通信業界
次世代通信システム 5Gのこれから
5Gの本格的な商用サービスが開始
2020年4月から次世代移動体通信システム(5G)の本格的な商用サービスがスタートしました。
5Gは2010年時点の4Gに比べ、100倍のデータ通信速度、1000倍のデータ容量、超低遅延、多数同時接続を実現できます。その特性を生かすことで、モバイル機器での超高精細リアルタイム映像伝送はもとより、自動運転、建設機械・農業機械の遠隔操作、遠隔医療など、様々な産業分野のありようが劇的に変わり、あらゆるものがつながるIoTの基盤として期待されていました。モバイルキャリア(携帯電話事業者)のNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイル4社も相次いで商用サービスを開始しました。
当初は4G基地局を活用する
5Gには、キャリアの公衆網に接続する「パブリック5G」と、クローズドな空間でプライベートに利用できる「ローカル5G」があり、スタート当初の5Gの基地局展開を巡っては、モバイルキャリア各社とも、5G基地局をあらたに開設するよりも、4G/LTEのエリアと併用することを前提としてスタートしました。そのため、国内にある4G/LTE基地局は5G基地局としても転用されるようになりました。
これまで利用していた4G周波数帯のインフラをベースにエリアを確保しつつ、必要な場所に5G基地局を設置することにより、多くの既存ユーザーがいる都市部を中心にサービスが展開され、ニーズに応じてエリアが徐々に拡大されているのが現状です。そのため、今のところ対応する(実際にサービスが使える)エリアが限られていることなどが課題とされています。
下記の図は富士キメラ総研が2021年5月に発表した「5G通信を実現するコアテクノロジーの将来展望 2021」の調査で示した世界の5G基地局の割合を示すグラフです。5G通信のサービス開始などにより、各国が急速に設備投資を進めており、市場は堅調に拡大しています。
出典:富士キメラ総研「5G通信を実現する
コアテクノロジーの将来展望 2021」
総務省が2019年4月に認定した5Gの基地局開設計画によると、モバイルキャリア4社は2024年度までに5G基地局を国内に約7万局新規開設し、設置に伴う投資額は2024年度までに1兆6000億円が見込まれていました。これに対して政府も、5Gの普及に欠かせない基地局の整備を促進するために補助金や税制優遇などで支援しています。そうした後押しもあって、各モバイルキャリアも基地局開設計画の前倒しを発表、5Gの通信エリアの整備を急いでいます。
コロナ禍で
「デジタル田園都市国家構想」
が発表される
2020年4月以降の新型コロナウイルス感染拡大にともない、感染防止対策で行われた移動制限による巣ごもりで、在宅時間が増える等により動画視聴やテレワークの活用が進展、インターネットトラフィックは2021年5月集計では大幅に増加(前年同月比57.4%増)、それが月を追うごとに顕著になっていきました。
出典:「情報通信行政の最新動向」
総務省審議官竹内芳明氏講演資料
そこで政府は「デジタル化」によって、場所に関係なく仕事、医療、エンターテイメント、行政手続など様々なことを可能にし、接触機会を減らし、感染症対策にも貢献する社会実現を目指すとしています。
さらに、デジタル化はカーボンニュートラルにも貢献することから、デジタル化とグリーン化を成長のカギに、ポストニューノーマル時代の新しい日本を創り上げるための成長戦略として、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現を目指す柱である、「デジタル田園都市国家構想」を掲げました。
デジタル田園都市国家
インフラ整備計画で5Gを加速
同構想は、高齢化や過疎化などの社会課題に直面する地方においてこそ新たなデジタル技術を活用するニーズがあることに鑑み、地域の個性を生かしながら、地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現することで、地方から全国へとボトムアップの成長を図ろうとする考えに基づいています。
そして同構想の実現の前提として、どこにいても高速なネットワークに接続できる高度なICTインフラの整備、維持が重要と考え、光ファイバー、5G、データセンター、海底ケーブル等のデジタル基盤の整備が不可欠との前提で、2022年3月にデジタル田園都市国家インフラ整備計画が策定されました。
それを念頭に、2021年12月に総務省はモバイルキャリアに対して、今後の経済社会や国民生活にとって5Gは重要なインフラであり、デジタル田園都市国家構想を実現するため、都市と地方での一体的な整備が必要として、5Gを全国に展開する基盤として、5G高度特定基地局の整備を中心に取り組んできた方針を改めました。
そして新たに国民が5Gの恩恵を実感できるよう、5G高度特定基地局の整備に加えて、5G基地局の整備の加速による「人口カバー率」を2023年度までに95%に引き上げる目標達成を要請しました。具体的には5G基地局整備の加速化に関して、5G高度特定基地局および5G基地局の更なる整備を積極的に行うこと。2025年度末までの各年度の末日ごとの計画を作成、2022年3月11日までに提出すること。さらには提出した計画に関する整備状況について、半期ごとに報告することを要請しました。
2023年度中に人口カバー率
95%目指す
この要請に対応して新規参入で4Gのネットワーク整備に重点を置いている楽天モバイルを除くモバイルキャリア3社は、5Gのエリア拡大に向け積極的な投資を続けています。
NTTドコモは、5Gの基地局整備自体2万局を突破し順調に進捗をしていますが、人口カバー率での進展は他社より大きく遅れています。そこで、2022年春から、一転して4Gの周波数帯を転用して5Gのエリア整備を進める方針を打ち出しました。
具体的には、4G基地局のハードウエアを活用しソフトウエアの入れ替えだけで対応することで、工期短縮と低コストでの5G化を進めています。また、一部には4Gで用いられる周波数の一部を5Gが共用するDSS技術を活用して4Gの周波数帯を転用することを進めています。
NTTドコモの2021年度の設備投資総額は5481億円で、そのうち1/3の1800億円程度が5Gネットワーク向けと報じられています。2022年度も同水準を維持する見込みです。
ソフトバンクも4G向けに割り当てられている700MHz帯や1.7GHz帯などを5G向けに転用してエリア整備を急ぐ方針を示しており、2022年3月には5Gの人口カバー率が90%を達成したと発表しています。
ソフトバンクは2022年度も5Gに積極投資する方針を打ち出しており、コンシューマ事業と法人事業との合計で、4300億円の投資をすると発表しています。
KDDIもNTTドコモやソフトバンクと同様、4G向けの周波数帯を転用してエリア拡大を進め、2022年3月には人口カバー率90%を達成する計画を打ち出していました。しかし、半導体不足や、新型コロナの影響で基地局を建設する業者との契約が難航したことなどが原因で計画が遅れています。
KDDIは中期経営計画で、5Gを軸に金融、電力など、さまざまな注力事業を広げていく「サテライトグロース戦略」を打ち出し、そして向こう3年間で7000億円、1年当たり約2300億円を5Gに投資するとしています。
この様に、NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIのキャリア3社は、政府の「デジタル田園都市国家構想」に基づく5G基地局の整備の加速要請を受け、設備投資の前倒しし2023年度中の人口カバー率95%を目指しています。
5G関連市場が拡大
一方で産業界では5Gによる関連市場の拡大への期待がますます高まっています。
5Gは、①超高速モバイルブロードバンド(eMBB:最大通信速度20Gbps)に加え、②高信頼‧低遅延(URLLC:遅延時間1m/sec)、③多数同時接続(mMTC:100万個/1Km2)などの特徴があります。
このうちURLLCは、開発競争が進む自動車の自動運転や建設機械、農業機械、産業用ロボット、遠隔医療を可能にします。また、mMTCの実用化では、スマートファクトリーやスマートシティなどを実現するための実証実験が始まっています。5Gはデジタルトランスフォーメーション、Industry4.0、Society5.0を実現するためのインフラとしての期待が高まっています。
法人向け5G市場は
2026年まで年率54.3%成長が
見込まれる
IT専門調査会社IDC Japan(株)は、3月に国内法人向け5G市場予測を発表しました。
それによると、2026年の法人向け5G市場の市場規模を1兆841億円、2021年~2026年(以下、予測期間)の年間平均成長率を54.3%と予測しています。同市場は、パブリック5Gとローカル5Gの両方を含みます。
また、5G対応デバイス、5G通信サービス、ローカル5Gインフラストラクチャ、および5Gによって可能になるIT関連のアプリケーションに対する支出を対象としています。
出典:IDC Japan(株)レポート「国内法人向け5G市場予測」
ニュースリリース2022年3月
法人向け5G市場の成長の最大の要因は、4G以前の携帯端末および通信サービスの5Gへの移行です。今後、5Gサービスエリアの整備が進み、予測期間の中盤には5Gが概ね全国で使える状況になることで、法人市場でも5Gへの移行が加速すると予測しています。また、産業の現場でも5Gの導入が拡大すると考えられます。
その主な要因として、映像中継、自律運転、画像AI分析などの分野での5G導入拡大、5Gソリューションの低価格化と関連エコシステムの成長などが挙げられます。
特に、ローカル5Gの急速な低廉化、5G対応ゲートウェイ、5G対応カメラなどのデバイスの拡充、自動車への5G搭載などが、産業分野における5Gエコシステムの広がりと5Gソリューションの採用を後押しするとIDCではみています。
一方で、産業分野での5Gの普及には課題もあると指摘されています。それは2021年時点での取り組みは実証実験が中心で、企業の自前予算による商用導入が少ないという現状です。
しかし、2022年以降は商用導入を増やすとともに、協創活動によるさらなるユースケースの開拓や関連ソリューションの開発などによって、5Gの導入機運を高めていく必要があると指摘しています。
5G関連市場に板金の出番がある
これからを考えていくと、5Gとは通信インフラとして考えることよりも、アフターコロナの新しい日本を創り上げるための成長戦略として、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現を目指す「デジタル田園都市国家構想」を具現化するツールといえます。それによってあらたに創造される製品を作り出す基盤技術として、板金加工の出番があると考える必要があります。そして、このような5G普及への取り組みが加速することで、今後の板金業界の活気にもつながると予想されます。
記事:マシニスト出版