造船・船舶用機器
船舶需要が急拡大
―船舶用機器も中長期的な
成長が見込まれる

新造船需要が世界的に拡大
2024年の世界の「新造船竣工量」は2年連続で増加し、11年ぶりに7000万総トンを超え、新造船需要が世界的に拡大しています(グラフ1)。
世界経済の拡大に伴う海上輸送量の増加や、過去に建造された船舶の代替需要などによって、新造船市場は中長期的に拡大していくと見られます。2030年代には、2010年前後のピーク期に竣工した船舶の更新需要が見込まれ、船舶建造需要が年1億総トン規模まで増加するとの予測もあります。

※出典:日本造船工業会(同工業会がクラークソン
“World Shipyard Monitor”から作成)
英国の調査会社Clarksons Researchによると、2024年の世界の「新造船受注量」はCGT(補正総トン数)ベースで前年比34%増となり、過去17年で最高となりました。
これにより2024年末時点の「新造船受注残」(手持ち工事量)も大幅に増加し、DWT(載貨重量トン数)ベースでは、世界の船腹量(船舶が積載可能な貨物量の合計)の15%に達したとされています。
足もとの受注が好調に推移している要因としては、海上輸送量の増加だけでなく、紅海の情勢不安に伴うスエズ運河迂回ルート(喜望峰ルート)の増加、2023年の水不足に伴うパナマ運河の通航遅延と迂回ルートの増加といったトンマイル(輸送重量距離)伸長の影響なども挙げられます。
国内造船産業の手持ち工事量は4年分に迫る
世界の造船市場に占める日本のシェアは右肩下がりで推移しています(グラフ1・線グラフ)。日本の造船業は、1956年に英国を抜いて世界最大の造船国となって以来、約40年にわたり世界トップシェアを誇ってきましたが、1990年代に韓国、2000年代に中国が相次いで台頭し、現在は世界シェア第3位となっています。
中国は今や世界シェアの50%超を獲得しています。しかし、トランプ米政権が米国内に寄港した中国製船舶を対象とした手数料徴収を表明したことで、海運事業者が中国製船舶を敬遠する動きも見られ、予断を許しません。
日本の造船産業が受注量・生産量とも伸び悩んでいる背景には、過去の造船所の撤退や生産能力縮小、人手不足、船舶用機器の長納期化、インフレリスクなどの影響があります。操業水準の低下や船舶用機器の長納期化により、造船リードタイムが長くなる傾向にあります。また、鋼材や船舶用機器といった資機材高騰の動向が見通せず、慎重姿勢の造船所が選別受注を行っているとも報じられています。
それでも輸出船の手持ち工事量は増加傾向にあり、2025年3月時点では2024年の輸出船竣工量の4年分に迫っています(グラフ2)。国内の造船所は資機材の大部分を国内で調達しているため、造船所だけでなく、装備品・船舶用機器メーカーの仕事量も引き続き高水準で推移すると考えられます。

出典:日本船舶輸出組合(JSEA)
政府目標は「次世代船舶で
世界の主導権を握る」
島国の日本では貿易のほとんどを海運に頼ることになるため、国内海運事業者の船舶需要も堅調です。トランプ米政権が掲げる天然ガスの増産計画を受け、液化天然ガス(LNG)運搬船を増強する計画も進んでいます。日本国内では、物流危機によりトラック輸送がひっ迫する中、鉄道輸送や海上輸送への「モーダルシフト」が進んでいること、防衛費増額により艦艇の新造・修繕需要が高まっていることも好材料といえます。
また、政府は脱炭素化などへ向けた「次世代船舶」で世界の主導権を握る目標を打ち出しています。国土交通省は2024年7月、「2030年において、我が国海事産業が次世代船舶※の受注量におけるトップシェアを確保する」との目標を設定。アンモニア燃料船や水素燃料船、電気推進船や無人運航船といった新しい技術の開発を官民連携で推進しています。
「次世代船舶」とは、アンモニア・水素・メタノール燃料船、液化CO2運搬船、液化水素運搬船、自動運航船などを指します。日本の海運3社(商船三井・日本郵船・川崎汽船)はそれぞれアンモニア船などの次世代船舶の開発・建造計画を推進しており、造船所や船舶用機器メーカーも連携強化や設備投資に乗り出しています。
日本に限らず、造船産業の動向は国の造船政策の影響が色濃く反映されるため、中長期的な産業振興が期待されます。
船舶用機器の需要も右肩上がり

船舶装備品の中には、商船向けレーダーや船用液化ガスタンクプラントなど、日本メーカーが世界市場で高いシェアを占めている分野があります。また、「船舶用機器」に分類される発電機・配電盤・分電盤、中継器、ラック、配線ケーブルトレイ、船舶向けボイラー、舶用造水装置、汚水処理装置、船上焼却炉、空調機器、レーダー・通信機器、操舵室コンソールなどは、それぞれ板金・製缶部品が数多く用いられています。
ここからは、「船舶用機器」の部品加工を手がける板金・製缶企業2社をご紹介します。
1件のシリーズで大量受注が見込める
ケーブルトレイ
四国クレー(株)(愛媛県西条市、濵口保志社長)は、船舶用機器の板金部品の仕事が売上の大半を占めています。
「船内の動力は電気なので、船内には電気配線が縦横に走っており、配線ケーブルトレイが大量に必要になります。溶融亜鉛めっき鋼板を使って加工されるトレイの鋼材重量は、コンテナ船など大型船で40~50トンになります。造船所は船主から船を受注する場合、同じ仕様の船を5~6隻、多い場合は2ケタ単位のシリーズで受注するので、1件のシリーズを受注すると大変な数のトレイを生産する必要があります。ケーブルトレイのほかにも、中継器やラックなどを一式で受注することもあります。当社売上の30%を占める舶用電機メーカーの仕事は当分順調で、ほかにも造船以外の搬送装置などの引合いが多く、ここ数年は売上も右肩上がりが続いています」(濵口保志社長)。

四国クレー(株)の濵口保志社長
使用する材料の70%は鉄系で、溶融亜鉛めっき鋼板、電気めっき鋼板、酸洗材が多く、板厚は6.0mmまでが中心。残りの30%はステンレスで、耐食性が高いSUS304・SUS316が多く、板厚は6.0mm以下が中心となっています。

船舶用の配線ケーブルトレイ
船舶用ボイラー・船舶用造水装置・
船上焼却炉向けが好調
ボイラー、食品機械、サイン・看板、農林業向けモノレールなどの板金加工・製缶を得意とする(株)ワンズファクトリー(愛媛県松山市、天野靖之社長)は、2023年度以降、船舶用機器の仕事量が急速に増加し、3年連続での増収が見込まれています。
「コロナ禍では大きな影響を受けました。2021年度は売上が30%減となり、2022年度も大きく落ち込みました。しかし、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類へ移行してからは、船舶用機器や装備品の仕事が急激に増えました。受注・売上ともに2023年度、2024年度と伸び、2025年度も増加を見込んでいます」(天野靖之社長)。

(株)ワンズファクトリーの天野靖之社長
主力得意先のボイラーメーカーからは、船舶用ボイラーのケーシング、船舶用造水装置、船上焼却炉などを中心に、架台・フレーム・ステージ・階段手摺類などを受注しています。平板はSS400を中心に鉄系材料が70~80%を占め、板厚は4.5mm、6.0mmを中心に25mmまで取り扱っています。チャンネル、アングル、丸・角パイプなどの形鋼加工も多く、溶接・製缶の技術力に関しては得意先各社から高く評価されています。

板金・形鋼で製作したフレーム
中長期的な成長が見込まれる
船舶関連需要
造船所は西日本に多く、中でも瀬戸内から九州北部にかけて集中しており、船舶用機器のメーカーやサプライヤーもこの地域に多く分布しています。また、船舶用機器は、高い耐食性が求められる場合もあれば、船の振動の中でも機能を維持し続けるために独特の仕様・ノウハウが求められる場合もあり、地域性・独自性の強い産業となっています。
中長期的な成長が見込まれる船舶需要とともに、船舶用機器向け板金製品の需要拡大が期待されます。
記事:マシニスト出版