業界ウォッチ

2021.07.07

医療業界

中長期的な安定成長が見込まれる医療機器
~認証取得とロボット活用に注目~

今後成長が見込まれる産業のひとつ

2008年のリーマンショックを機に従来産業の海外シフトの動きが鮮明になってきた頃から、日本国内で中長期的に成長が見込まれる産業として「三品産業」(食品・医薬品・化粧品)を攻略することが、中小製造業の大きなテーマになってきました。医療機器はその筆頭であり、国・自治体の産業振興政策(医療機器産業クラスターや医工連携の促進)の後押しもあって、中小製造業のうち、特に精密板金・精密製缶を得意とする企業が経営の多角化と中長期的な成長を目指す際、真っ先にターゲットに挙がってきます。

医療機器が注目される理由はいくつかありますが、主なところでは

  1. 景気変動に左右されにくく需要が安定していること
  2. 国内市場・海外市場とも中長期的な成長が見込めること
  3. 海外シフトのリスクが比較的小さいこと
  4. 製品によってはプロダクトライフサイクルが7~10年間と長く中長期のリピート受注が見込めること

などが挙げられます。

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一般的に、医療機器はモデルチェンジの頻度が少なく、リピート率が高い反面、極端な多品種少量生産への対応が求められます。使用材料は、ステンレス(SUS304)、SPCC、SECCの薄板(3.2㎜以下)が中心で、外観は人にやさしいR形状が多く、高い外観品質 -特にキズや溶接ひずみへの対策が求められます。 また、様々な機器が収納されるため、バーリングやタップなどが多く、加工精度も求められます。

そのため、医療機器の板金サプライヤーの多くは、ブランク工程においてニブリング跡が発生せず自由形状に柔軟に対応できるレーザ加工、曲げや溶接ではリピート率が高いことからロボットを活用するケースが増えています。

中長期的な安定成長が見込まれる

みずほ銀行によると、2020年の医療機器の国内市場は前年比1.8%減の4兆3,179億円を見込んでおり、2020~2025年(5年間)の年平均成長率は2.3%と予想しています。

ほぼ毎年、右肩上がりで推移してきた医療機器分野も、2020年は新型コロナウイルスの影響を大きく受け、全体では前年比減となりました。その一方、人工呼吸器や画像診断装置(特にCT)、検体検査装置、生体情報モニタリングなど新型コロナウイルスに関連する診断・治療機器は、目に見えて需要が増加しました。また、医療・介護施設などで用いられる業務用空気清浄機などは、特需ともいえる状況が生まれました。

中期的には、高齢化の進展にともない、透析装置などを含む内臓機能代用器や、手術で使用する処置用機器、患者負担が小さい医療(低侵襲治療)に使われる血管用カテーテル、内視鏡などで堅調な需要が見込まれています。

また、あまり注目されていませんが、30~40歳代という比較的若い年齢層でも医療にかかるニーズは高まっています。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、人口1,000人あたりの「通院者数」は、2007年から2016年までの9年間で、「30~39歳」が10.4%増、「40~49歳」が8.6%増となっています。このことは、社会の成熟化が進むと全年齢層で医療ニーズは高まることを示唆しています。

医療機器の受注動向と見通しグラフ
医療機器の受注動向と見通し

出典:みずほ銀行「みずほ産業調査~日本産業の中期見通し」(2020年12月3日発表)

ISO13485などの認証取得が医療機器業界開拓のツールに

医療機器は、薬機法により「一般医療機器」(クラスⅠ)、「管理医療機器」(クラスⅡ)、「高度管理医療機器」(クラスⅢ・Ⅳ)に分類されています。この分類(クラス)は、人体に与えるリスクの大きさに基づいており、それぞれ規制の内容・度合いも変わります。

人命に関わる機器である以上、安全・安心を担保するための品質管理やトレーサビリティーが重視され、医療機器メーカーには医療機器製造販売許可・医療機器製造業許可や、医療機器の品質マネジメントシステムの国際規格ISO13485の認証取得が求められます。

医療機器メーカーに部品を供給するサプライヤーは、必ずしもこれらの認証取得を求められるわけではありません。医療機器の板金サプライヤーの多くは、こうした認証を取得することなく医療機器メーカーとの取引を成立させています。

しかし、近年は医療機器の分野でも、ユニットやサブユニットのかたちで ― ときには一部組立配線まで行って納めることが求められるようになってきました。サプライヤーに委託する範囲が広がるにしたがって、医療機器メーカーがサプライヤーにこれらの認証取得を求めるケースも出てきています。

医療機器分野の実績が少なく、新規参入を目指すサプライヤーにとっては、これらの認証を取得していることがひとつのアピールポイントになります。また、すでに医療機器の仕事を手がけているサプライヤーにとっても、新規得意先の開拓や既存顧客の深耕に取り組む際の強力なツールとして期待できます。

ISO13485の認証を取得 ― 信頼を高め、受注拡大へ

医療分野における認証取得とロボット活用の事例を見ていきましょう。

(株)平出精密(長野県岡谷市、代表取締役:平出正彦氏)は、中長期的な成長が見込まれる医療機器分野の仕事を開拓するため、2016年に同社・神明工場でISO13485の認証を取得しました。

ISO13485には、作業者の清潔さや製造・検査工程でのトレーサビリティーなど、医療機器特有の品質管理要件が盛り込まれており、これによって同社は医療機器の設計から製造、組立までのリスク管理ができるようになりました。この認証取得により国内外からの信頼を高め、受注を拡大するのはもちろん、認証取得のノウハウを地域の他社に提供することで、精密機器の製造技術で定評がある岡谷・諏訪地域を医療機器産業の集積地にしていこうとしています。

同社はこれまで、医療事故回避用の医療用注薬ピッキングシステム、バイオ実験装置、デジタルレントゲン画像処理装置、検体検査装置などで実績があります。 これらの医療機器部品の加工に、小物で複雑な製品を全自動で曲げ加工するベンディングロボットシステムや、ファイバーレーザ溶接システムなどを活用しています。 医療機器用ラックは衛生面に配慮し、滅菌処理が可能なオールステンレス製で、ファイバーレーザ溶接システムで精密に接合することにより、検査装置の搬送部やロボットにも対応できる高精度(±0.2㎜)設計を実現しています。

ステンレス製の医療機器用ラック

ステンレス製の医療機器用ラック

ベンディングロボットシステム「EG-6013AR」

ベンディングロボットシステム「EG-6013AR」
※撮影のために安全柵、パーテーションを外しています

画像診断装置にファイバーレーザ溶接を活用

三条精密工業(株)(新潟県三条市、代表取締役社長:丸山正晴氏)は、ファイバーレーザ溶接システム「FLW-3000ENSIS」を画像診断装置の制御装置のカバーと機構部品に活用しています。

同社はもともとYAGレーザ溶接機を活用し、小型・普及機の制御装置のカバー(SPCC・板厚1.2~1.6㎜)を中心に加工していました。しかし、得意先が小型・普及機の生産を海外へ移管したため、国内に残る大型・上位機種向けの仕事を新たに開拓。それに伴って、薄板のカバーだけでなく、制御装置の機構部品(SPCC・板厚2.3~3.2㎜)も手がけるようになりました。また、パーツ単位での受注が減少し、ほとんどがユニット単位での受注となったことで、溶接工程の重要性が高まっていきました。

「FLW-ENSIS」は板厚3㎜以上の製品でも深い溶け込みが得られることから、それまで人手をかけてTIG溶接で対応していた機構部品をロボット化でき、溶接品質も大きく改善しました。また、医療用画像診断装置の制御装置に用いられるフレームのパネル(高さ2m程度×長さ800㎜程度)をタップ溶接(断続溶接)する作業は、ファイバーレーザ溶接により、ひずみを最小限に抑えることで組み立てがスムーズになり、「ティーチングなどの段取り作業時間を含め、溶接作業時間は約1/3に短縮できました。」(丸山正晴社長)としています。

ファイバーレーザ溶接システム「FLW-ENSIS」

ファイバーレーザ溶接システム「FLW-ENSIS」

「FLW-ENSIS」でタップ溶接したフレームのパネル

「FLW-ENSIS」でタップ溶接したフレームのパネル

これらの事例からも、今後の医療機器分野の開拓には、ISO13485の認証取得とロボットシステムの活用がポイントになっていきそうです。

(参考記事)みずほ産業調査 Vol.66 | みずほ銀行

記事:マシニスト出版