を解決するうえで必要不可欠なインフラとなっています。
技術革新は高品質な冷凍食品を生み出して新たなビジネスチャンスを創出し、省エネ化や環境負荷の低い自然冷媒への転換も重要なトレンドです。さらに海外では、「日本式コールドチェーン」の国際規格化を追い風に、新興国の食料安定供給への貢献も期待されます。
冷凍冷蔵機器は「食」のインフラに留まらず、労働や環境といった現代社会の多様な課題を解決する鍵となり、ますますその重要性を高めていくと見られています。
こうした機器を支える板金加工部品の需要も増加傾向にあり、板金加工企業にとっても、今後ビジネスチャンスが広がる注目産業といえます。
記事:マシニスト出版